その時の勇者達
人族の騎士と天使族達の戦いが始まった頃、人族の切り札としてこの戦いに参加していた、勇者達のところにも戦いの音が響いていた。
「始まったようだ」
その音を聞いた神崎勇輝は、静かに呟いた。
それから、これまで一緒に訓練し、戦ってきたクラスメイト達を見渡す。
皆、初めての本格的な戦い、という事もあってか、期待と不安を綯い交ぜにしたような表情をしている。
「皆、俺たちは沢山の訓練を積んで来た。そして俺たちは最初の頃より遥かに強くなった。だからこそ、俺たちはこの戦いに勝って人族を救わなければならない」
勇輝は、皆の不安を払拭するために皆の方を向いて今までそうしてきたように、言った。
その甲斐あってか、不安そうな声も上がっていたクラスメイト達の集団から、ちらほらと
「そうだよな!」
「勝てるよね」
など、前向きな声が上がり始めた。
そこへ、伝令と思わしき騎士の人が走ってきて、側にいたガンルズ団長に何事か呟いていた。
それを聞いたガンルズ団長は、渋い表情をしながらも勇輝達のところへと近づいてきた。
「皆、聞いてくれ、第一陣の部隊が負けたらしい。ほぼ壊滅だそうだ。このままではお前達まで失うことになるかもしれん、ここは撤退だ」
「なっ!?」
壊滅、それを聞いた皆は先ほど払拭したはずな不安が再び顔を出したようで、ざわつき始めた。
だが、勇輝だけは違った。その人一倍強い正義感が、撤退という言葉を受け入れなかったのだ。
「そんな、今撤退すれば天使族達は人族のところに攻めてくるじゃないんですか!?それに、まだ戦ってる人だっているかもしれないのに!俺たちにその人たちを見捨てろと言うんですか!?俺たちは人族の切り札としてここにいるんですよ!それなのにっ!」
「・・・っ、そうだ」
勇輝は、一気に捲し立てていた。
それを聞いたガンルズ団長は、一瞬、驚いたような顔をしたが、すぐに先程の苦虫を噛み潰したような表情に戻り、静かに行った。
その表情から、ほんとはそんな選択をしたくないことは勇輝でも見ればわかってしまった。
すなわち、ガンルズ団長は、本当はこんな部下達をみすみす見殺しにするような撤退は行いたくないのだ。
だが、それでもこの選択をするのは勇輝達に危険が及ばないようにするためなのだと。
それを分かっても勇輝は納得するわけには行かなかった。
「俺は一人でも行きます!残って戦ってる人を助けてからでも撤退は出来ます!」
そう言って、未だ戦闘の音が響いている方へと駆け出してしまった。
「勇輝っ!」
次に、冷静に話を聞いていた椛が勇気を止めるべく、それを追いかけっていった。
それを見た結香も追いかけていき、その後に、なんとなくあの3人に置いていかれたくなかったクラスメイト達も必死に追いかけていったのだった。
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