強い想い
今回は、少しもどってフェル視点でお送りいたします
「フェル!?」
私のエンシャントドラゴンになっている時のの耳はその言葉を正確に驚くべき方向から拾った。
それに動揺して、私は飛行を誤ってしまった。地面から地竜が顔を出している事に気が付かずそれに引っかかり態勢を崩した。
それからは一瞬だった。空から私を追いかけてきた飛竜達は一斉に私に群がり、地竜もどんどん地面から姿を現してこちらへと近づきつつある。
私は強い。
エンシャントドラゴンの中では最強だし、本気を出せば天使族の人とだって相打ちに出来ると自負していた。
でも、強くとも負ける時があるのだと冷酷にその時の現状が伝えてきた。
【魔力暴走】を起こし、知恵をなくした代わりに力のタガが外れたドラゴンの牙は私の硬い鱗に阻まれていたがそれも時間の問題で、鱗に亀裂が入り、やがて一本の牙が鱗を突き破って私に突き刺さった。
鋭い痛み、それと血が流れ出ていると実感させられる冷たさ。
そして何よりも
死の恐怖、最初はこのまま死ぬんだって思うだけだった。
でもこの痛みで完全にわかった。
私は死にたくない。誰か・・・助けて。
もう、願うだけ無駄だと思った。
思ったその時、その音が鳴った。
ドォン!
初めて聞いたのはこのダンジョンの100階層にフロアマスターとして着いていた時、久しぶりの挑戦者がやってきて、それが普通の人間が一人だけだと知った時は正直つまらない。そう思った。
(一瞬で動きを封じて魔力を喰らって終わりだな)
そう思っていたのにその人間は予想を遥かに上回った。そこそこの剣技に見たこともない魔法。
たくさんの魔力を使ってたくさんの魔法を一つにまとめてる。けどそこから放たれるのは小さい金属の玉。
ショボいようでその威力は私の鱗に傷をつけるほど
なんてチグハグな魔法なんだろう。
その魔法には少し興味はあったけど、所詮は鱗に傷をつける威力はあるけどそれ以上のことは出来ない。そんな魔法。
やっぱり期待外れだったかと思っているとその人間の目が変わった。
何かを覚悟した強い目。
それが誰かの目に似ていて見覚えがあった。
ハッ、とした瞬間その人間はもう遥か昔に失われたはずの束縛魔法を使い、この私を数秒とはいえ、動けなくした。
動けなくなって抵抗しつつ、人間を見るとさっきから使っていた変な魔法を準備し始めていた。
傷しか付けられないのにどうするんだろう?とちょっとワクワクしながら観察した。
そのうち魔法陣がいくつも展開され、その魔法陣達は正面に伸びるように連なっていった。
人間が叫んだ瞬間、その魔法陣から今までのとは桁違いの威力の砲弾の玉のような大きさの物が何もかもを置き去りにしながら私に迫ってきた。
流石に私もギョッとして急いで束縛の魔法を破り、全力の防御を貼ったけど、拮抗した後それも破られて私に突き刺さった。
咄嗟に体を逸らして致命傷は避けたけどあれは危なかった。
変で、チグハグで、予想外で、それでいて強かった。
威力がじゃない、そこに込められた強い想いが。あの人の想いが。
そのチグハグな魔法が私に牙を突き刺していたドラゴンを滅多打ちにし、一瞬で絶命させた。
そこから創真は、私を助けるために魔力をドラゴン達に当てて標的を自分に向けていた。
そして何度かの攻防の後、あの変な魔法が本性を現した。この前と違う。
あの時よりも大きい、けど魔法陣は一個になっている。
「発射」
その呟きは小さいものだったけど確かに私は、聞こえた。
その直後、創真を追っていった飛竜達が消し飛んで地面にクレーターを作っていた。
何が起きたのかわからない全くわからない。
分からないけどやっぱり強い。
そう確信できる魔法だった。
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