最初の訓練
書庫でノルニドラのことを調べた後、訓練の時間になったので、一応、例の本(主神の本と呼ぶことにした)を持って、集合場所になっている、最初に皆で集まった訓練場に向かった。
訓練場に行くと、そこにはだれもいなかった。
少し来るのが早かったのだろうか?
そう思いながら待っていると、一人の騎士の人がやってきた。王国騎士団の副団長ナムルさんだ。
「遅くなってしまい、申し訳ありません。使徒様」
「いえ、大丈夫です。あと敬語はやめてください。こっちが教わる立場ですし。ところで他の皆のことをみませんでしたか?」
「ありがとう。正直、普通に話した方が教えやすい、他の使徒様は・・・もしかして聞いていないのか?今日からの訓練はら一人一人個別訓練だ。他の使徒様達は、別の訓練場で訓練をしている。君は色々、複雑だからと団長が君だけここにした。そして、もう知っているだろうが君の訓練を担当するナムルだ。一応王国騎士団の副団長をしている」
まさか、僕なんかに副団長のナムルさんがついてくれるなんて。
そしてありがとうございます団長!おかげで皆にバカにされなくて済みそうです。
ナムルさんが訓練を担当してくれることに驚きながらも、心の中で団長に感謝の言葉を言いまくっていると、ナムルさんから今後の詳しい訓練内容について伝えられた。
「当面の間は、剣術の訓練とスキルの訓練。それと魔物などについて座学もやって行こうと思う。魔法の適正が低い君には、いち早く剣術を身に着けてもらいたい。座学は、魔法のハンデを知識で埋めるためだ。スキルの訓練は一応だ。鍵開けのスキルでもいずれ使うこともあるだろうからな」
ナムルさんは、そう説明した後、持って来ていた木剣を僕に渡して言った。
「よし、とりあえずその剣で私の事を攻撃して見てくれ。全力でな。どれくらい振れるのか見てみたい」
「え・・・?大丈夫なんですか!?ナムルさん、何もつけてないように見えるんですけど・・・」
そうなのだ。今のナムルさんは、防具はおろか剣すら装備していないのだ。
創真は、日本にいた頃も剣どころか竹刀すら握った事もないまるっきり初心者だ。
僕なんかが振った剣が、ナムルさんに当たるなんて微塵も思ってないが、もしも偶然で当たるなんてことがあったら普通に怪我をするだろう。
「大丈夫だ、初心者の剣が当たるようでは、私は、副団長の座に就くまでもなく死んでいるだろう」
「そうですか・・・じゃあ、まぐれで当たったりしても知りませんからね!」
そう言って型もへったくれも無いアニメで見て覚えた見よう見まねの形で剣を構えた。
ナムルさんを正面に見据えて、剣を中段あたりで構えている。
剣道の構え方に近いと思う・・・多分。
「行きますっ!」
そう宣言して、僕は走り出した。ナムルさんは全く動かない。
「ハァァァっ!」
上段に振りかぶって、振り下ろす。ナムルさんは半身になっただけでそれを躱す。
振り下ろして完全に崩れた体勢のまま、今度は斜め上に振り上げる。
これも、一歩下がっただけで躱される。
その後も躱され続けること五分程。
「ぜはぁ・・・ぜはぁ・・・」
結局、剣は一度も当たることなど無く、創真の体力が尽きた。
しかも、ナムルさんはら最初と変わらない場所でまったく変わらない様子で立っている。
「大丈夫かい?これを飲んで、少し休んだら気になった点とアドバイスを話そうと思う」
そう言って、水を渡してくれた。創真は、返事も出来ないまま、少しずつ息を整えながら水を飲んでいった。
数分かけて、ようやく息を整えることが出来たところで、ナムルさんがやってきた。
「創真君。君は誰かに剣を教えてもらったことはあるかい?さっきの君の攻撃、はっきり言えば、技術面は子供のチャンバラと変わらないが、私には色々な元になった技がごちゃまぜになっているように見えた。違うかい?」
チャ、チャンバラって・・・でも確かに創真は、日本にいた時、剣道なんて習ったことも無い。
だが、さっきはアニメやゲームのキャラクターが使っていた物を見よう見真似で使っていた。
色々な物を適当に使っていた為、技のあいだに繋がりなんて無かった。
ゴチャゴチャに混ざっていて、尚且つ技術面では、子供と変わらない事をしていたのにナムルさんはそこまでわかったのだから凄いと思う。
「いえ、誰にも教わってません。さっきのは、僕がいた世界のアニメ・・・いえ、創作物のものを真似していただけです」
アニメの真似だと言った瞬間、ナムルさんの雰囲気が変わったような気がする。
「なるほど・・・君には、そっちの剣技の方が合っているようだ。それでそのアニメ?と言うものには、他にどんな技があるんだい!?君に教える為に最も知らなければならない!是非教えてくれ!」
ナムルさんの突然の変貌に創真は、ちょっと引いた。
これは、あれだ・・・剣ばかってやつか。
僕に教えないといけない、というのも本当だろうが8割は、自分の興味で聞いてるよな・・・
「わかりました。わかりましたから少し落ち着いて下さい。ちゃんと教えますから。」
「本当か!?そうか教えてくれるか!ありがとう!ふひっ・・・新しい剣技・・・ふひひっ・・・」
この人、新しい剣の知識になると凄く怖い・・・
創真は、小声だが聴こえてしまった最後の言葉にドン引きしてしまった。
それから、一日中、創真は、覚えている全ての技を真似して、見せることになった。