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ちょっとアイさんや、まちんさい。取り敢えず古龍種とか162代目聖女とか、そこら辺の説明プリーズ。
『はい、畏まりました。
まずは古龍種から。古龍種は幼龍・成龍・そして古龍に神龍というように別けられ、そこに下位、中位、上位と分けられます。今回の邪龍は古龍の......大体上位に当たります。幼龍は発生から0〜200歳、成龍は201〜1000歳、古龍は1001〜2000歳となります。まあ神龍ともなればすべての個体が3000歳は有に超えます。とはいえ、神龍はもう世界に20体いるかどうか、と言った所でしょうか。
ちなみに魔物は歳をとる事に霊格が上昇し、強くなっていきますので、年齢を重ねた個体には注意してください。偶に【変異種】として年齢に合わない強さを持つ魔物も生まれますが、そんなものは滅多にいませんから。
次に聖女についてですね。聖女は【始まりの聖女】を初代とし、代々その力を受け継ぐ者達です。聖女の家系は必ず女が産まれ、その子が15の歳を迎えるとスキル【天啓】を習得し、【善神・アフラ・マズダの加護】と【聖女】の称号を得ます。
聖女は今代で334代目ですね。大体30年くらいの間隔で聖女は交代していきます。
あとは50人に1人程度の割合で先祖返りが産まれますね。初代聖女とほぼ同等の力を持っていますので、先祖返りの聖女は現人神として崇められることもあります。
ちなみに今代の聖女も先祖返りですよ。名前は......レティシア・メルリートですね。レティシアが個体名で、メルリートは初代聖女がマリア・メルリートだったので、それを引き継ぐ形で代々の聖女に与えられます。
説明としてはこれくらいでしょうか。なにか質問はございますか?』
龍種はわかったけど、竜種も方も同じ感じか?
『はい、個体数以外は同じです』
なるほど、ありがとアイ。
そういえば、成竜の闇天竜がSSなんだよな?なら古龍とか神龍はやっぱLとかMなのか?
『そうですね、古龍種は殆どがLランク、神龍は例外なくMランクですね。
古龍種でも古龍になりたての時は、成龍と同じSSランクになってます。まあ10年もすればLランクになりますけどね』
ふーん、なあアイ、俺って今ランクどんくらいの位置にいるんだ?
『そうですね......【擬態】時はその魔物のランクより1個上になりますが、スライム時だと......難しいですね。大体B+〜A-っと言った感じでしょうか?あくまでステータス面は、ですが。総合的にはA+は行くかと』
半月でもうそのレベルかよ......。
『いえ、いくら異世界人でも、半月でA+まで到達するのは不可能です。マスターが魔物を食べたからこそ出来たことです。このまま成長すればMランクも夢ではないですね。頑張ってくださいマスター』
んーガンバるー。まあ竜とやり合って死ななければなー。
『大丈夫ですよマスター。マスターならば楽勝......とは言わずとも、勝てますよ!』
その信頼はどっから来んのかねぇ......?ま、俺も死ぬ気はねぇし、殺られる前に殺ってやるか!行くぜ氷雷竜!首洗って待っとけよ!............まぁいつ行くかは分かんねぇけど。
『成竜の基本的ステータスは
《名前:
年齢:300
性別:雄
レベル:126
種族:竜種
筋力:2738
物理耐久力:3173
体力:2884
敏捷力:3197
魔力:4972
魔力耐久力:4917
スキル
【威圧 飛翔(+高速飛翔) 竜鱗(+部分竜鱗 全身竜鱗 竜鱗集中) 息吹(+拡散 集中) 身体強化 魔力変換(+治癒力 体力) 竜結界 魔力操作 気配感知 精霊感知 魔纏 魔術強化 属性魔術 治癒能力強化 物理耐性強化 魔術耐性強化 精神攻撃耐性強化 状態異常耐性強化 五感強化 痛覚軽減 衝撃軽減 自属性攻撃無効 暗視 遠見 人化 人族語理解】
称号
【魔物殺し 魔物の天敵 魔物の殺戮者 ヒト殺し ヒトの天敵 ヒトの殺戮者 獣殺し 獣の天敵 獣の殺戮者 竜 覇者 自属性の精霊に愛された者 】
とまあ、こんな感じですね。
称号があると、付随スキルがありますので、称号は多い方がいいですよ』
..............。
『マスター?どうかされましたか?』
...............アイ。
『はい』
強くね?
