決意
短くなってしまいましたがご容赦ください
その後は、明日からの訓練内容を伝えられて解散となった。本については、創真にしか開けないということで、創真が持っていることになった。
その日は、もう何もする事が無いので夕食を食べて各自自室に戻った。同じく創真も自分の部屋に戻った後、ベッドに倒れこみ盛大にため息をついていた。
何しろ人生最大の"上げて落とす"を同じ日に二度もくらったのだ。
始めは、創真だって浮かれていた、何しろ異世界だ。魔法なのだ。そんな夢みたいなこと誰だって行きたいと思うし使いたいと思うはずだ。
特にオタクである創真は、普通の人よりその憧れは強かった。だから最初は帰りたいと思ってもゆっくりでいいか、なんて思ってしまった。
しかし、蓋を開けてみれば結果はこの通りだ。召還の恩恵があるのにもかかわらず、平凡な能力という何ともやるせない物だった。
そんな風に憂鬱な気持ちになっていると、コンコンと自室のドアがノックされた。来客のようだ。
創真の部屋に来客なんて一度もなかった為、火島達がバカにしに来たか、やっぱり本を返せと国の人が、来たのだろうか。そう思いながら創真は、ドアを開けた。
するとそこにいたのは、火島達でも、国の人でもなくネグリジェ姿の結香だった。
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「夜遅くにごめんね?ちょっと話がしたくて・・・」
意外な人物の来客に戸惑いさらにその姿に見とれて、呆然としていた創真は、その言葉で我に返った。
「別に大丈夫だよ。入って今、紅茶を入れるから」
この光景を他の男子が見たら絶対に殺されてしまうだろう。そう思いながら創真は、結香を部屋に招き入れ紅茶を二人分用意してテーブルに置いた。
結香は、その紅茶を一口飲んでから口を開いた。
「あのね、心配だったの創真君凄く落ち込んでずっと暗い表情だったから・・・」
どうやら無意識のうちに気持ちが顔に出ていたらしい。
「心配を掛けてごめん。力が無いから皆と同じようには戦えないけど、物はやりようだからね。訓練を頑張って自分の身くらいは、守れるようになってみせるよ。」
言っておいてなんだがセリフが恥ずかしく、いつもの苦笑い気味の笑顔でそう言った。
「そっか・・・創真君は、強いんだね。私ねさっき怖い夢を見たの騎士の人達や、クラスの皆が次々と創真君のことを忘れちゃって、創真君もいつの間にかいなくなってて、そして最後には、私も・・・だから余計心配になってこんな時間に来たんだ。」
確かに怖いな。火島達に忘れられるのは別にどうだっていいが、騎士の人に忘れられるのは困るし、自分がどこかに行ってしまうというのも困る。どうか正夢にならないことを祈るばかりだ。
夢のことを思い出したのか、とても不安そうな顔をしている結香に創真は安心させるように言った。
「そんなのただの夢だよ、いきなり見知らぬ世界に連れてこられたんだから不安になって当たり前だよ。忘れるかどうかは、わからないけど僕はどこにも行かないよ。日本に帰りたいからね。」
その言葉を聞いた結香は、くすりと笑っていつもの元気な表情に戻った。どうやら成功したようである。
「そうだね絶対日本に帰らなきゃ、ごめんね落ち込んでいる創真君を励ましに来たはずなのに逆に私が励まされちゃった。ありがとう」
そう言って笑った結香の顔にちょうど窓から入って来た月の光が当たった。その姿は、正に女神そのものの様だった。そんな結香の顔にまた創真は、見とれてしまった。
「ずいぶんと話し込んじゃったね。私は、そろそろ自分の部屋に戻るよ。夜遅くに来ちゃってごめんね。今日はありがとう。」
そう言って結香は、創真の部屋を出て行った。それを見送った創真は、一人自室で、
「帰らないと」
そう決意を固めるようにつぶやき、その日は布団に入って眠りに落ちた。