旅立ち
勝利を祝う宴から一ヶ月が経った。
僕は、バーナルドさんの家でお世話になっていた。
元々族長の家とあってかなり広く、そもそもバーナルドさんや、フェルとは他の人よりも親しいし、前にも一度泊まったということで、 バーナルドさんの、
「家で休養を取るといい」
という言葉に甘えさせてもらっているという分けだ。
もちろん、僕も一ヶ月ただ、休養を取っていた訳ではない。
フェルの手伝いに家事をしたり、バーナルドさんに誘われて戦闘訓練をしたり(かなり過酷だったが、良い訓練になった)食料確保の為、森の中で魔物を狩ったりもした。
そして現在、僕は貸してもらっている部屋のベッドで寝転がり、考えに耽っていた。
本当はずっと考えていた事だったが、この生活が楽しく忘れている振りをしていたのだが、とうとう考え中ではならなくなった。
地球への帰還方法を探さなければならないという事だ。
本当はもっと早くにバーナルドさんにその事を話して、ここを発つべきであった。
だが、ここでの生活はもう少し、もう少し、と自分に言い訳をして出発を先延ばしにするくらい、楽しかったのだ。
毎日フェルの作ってくれた朝ごはんを食べ、食器などの洗い物を手伝い、バーナルドさんと戦闘訓練をして過ごした。
時には街の人たちと酒を飲んで騒いだり、森に狩りに出かけた。
それが楽しく、幸せだった。
だが、もう行かなければならない。帰還方法を探す為、どれくらいかかるか分からない。
だからこそ早くここを出発しなければならないのだ。
あの日の夜、王宮の部屋で結香と約束し、自分で決意した事を果たすために。
絶対に帰らなければならない、地球に、自分の家に、家族のところに。
あの日と同じような月明かりに照らされる部屋の中で、僕はあの日と同じように決意をした。
次の日、僕は朝食を食べ終えた後、バーナルドさんに昨日考えた事を話した。
話を聞き終わったバーナルドさんは少し寂しそうな表情をしていた。
「そうか・・・行ってしまうんだな、創真と過ごしたこの一ヶ月、とても楽しかった。街のみんなも同じように思っているだろう。それに、君はこの街の英雄だ。いなくなるとなれば皆悲しむだろう、だが、引き止めたりはしない」
「ありがとうございます。僕もここでの生活は楽しかったです。いつか、帰還する方法を見つけたら、故郷へ帰る前にここに戻ってこようと思います」
「そうか楽しみに待っていよう」
「私も着いて行く」
その時、僕の後ろから声が響いた。
いつのまにか僕の後ろに来ていたフェルの声だ。
「私も創真に着いて行く、約束したから」
それを聞いたバーナルドさんは驚くかと思ったが、予想外にも納得したような顔をしていた。
「そう言うと思った。フェル、止めはしないよ、言っておいで」
フェルにそう言った顔はまさしく父の顔であった。娘の成長を喜ぶような寂しがるような、そんな顔。
「フェルを頼む、守ってくれとは言わない。フェル自身が決めた事だ。二人で協力して目的を果たしなさい」
「ありがとう、お父さん」
それから、僕たちは旅の準備をし、その日のうちに街を出ることにした。
昼下がり頃、街の門の前には、街の住人全員が出てきていた。
その全員が見守る先には僕とフェルがバーナルドさんと向き合っていた。
「では、また」
「あぁ、気を付けてな」
「お父さん行ってきます」
「行ってらっしゃい」
それぞれ短い言葉を交わした後、僕とフェルは皆が見守る中、街の外に向けて歩き出した。
先週は何の報告もなく、投稿を休んでしまい申し訳ありません。
次の展開を考えるのに時間がかかってしまいました。
次回からは通常通りに戻ります。
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まだまだ未熟な文章ですが、日々努力いたします。