『強いですよ?でなければ最強種の一角に数えられません』
いやいやいや、無理じゃね?こんなん勝てねーだろ。逆立ちしても無理。ってかパラメータ1000超えてるし。
『マスター......。では、諦めますか?諦めて、ヒトのいる所に行きますか?
マスターは何のために、力を欲したんですか?』
....................。何のため、ねぇ......決まってる。あいつを助ける、そのためだ。約束したんだ、あいつに。絶対助けるって。どんな手を使ってでも助けるって。今ここで逃げたら、あいつを助けるのが遅くなるかもしれない。竜を喰えば、あいつを助ける為の力になるだろう。なら、俺のやる事は決まってる。
アイ。
『はい、マスター』
殺るぞ。さっさと終わらせる。
『畏まりました、マイマスター』
喰えば力が手に入る。相手が強ければ強いほどいい。なら強いヤツを喰らうだけだ。そのための準備は惜しまない。
待ってろよ、氷雷竜。お前を喰って、俺の望みを叶えよう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
さて、終わらせるって言っても今のままじゃ勝率は低い。アイが言うには、俺の溶解液が勝負の鍵みたいだ。竜の鱗に通用するかわからんが、アイは“叡智の星”に繋がっているし、そこから竜種の情報でも“視”たんだろう。そのうえで溶解液がキーを握ってるってんなら、どうやって溶解液を使うか、それをアイと考える。隙を作るのに使うか、それともトドメに使うか。相手は俺より格上、入念に作戦を立てて挑む。
『今のままじゃ勝率は1割も無いでしょう。山を越えて“闇天山”の魔物を捕食し、力を付けるのがいいと思いますが......』
なあアイ、さっきの竜のステータス見て【人化】ってスキルがあったんだが、それは?
『【人化】のスキルは文字通り、ヒトになることです。まあ見た目だけで、ステータスは何も変わりません』
ふん......俺ってスライムじゃん?外見は自由に動かせるんだよ。ならヒトみたいな形にすればある意味人化になると思うんだが......?
『そうですね......確かに理論としてはそうなりますが、実際にやってみないことには分かりませんね』
ならちょっとやってみるか。イメージは......向こうの俺でいいか。
......。
............。
......................。
むう、ムズいな。
『そうですか、形は......微妙ですね。何となく人型には見えますが、細かい部分がまだ荒いです』
うーん、パーツ毎にやってみるか?
......。
............。
ん、できた。
『これは......腕だけですが完璧ですね。指もシワも、綺麗に再現されてます』
10数年間見てきた自分の腕だし。でもこれなら行けるかもな。取り敢えず今はパーツで練習、慣れてきたら複数再現だな。
『はい。もし人型になれれば、使えないスキルから使えるモノが出てくるかもしれません。そうすれば勝機も上がるかと』
ああ、これからは常時どっかのパーツを再現しながらの生活だな。無意識でも維持できるようになりたい。
あとはやっぱ“闇天山”での狩りをするか。そっちならまだ喰ってない魔物もいるだろ。
『そうですね、再現は手伝えませんが、戦闘ならサポートができますのでお任せ下さい、マスター!』
ああ、頼りにしてるよ、アイ。
『っ!はい!』
なんか嬉しそうだな?まあいいか。アイ、早速だが“闇天山”への道は分かるか?
『はい、もちろんです!案内しますね』
そこからアイの指示に従って山を進んでいく。偶に魔物に遭遇するが、そいつ等は俺の胃袋に収まっている。喰った事がある魔物でも、少しはステータスが上がるので喰って行く。
1日かけて山を越え、“闇天山”に入っていく。ここからは魔物のランクがB+〜S+、下手をすればSSに届いているかもしれないらしい。
ってか前から思ってたけど、この山に生息してる魔物強くね?なんで?
『ここには竜の魔力が漂っていますので、その魔力に晒されている魔物は強くなりますね。最強種の魔力は他の魔物に影響を及ぼします。それに、ここには中級ですが星脈がありますので、それもひとつの原因かと』
星脈?龍脈じゃなくてか?
『他の星ではそうですが、この星では星脈ですね。星脈は星の血管のようなもので、星脈周辺は変異種や進化種が生まれやすいです。ですので、異常に強い魔物の生息地となっています』
へー、そんなとこだったんだ......ここ。俺よく生きてこれたな......。
『それはマスターが最初に食べたラーウスルプスのお陰ですね。あれは異常個体でしたので、通常よりもランクが高くB+、もしくはA-ですね』
えっ?あれそんなに強かったんだ......。
『はい。本来のラーウスルプスは【擬似雷化】ではなく、【纏雷】のスキルのはずですので。多分あの個体は群れから追い出されたのでは無いでしょうか?大きさも一回り大きかったですし』
ん?なんで追い出されんだ?普通は大きいのが強いと思うけど?
