最後の一粒 ~缶入りコーンポタージュ~
寒い日に駅のベンチでひと休み。
こんなはずじゃなかった。
ちょっと覗いただけだった。
何も無ければ良かった。
でも、僕は知ってしまった。
きみの存在を……。
僕は今、きみを見つめている。
きみから目が離せない。
僕は、きみを受け入れたい。
きみを僕の体で包んであげたい。
なのに、きみに僕は触れることすらできない。
きみは暗く狭い部屋の奥で動かない。
入り口が狭くて僕は入れない。
どうすればいい。
もう手遅れなのか。
あきらめるしかないのか。
すべて僕の責任。
こうなる事はわかっていた。
なのに、何もしなかった。
僕が満たされることだけしか考えなかった結果だ。
きみの事をひとつずつ、ゆっくり知るべきだった。
冷たくなったきみから目をそらす。
こんな事になるなら出会わなければ良かった。
満たされ、温もりのあるうちに振っておけば良かった。
僕はゆっくりと立ちあがり歩き出す。
僕はきみを捨てた。
真っ暗な穴の中に……。
きみと出会ったのは、寒い冬の朝。
駅のホームに並んだ自販機。
ボタンを押して携帯をかざす。
手にした熱い缶を両手で握ったり転がしたり。
僕はベンチに座って、缶を振った。
ふたを開けて味わいながら暖まる。
きみ達が僕の中へと入って来る。
そして、きみだけが残った。
最後の一粒。
~缶入りコーンポタージュ~
叩き落してやる! って感じのアクションものにもなりそうな優秀な飲み物。