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少女と別れ、宛もなくさまよい続ける。
どこに向かえばいいのかも分からず、しかしなにかに導かれるように歩き続ける。
その感覚は、少女と出会う時に感じたのと同じように感じる。
暫くして、ここもまた少女と出会った時と同じような光を見つけた。
光に近づき、目の前で立ち止まる。
どうすればいいのか。
取り敢えず触れる。
その瞬間ーー
カッ!!
光が爆ぜ、暗闇が眩い光に包まれた。
そして、俺は......
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ぬおおおおぉぉおおぉおおおぉぉおおぉ!?」
新天地にて転げ回っている。
「目が、目がァァァアアァアアァァアアァッッ!!!!」
某大佐のような事を言いながら、焼かれた目を抑える。
ーー視力回復中ーー
「ぐぅぅ、いきなり爆ぜるとか、どこの飛行石ですか?滅びの呪文言ってないよ?俺」
やっと目が回復し、愚痴を言う。
「ったく、あれを作った奴誰だよ?見つけたらぶっ飛ばす」
グチグチ言いながら、今の自分の状況を思い出す。
「そういや、ここ何処だ?まさかまたどっかの狭間とかないよな......?マジでそうでももう驚かないよ?」
ぐるりと辺りを見回す。
ーー青い空に白い雲、目の前には大草原が広がっており、遠目には山、後ろは大森林、そしてどこかに川でもあるのか、水の流れる音が聞こえる。
おぉ、素晴らしきかな大自然。
「......いや、どこやねん」
人の手が入ったような跡もない大自然。そんな中に放り出されるとは......。
さて、どうすっか。まずはステータスでも確認するか?
どうやって見るんだ?念じるのか?
ステータスオープン!
おお!出た!ホログラムみたいな半透明な板が出てきた。
そこにはーー
《名前:ネモ
性別:男
年齢:0 (16)
レベル:1
種族:スライム
筋力:10
物理耐久力:10
体力:10
敏捷力:10
魔力:10
魔力耐久力:10
スキル
【捕食 溶解液 分裂 再生 隠密 諜報 隠蔽 索敵 観察 算術 気配遮断 気配察知 絶対記憶 言語理解
(体術 短剣術 暗器術 銃術 繰糸術 暗殺術 爆薬調合 爆弾解除 罠設置 罠解除 毒物調合 薬調合 変装 変声)】
加護
【知識神・スキエンティアの加護 悪神・アンリマユ(▪️▪️▪️▪️▪️)の加護】》
とあった。
おー、中身知ってっけど、改めて見るとやっぱスゲーな。って思ったけどスキル増えてるし......。何で?スライムって初期スキル4つって言ってたのに......?
でもこれ......なんか知ってるような?
..................。
ああ!これあれだ!向こうで教わったヤツ!これは有難いな。
でもなんでグレーになってるやつあんだろ?わかんね。
教わってないのであるのが【言語理解】と【悪神・アンリマユ(▪️▪️▪️▪️▪️)の加護】か。
【言語理解】は......そのままか。
【悪神・アンリマユ(▪️▪️▪️▪️▪️)の加護】ってのは......アンリマユからか?
どんなんなんだ?
《【悪神・アンリマユ(▪️▪️▪️▪️▪️)の加護】:悪神・アンリマユによって与えられた加護
加護による恩恵は
1:【悪性感知】悪性を持つ生命・死命を感知する(効果範囲は半径500m)
2:【善性への嫌悪】善性を持つ生命・死命に対して、特攻・特防を得る(倍率1.5〜)
3:【悪性への傲慢】悪性を持つ生命・死命に対して、特攻・特防を得る(倍率1.5〜)
4:【善悪相剋】【善神・アフラ・マズダ】の加護を持つものに対して【確率半率】の状態になる
5:【悪性変換(魔力・体力・再生力)】自分に向けられる悪性・周囲に漂う悪性を自身に取り込み、魔力・体力・再生力のいずれかに変換する
の5つ》
お、おお?なんか凄いんだけど、凄すぎね?あと【確率半率】ってなんだよ?
《【確率半率】:【善神・アフラ・マズダ】の加護を持つものに対して、あらゆる確率が半々になる》
んー?つまり、全部成功か失敗かの結果になる?って感じ?
......よくわからん!
まあ加護持ちなんて珍しいだろうし、そうそう遭わないだろ。それよりこれからどうするか考えなきゃだな。
近くにあるのは森くらい。
......森に行ってみるかー。
森に向かって歩き出す。
ーーポヨポヨ
......なんか遠くね?って思ったけど、俺の移動速度が低すぎた。ズルズル這いずり回るような速さで移動してるから、到着まで結構時間がかかりそう。
......なんかいい方法ないかなーと思って、森に向かいながら幾つか試してみる。
1走る:速度up!!しかし直ぐにバテた。......体力無さすぎね?