『恐らくですが、まだ幼い頃に群れの長に追い出されたのかと。長は群れで1番強くなければいけませんし、もし長の座から引きずり降ろされたら、群れから追放されてしまいますので、それを恐れてではないですか?』
ふーん、魔物の世界も面倒臭いのな。まあ俺にゃ関係無いけどな。でもまぁ、あの異常個体お蔭で今生きてるみたいなもんだしな。一応感謝しとくか。
『......マスター、それよりも』
んー、分かってるー。気配感知に引っかかってる。こいつは......デカいがなんだ?
『魔猪の1種ですね。パークルボアという名前で、体長は5mを超え、土属性魔術と牙での刺突、巨体を活かした突進、あとは番の存在に注意を』
あいよー。木の上からどんなんか見てからやり合うか。
20m先にいる猪を目指し、気配を殺しながら近づいていく。まあ猪には匂いでバレるかもしれないけどな。猪って犬より鼻がいいみたいだし。
『マスターは匂いませんよ?』
ありがと?って言っていいのか?
『いえ、そういう訳ではなく、マスターは無味無臭ですよ。身体の殆どが水で出来ていますので、匂いはしません』
そうだったんだ......知らんかったよ。なら行けるか。
猪から5m程度まできた所で木に登り、様子を伺う。ってか結構簡単に木に登れたな。吸着してるみたいだった。
『マスター、あの魔猪の様子が少しおかしいです。何かに怯えてるような......?』
怯えてる?何にだ?感知にはあの猪しかいないけど......。警戒はしとくか。
『そうですね、それがいいかと。出来るだけ早く終わらせてここから去りましょう』
だな、なんか嫌な予感がする。イベントフラグかな?
『何を言っているんですかマスター......』
こっちの話だ、気にすんな。それよりあの猪、背後がガラ空きだな。
『そうですね、あの様子を見る限り、警戒すべきは猪の前方にありそうですね。しかし、あそこまで露骨に警戒していれば、相手にもバレているかも知れませんね』
あぁ、後ろからさっさと殺るか。直ぐに逃げりゃ大丈夫だろ。
体内で溶解液を大量に作り、猪に向かって吐き出す。溶解液は猪の後ろ半分ぐらいを溶かし、動きを大幅に制限する。
プギィィィイィィイイィ!?
森に悲鳴が響き、猪が暴れ出す。そのせいで木々はなぎ倒され、地面がめくれ上がる。
そのまま死ぬのを待つのもいいけど、今回は【魔力纏体】のスキルを試したい。森の中だから火系統は止めとくとして、水・氷・風・闇のどれか。どれにすっかなー......闇とかやっぱかっこいいし、闇にすっか。
【魔力纏体】を闇で発動すると、身体中を黒いモヤみたいなのが覆いだした。傍から見るとヤバい奴だな......人型でやりてーっ。
厨二心を擽られながら猪に近づいていく。猪も俺に気づいたのか、コチラを見るとビクッと体を震わせる。その後に森の奥に目を向け、もう一度こちらを見て、
プギィー......。
となんとも哀愁漂う感じで全身から力を抜いた。死でも悟ったか。そう思いながら猪に触れる。
すると触れた端から黒いモヤが猪を侵食していく。なんだこれ?
『闇属性は死・破壊・腐敗などの効果を齎します。今回は侵食が発動したみたいですね』
今回はってことは、次は違う効果が出んのか?
『ただ纏わせただけならばそうなります。本来は効果を指定しますよ?簡単に言えば、魔術を纏う感じです』
なるほど......こうか?
『見た目はあまり変わっていませんね。今は......腐敗ですか』
ああ、触れたら腐るってのは効果が解りやすいと思うし。ってことでなんかないかな?木とかで試してみるか。
ズズッ......パキッ......パキパキッ
バキバキバキッ......ズゥゥゥンッ!!
