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桜魔ヶ刻  作者: きちょう
第2章 神の刃は黄昏に砥がれる
6/12

6.朱き桜赤き川に流れ

..031


 朔は日向でのんびりと昼寝を楽しんでいた。春の陽気が心地よい。

 風が吹く度にひらひらと桜の白い花びらが散って、朔の上にも降りかかる。

 一体誰が今の彼を見て、この大陸を恐怖と絶望に陥れている桜魔王などと気づくだろうか。

 むしろ彼が桜魔の王としての責務を放棄しがちなせいで、人間たちはここ数年、朱櫻国王を中心に反桜魔の対策を取り抗戦への気運を高めているらしい。

「陛下」

 いつも通り側近の一人、早花が彼を呼びに来た。

「なんだよ。今いいところだったのに」

 心地良い夢を中断されて、朔は不機嫌な顔で一の配下を睨んだ。

 元来真面目な性質とはいえ、いい加減桜魔王のこの性格にも慣れた早花は、はいはいと幼子にするように文句をいなす。

「お昼寝の続きはまた後でなさってください。御来客です」

「またかよ。今度は誰だ? 華節みたいな奴はもうこっちも懲り懲りなんだが」

 先日と似たような展開になって、朔は盛大に溜息を吐き出した。

 朔に代わる桜魔王の立場を望み、彼らに近づいてきた高位桜魔、華節。彼女は辻斬り事件を起こすことによって有力な退魔師を優先的に排除し、一気に花栄国に攻め込む計画を立てていた。

 しかしその思惑は、ある退魔師の集団に阻まれた。

 鵠と呼ばれていた、人界で最強の名を冠している退魔師。

 確かにあの男は強かった。何せあの華節を軽々倒すくらいだ。朔はこれ以上華節が「花栄国の退魔師」を刺激しないように彼女を処分しに出て行っただけで鵠と戦闘はしていないのだが、それでも他の退魔師とは段違いの実力は感じ取れた。

 退魔師協会の本拠地は朱櫻国とされているが、花栄にも腕利きの退魔師は多い。

 あの国には昔から退魔・除霊の仕事を請け負っていた家系「天望家」が存在するからだ。

 例え鵠が乗り出さずとも、華節の辻斬り計画はきっと半ばで頓挫していたことだろう。彼女の犯行が上手く行っていたのは、天望家の現当主がその時朱櫻国に呼ばれて赴いていたからだ。

「今度はどんな奴らだ?」

「それが……」

 華節の時ともまた違い、早花が顔を困惑するように歪める。朔はおや、と思った。確かに真面目過ぎて年長者に対しては押しが弱い早花だが、こんな顔をするのも珍しい。

「どうした? そんなに『困った』奴らなのか?」

 暗に殺してしまおうかと尋ねる朔に対し、早花は首を横に振る。

「いえ、華節のような下心はないようです。彼らは、陛下が桜魔王として相応しい態度をとるよう求めています」

「桜魔王として、ねぇ……」

 朔の脳裏に、華節より更に面倒という言葉が過ぎった。

「実は今回の客人方は、夬の旧知だそうなんです。なんでも夬の師匠にあたる人物だとか」

 夬とは、早花と同じく桜魔王の側近を務める桜魔の一人だ。外見は朔とほとんど変わらぬ年齢の青年である。

「ほぉ。一人か?」

「いいえ。私程の見た目の女と、少年を連れています」

 桜魔の外見に関し正確な年齢は意味をなさないが、それでも青年、少年、子どもなど、人間の姿に照らし合わせた大雑把な基準は存在する。

 早花と同じくらいならその女は二十代半ば、少年と呼ばれた方は十代半ば程度だろうか。

「夬の師匠と言う方は、壮年の男性です」

「まぁ、そうだろうな」

 正確な年齢は意味をなさないが、それでも彼らほど人間に近い見た目の桜魔は、多少は見た目の年齢に影響される。中年の華節の養い子が、青年の桃浪であったように。

「仕方がない。ここは夬の顔を立てて会ってやるとするか」


 ◆◆◆◆◆


「お初にお目にかかります、桜魔王朔陛下」

 男は、載陽さいようと名乗った。

 灰色の髪にきつい目つき。厳しい教師か軍の上官のような風格を持つ男性だ。

 朔に対しての態度も必要以上に謙ることはないが、逆に腹に一物抱えている風情ではない。恐らく自分にも他者にも厳しい性格と推察される。

 その載陽が部下として連れてきたのは二人。女が一人、少年が一人。

 女の方は、異様な風体だった。

 蒼い髪に紅い瞳を持つ夢見ゆめみと言う名の女はその名の通り、まるで常に夢を見ているかのようにきゃらきゃらと笑っている。狂気に侵されている者が多い桜魔の中でも、高位桜魔でこういった存在は珍しい。

