やっぱり使えないのか!
ほとんど説明回です
次の日、訓練が始まる少し前の自由時間。創真は王宮の書庫にいた。
メイドさんに頼んで、入れるようにしてもらったのだ。創真は、かれこれ二時間程、ここで大量の本と格闘している。
書いてある文字は、日本語ではないが、召還された際の恩恵なのだろう。この世界の言語を聞き取れるのと同じく、文字も頭の中で勝手に訳してくれるようだ。
オタクな創真としては、字を読むということ自体、苦痛だと感じないので、ずっと、本を読む事が出来ていた。
そして、訓練ぎりぎりのこんな時間まで、創真が本を読んでいるのは、落ち込んで心が折れた訳でも、本に現実逃避している訳でもない。
昨日の夜に、日本に帰ると決意してから、色々考えてみた結果、プロメギルが言っていた、戦って勝てば帰れるかもしれない、という言葉は、テンプレであれば嘘、又は無理でしたということになりかねない。
だから、創真は、自分で変える方法を探すことにした。方法を探すにあたって情報が欲しかった為、創真はここにいるのだ。
この通り、時間ぎりぎりになってしまったが、ちゃんと収穫はあった。ノルニドラの歴史や地理、魔物、魔族について、プロメギルの説明より詳しい物があったのだ。
まず、この世界は、主神(名前は、書いて無かった)によって作られた世界らしい。ここまでは説明されたが、問題はこの後だ。ノルニドラを作った主神は、ある時、三柱の神を生み出した。
その神は、それぞれ人族が崇める光の神マハー、魔族が崇める闇の神カーラー、亜人族が崇める植物の神アスタルテだ。
人族の崇める神と魔族の崇める神、そして亜人族が崇める神は、主神の眷属なのだ。
そこで疑問が生まれる。何故すべての種族は、ノルニドラを作った主神ではなく、その眷属を信仰しているのか。何故崇めているのは、同じ神の眷属だというのに、長年争っているのか。
そして、ノルニドラを作ったのが主神だとわかっているのに他の神のように名前が残っていないのか・・・この謎といいプロメギル達の異常な程のマハーへの心酔といい、とても不気味だ。
そして地理についてだが、人族、魔族、亜人族がそれぞれ支配している場所は、以前、説明された通りなのだ。
人族が支配している西の一帯には現在、創真達がいる王都アーシラから南に進んだ所に帝国バアルがあり、アーシラから西に行った所には、商業都市テオリス呼ばれる大きな都市があるようだ。
まずバアルは、完全実力主義の国で弱者は強者に従うべきという考えの国だ。その国風からか、冒険者や傭兵等の荒くれ物が多く集まるらしい。
もう一つの都市テオリスは、商業都市と呼ばれるだけあり、人族の商業の中心になっている都市で、様々な物や商人が集まる場所だ。
そしてテオリスが商業の中心となっている最大の理由が、世界最大のダンジョン。トアソルアの迷宮と呼ばれるものがあるからだ。
トアソルアがあるため、そこを探索する冒険者、その冒険者の必需品等を売る商人、迷宮から出てくる魔道具や魔物の素材を買い取る商人等が多く集まり、今のテオリスとなったらしい。
次に、魔物や魔族についてだが、魔物は最初に説明された時、魔力が操れると説明されたがそれは、人族や魔族でも出来る。
ではなぜ、魔物が脅威になっているか、というと、自分の外にある魔力。いわゆる、生物が放出していて常に空気中に漂っている魔力を操れるということだ。
つまり魔法の威力が際限なく高くできるということだ。人族は、基本自分の体内ある魔力しか操ることが出来ない。この時点で相当不利だ。
さらに魔物はとても非情らしい魔物が魔法を発動させる際、人族や魔族が必要とする詠唱、魔法陣といった物が不要になるのだ。
これにより魔物は、全ての魔法を詠唱、魔法陣なしで発動できるはずなのだが、魔物にはそのすべてを使いこなす知識が無いために最初から魔物の本能に刻まれている一種類の魔法しか使う事が出来ないようだ。
魔族については、基本肌が黒い以外、人族と変わらず魔法についても先に説明したように詠唱と魔法陣は必要なようだ。ただ、魔族は人族より魔法適正が高いというだけなのだ。
因みに、魔法の適正というのは、鑑定石で自分を鑑定した時にスキル欄にあった「~魔法」といったスキルで決まり、それぞれ、火、水、風、土、光、闇の属性がある。
例えば、スキル欄に「火魔法」があれば火の魔法に適性があり魔法の発動に必要な魔力の量が少なくて済んだり他の属性の魔法よりも威力が高くなる。
つまり、結香のスキル欄にあった「全属性魔法」というのは、全ての魔法に適性があるのだ。
逆に、創真のスキル欄には「鍵開け」しか無いので、魔法の適正は全くない。しかし、だからと言って魔法が全く使えないわけではない。
そもそも、魔法を発動させるには、詠唱で魔法陣を作り、そこに魔力を流し込めさえすれば、魔法は発動する。
つまり、魔法適正が無いと魔法陣の構築に手間がかかったり、魔法を発動させる際の魔力の必要量がアホみたいに多くなる、ということだ。
したがって、創真でもちゃんと魔法を使える、使えるのだが・・・創真の場合、発動に必要な魔力量が足りていないのだ。
要約すると、創真の魔力量が少なすぎて、全力で魔法陣に魔力を注ぎ込んでも必要量に届かず、魔法が発動しないということだ。
適正があれば使えたかもしれないが、適性が無いせいで跳ね上がった、発動に必要な魔力が、創真には無いのだ。
魔法は、スキルによる適正が無くても使える・・・ただし、自分の魔力量が多ければ。