ケホッケホッ、うえー、土埃が来た、最悪。ってかスライムに口とかあんのか?まあ効果は見れたし、良しとするか。しかし、凄いな。これで死とか纏ったら、触れたヤツ死ぬのか......危ねーな。
『レジストされなければですけどね。マスターよりレベルが高かったり耐性があれば、結構簡単に抵抗されますよ。それに死の纏は成功率も低いですし』
えー、そうなん?あんま使えないヤツですか......ガッカリだよ!
『そう言われましても......ッ!マスター!』
......ヤッベー、忘れてた。どうすっか、これ完璧に見られてるよな。やっぱ新技とかやる時は安全な所で、だよなー。
『マスター、思考放棄しないでください。今はこの状況をどうするか、ですよ』
分かってるって、ちょっと位いいじゃん。アイはせっかちだな。
『マスター?後でお話が......』
やばっ、アイがキレた?今はそれどころじゃないから後でな!
『むう、まあいいです。それよりどうしますか?』
んー、逃げんのは無理っぽいし、やっぱ殺るしかないかな?ただまぁ勝てるかなー?結構キツそう?
『そうですね、多分Sランクは超えてますね。ランク的には負けてますが、マスターの知能と私の演算があればなんとかいけます』
そうだな、でも相手も多分知能はあるぞ?だからこっちのアドバンテージはアイが居るってとこだな。ならなんとかなるか、サポートよろしく。
『畏まりました、気をつけてくださいね?』
分かってる分かってる。取り敢えず分裂体で様子見行くか。
視線はこっちに向いてるけど、それでも物陰に入れば一瞬途切れる。その間に【分裂】して、相手を欺く。後は遠隔操作で相手をして、アイツの弱点でも見つけられれば万々歳、最悪でもどんなスキルを持ってんのか位はわかんだろ。
草陰に入り、視線から逃れたところで分裂する。そのまま俺は隠れて、分裂体は視線の主へ向かわせる。そこで見たのはーー
『......キマエラ、ですか』
ーーそう、そこにはキマエラと呼ばれる、複合獣がいた。神話では獅子・山羊・蛇が混じった怪物だが、今目の前居るのは顔が鳥、体は熊、豹のような細く長い尻尾が生えており、二足歩行ができそうという、なんとも奇妙な形だった。熊だから二足歩行行けんのか?
これがキマエラかぁ......俺の知ってるキマエラと違うな。
『マスターの思い描くキマエラとは違いますか?ですがキマエラは複数の獣が合わさったモノです。決まった形はありませんよ』
そうなんだ......じゃあペガサスとかって居ないのか?
『ペガサスやグリフォンなどは、昔はキマエラとされていましたが、今では種族として認識されています。なんでもペガサス同士がたまたま交尾をした結果、ペガサスの仔が生まれたそうで、そこからペガサス同士が交尾を繰り返し、種族として認められるほどに増えました。グリフォンも同じく、グリフォン同士で交尾をした結果グリフォンという種が確立したそうです』
へー、ってかなんでキマエラなんて生まれるんだ?
『それは......あのキマエラを倒してからにしましょう』
んお、忘れてた。んじゃ殺るか。行くぞ、アイ!
『はい、マスター!』
分裂体を操作しキマエラに向かわせる。キマエラは分裂体と対峙しても動かず、こちらが仕掛けるとやっと動いた。分裂体に【魔力纏体】で雷を纏い、速度を上げる。キマエラの攻撃範囲に入ったのか、分裂体が5m先まで迫った所で右腕を振るった。
長さが足りないのに振るうってことは、飛び道具かそんな感じのスキル持ちだな。取り敢えず、腕を潜るようにして避け、そのまま背後に回る。ついでに溶解液でもぶっかけてやろうかと思ったけど、尻尾が迫って来ていたので追撃は諦め、そのまま後ろに飛び退いて尻尾も避ける。その間にキマエラは体制を立て直して、こっち向いて次の攻撃を仕掛けようとしていた。
こいつ......後ろまで見えてんのか?そういや鳥の視野って広いんだっけ?真後ろ以外は見えるって聞いたけど、こいつもそうなのか?なら厄介だな。
『鳥類、特に猛禽類は目がとても良いです。時速80kmの速さで飛んでいても、ネズミ等を正確に見つけられますので』
だよなー......面倒い。