2飛び跳ねる:走るのよりちょっと遅いけど、ただ歩くよりはいい。
3転がる:目が回って方向わかんなくなった。
とまあ、取り敢えず疲れた。コロコロ転がるのは、最初は楽しかったけど吐きそうになった。走んのは疲れるし、結局飛び跳ねる時々歩きで森に向かった。
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漸く到着。結構時間がかかった。
早速森の中を散策する。
しっかし、木が高い。30〜40mくらいあるかもしれない。低い木もあるから木の幹があんまり見えずに、葉しか目に入らない。
偶に動物に会うが、直ぐに逃げられる。
果物を見つけた時は、届かなかったので、仕方なく木を溶かして果物を採った。
美味しかったですまる
そんなことをしながら歩き回っていたが、そろそろ飽きてきた。なので休憩がてらスキル練習をすることに。
【捕食 溶解液】はもういいけど、【分裂 再生】か......。
まずは【分裂】を試してみるか。
行くぜっ!!【分裂】発動!
......なんか変な感じ。
大きさは......バスケットボール一個分くらい?俺が2つ分だから、半分になったのか?でも俺の大きさは変わってないな。
スキルは使えるっぽい。そこまではいいんだけど、分裂体に意識があんま無い。
チョロチョロ動くけど、目的が無いって感じ。これ自意識持たせられないのか?
お、行けた?さっきよりも動きが良くなったし、これなら大丈夫だろ。
......ふむ、ちょうどいい。こいつには【擬態】のスキル習得に励んでもらおう。という訳で、頑張りたまえ、分裂君!
分裂体には【擬態】をゲットできるように頑張ってもらおう。
あとは【再生】なんだけど......どう試したものか......?ってか試したくないなぁ......。
これは放置だな。いつか怪我したら使おう。
その後は、向こうで教わったスキルの検証をした。索敵は【悪性感知】と合わさって、半径500mはなんとなく感知出来て、半径20mくらいははっきり分かるようになった。なので、今の自分の状況がわかるんだが......結構やばい?なんか狙われてる。狼かな?
今のままで戦っても勝てる気があんましない。なのでここは撤退!偉い人は言いました。三十六計逃げるに如かずだよね、と。
という訳で、逃げます。
ーーザシュッ!!
......ぉわっ!あっぶね!?動いた瞬間爪が来たよ!?殺意高すぎ?腹減ってんのか?カルシウム足りてねーんじゃねーの?魚食ってろ。スライムじゃなくて!
なんて想いも伝わらずに、狼からさらに追撃が来る。
噛みつき、引っ掻き、体当たりに尻尾で薙ぎ払い、更にはなんか身体から紫電が迸って、動きが早くなった。まあその分動きが直線的になったから、躱すのは楽になったけど......いつまでも避けれてるとは限んないし、そろそろどうにかしないとなぁ......。
使えそうなスキルは......溶解液くらいか?んー、なんとかなるかな?取り敢えず視力は奪いたいな。突っ込んできたら顔面にぶっかけてやるか。
爪や牙を躱しながら、機会を待つ。
なかなか攻撃が当たらないことに業を煮やしたのか、また紫電を纏い、飛び掛るような姿勢をした。
来たかな?
そう思って溶解液を準備し、タイミングを伺う。
次の瞬間、狼が突っ込んできた。多分3〜4倍くらい早くなってる気がする。まあ関係ないけど。
狼が突進する瞬間に右に飛んで、攻撃線上から身を退かす。それと共に、今まで俺がいた場所に溶解液をタップリブチまけておく。
するとどうでしょう。狼が自ら溶解液に当たりに行きました!
ーージュウッ!!
オオオォォォオォォォ!!
狼の顔に溶解液が掛かり、周囲に肉が溶ける音と、腐臭が漂った。うぇ、くっせー。
前足で必死に顔を拭っているが、既に目は溶け、鼻も使い物にならなくなっているようだ。しかも拭った前足にも溶解液がついて、さらに被害が拡大している。
......うわー痛そー。
なんて思いながら狼を見ていると、最後にウォォォオォォォッ!!と鳴いてから動かなくなった。死んだかな?
倒れた狼にそっと近づき、様子を見る。息をしている様には見えないので死んだのだろう。
こうして、異世界初の戦闘が終わった。
顔や前足は溶けているが、後ろは溶けていないので、そっちを食べる事にした。
【捕食】発動!
狼の死体にのしかかり、捕食を使って食べていく。溶けていない部分は全部食べ終え、残るは溶けた上半身?なのだが......どうするか。
食うか食わないか、悩みどころだなー。美味しくなさそうだし。でも一応食っとくかー。
完食。溶けた部も味は変わんなかったし、見た目がグロいだけだったな。
さて、散策を続けるかー。