アイと話している間も、キマエラは時にはその剛腕で、時にはその尻尾で、更には嘴を突き出しての突進など、分裂体に攻撃を仕掛けてくる。それら全てを【魔力纏体】で纏った雷の速さを活かして避け続ける。雷の速さって言ってもマジで光速レベルの速さじゃなくって、実際は亜音速程度だと思う。それでも十分速いけど、ホントに光速で動けるスキルは【雷化】ってやつみたい。だから完全には避けれないのもあり、爪が掠ったり、尻尾がダイレクトに当たって吹っ飛ばされたりとダメージを受けている。ってかこれってキマエラ亜音速で動いてる俺のこと見えてんのか?【再生】で傷は治っているけど、このままじゃいつか殺られる。
どうすっかな......なんかない?アイ
『そうですね......分裂体とマスターで挟み撃ちや、最大速度の最大火力の一撃で葬る、等ですね。最大火力ならコントラヴァーティオフォックスの闇属性魔術、“災いの泥沼”ですね。ですがこれは速度の面で問題が......場所指定系の魔術ですので、上手く誘い込まないと無理そうですね。火系統は山火事の恐れがありますし』
むううぅぅ......分裂体でも転身できるよな......ならあいつに闇属性魔術の“影縛り”でも使わせて、その間に“災いの泥沼”で仕留めるとか?後はアトラマウスの万病をここら一帯にぶちまけるか......。
『万病母体ですか......キマエラを倒せても、闇天竜にはあまり効果は無いでしょうが、狙われる可能性も出てきます。危険です』
ぬぅ、じゃあ............やっぱ狐になった方がいいかなぁ?うお!?分裂体が真っ二つに!?ヤッベー、そろそろタイムオーバーになるな......どうすっか決めないとやばいな。
......うん、狐になるか。賭けに出るぞ。
『では分裂体は私が動かしますね。マスターの合図で“影縛り”をしますので、“災いの泥沼”の準備をお願いします』
おぉ!......おぉ?アイ、分裂体動かせんの?
『はい、できますよ?』
えー、なら早く言ってよー。まあ今はいいや。それより時間稼ぎのために猿になってキマエラ翻弄してくんね?で、合図出したら狐になって、“影縛り”お願い。
『はい、畏まりました。では分裂体の主導権を貰いますね』
頼むー。さて、アイが時間を稼いでる間に、狐になって魔術を構成する。その時に、少し術式に介入して、範囲を縮小、発動速度を上昇させる。更に魔力を過剰に入れて、魔術の威力を底上げする。
俺が魔術を構成している間に、アイは猿になって、木々の隙間を【立体機動】で縦横無尽に動き回り、キマエラを足止めしていた。
しかし、俺が動かしてた時よりも上手く使ってるな、アイのやつ。むぅーなんか複雑。まあいい、そろそろ魔術も組み上がるので、アイに合図する。するとキマエラからある程度離れた所に降り立ち、狐になって“影縛り”を発動する。キマエラは猿が狐に化けたのに驚いたのか、ほんの一瞬だけだが動きを止めた。アイはその隙を逃さずに魔術を発動させ、キマエラの体を縛り上げた。キマエラは目の前の狐が魔術を使ったことに動揺したのか、影縛りから逃れようと藻掻くが上手く行かずに苦戦している。その間に“災いの泥沼”を発動し、キマエラを呑み込み始める。
やったかー。案外簡単だったな。
『マスター、まだ終わってませんよ?相手が死ぬまで気を抜かぬようお願いします』
はーい。でももう殺っただろ。この沼から抜け出すのは無理だろ?
なんて思っていると、キマエラは藻掻くのを止めた。観念したか?と思い近づいていこうとするが、その前にキマエラの体が光り始めた。
?なんだ?最後の悪あがきか......?
『いえ、違います。これは......ッ!!マスター!!離れて!!』
アイがいきなり慌てだした。何か聞きたいが、今はアイの言う通りに後ろに飛んで距離を取る。その間にキマエラのから光り輝くモヤが出てきて、“影縛り”の影を焼き始める。
おぉ?あれって【魔力纏体】か?
『そのようですね。属性は......光ですね。闇属性の相剋ですので効果はありますが、闇も光の相剋ですので魔術効果や込めた魔力で上回る方が決まりますが、今回は......キマエラの方が上みたいですね』
なら“影縛り”は直ぐに破られるか......上手くいかねーなぁ。ってか“災いの泥沼”ぶっ放したかったなー。今からやるか。
『いえ、魔術が発動する前に拘束から逃れられますよ。それよりもこのあとどうするか考えましょう』
このあとかー......。
既に“影縛り”が殆ど破られ、今は3本でキマエラを縛り付けているが、それももう限界だろう。
さて、どうするか......。