「うふふふふふふ」

 意味のない笑い声が響き、先程から相手をしていたらしき夬がすでにげんなりとしている。

 もう一人の少年は、普通だった。一言でそう言ってしまうのは難だが、夢見と比べてしまえば随分とまともである。

 少年の名ははらえというらしい。見た目の年齢は人間で言えば十五、六と言ったところか。淡い茶の髪に紫の瞳だが、彼を見て朔も早花も、何となく先日戦った退魔師の少年を思い出した。

 如何にも真面目そうなその様子は、厳格な載陽の弟子と言われれば誰もが納得できるものである。

 彼よりも、飄々とした夬や半分狂っているような夢見が載陽の弟子や部下であることの方が信じがたい。

「それで、何の用だ?」

 一頻り挨拶を述べた載陽たち三人に、朔はいつも通り直截に話を聞く。

 王の威厳らしきものも何もないその態度に載陽は早速顔を顰めた。そんなことでは、彼が統べる無数の桜魔たちに示しがつかないと言いたげに。

 だがそもそも朔は、望んで桜魔王になったわけではない。生まれる前から押し付けられていた運命に抗うたった一つの術が、こうしてのんびりと暮らすことなのだ。そこに横槍を入れてきた闖入者に対し王らしく振る舞ってやる義理など欠片もない。

 早花に起こされて途切れてしまった夢を想う。

 あれは過去の記憶か、自身が母を恋うあまりに作り出した幻覚なのか。

 女の優しい手に撫でられていた子どもの頃の夢。

 でももう、そんな日々は手に入るはずもない。

 一体桜魔は何のために生まれて来るのか。そして何のためにこんな風に生きているのか。

 全ての桜魔を統べると言われているこの桜魔王でさえ、自らが作り出されたその訳を知らないと言うのに。

 否、知らないからこそ桜魔は人に憎悪を向けるのだろう。

 滅びるために生まれた彼らだからこそ、自らを生み出した怨嗟の親である人間と共に死にたいのだ。

 そして載陽の望みは、もっと効率よく人間を滅ぼすことだという。

 そのために桜魔王である朔の存在が必要だと。それが中身の伴わない虚しいだけの旗印だとしても。

「貴方様の存在は、我々桜魔にとっての希望なのです」

「……」

「我々の情報網では、朱櫻国が先導して桜魔を殲滅するための策を練っているところと聞きます。もはやあの国を野放しにするわけには行きません。陛下、あなたには桜魔王として、朱櫻国王と対峙する義務がある」

「対峙ってなんだよ。確かあそこの王はまだ緋閃王の後を継いだばかりの子どもだろう? 直接戦闘力はない。それに朱櫻国は退魔師協会の護りが硬い」

「だからこそです。目障りな退魔師共を殺し、朱櫻国に攻め入り今度こそ人類の希望を叩き潰せば、我々桜魔の時代がやってくるはず」

 皮肉なことに退魔師協会の総本山であり、長い戦争を仕掛け国力を増していた朱櫻国しか、もはや国を挙げて桜魔に抵抗できる国はないのだ。

 桜魔から見れば、朱櫻国さえ落とせばこれからの戦闘が随分楽になる。人類は希望を失い、桜魔の蹂躙に対する抵抗力をも失くす筈。

 だが、それには桜魔側も相当の戦力を出す必要がある。朱櫻国王がまとめ上げた退魔師連合相手にいくら雑魚を放っても返り討ちにされるだけだ。

「俺を王として祀り上げても無意味だぞ。俺を王として崇める奴なんていない。この二人が物好きなだけだ」

「陛下……」

 早花と夬が微妙な表情になる。彼らとて朔に立派な桜魔王になってもらいたいと思ってはいるが、彼が望まないままに王としての責務を果たせとせっつくつもりはないのだ。そんな暇があるなら自分たちだけで人間に襲撃を仕掛ける方がマシである。

 しかし載陽の意見は違った。彼は桜魔王相手にすら一歩も退かない。

「それは貴方様が、そもそも王の責務を放棄しているからです。我々は王と言う名前に盲目に従うのではありません。王に相応しき行動をとるものを王と崇めるのです」

 正論だ。

「……わかったよ」

 これ以上駄々をこねても退かなそうな男を前に、ついに朔は折れた。やはり華節の時よりずっとやりづらい相手だ。

「で、俺は何をすればいいって」

 行動の主導権は指導役として握る気の載陽を前に、朔はそれこそ不出来な弟子のように両手を上げて指示を乞うのだった。


..032


「お久しぶりです、お兄様」

「ああ。お前も変わりないな。朱莉」

 朱莉は朱櫻国の嶺家――すなわち彼女の実家に、蝶々と一緒に帰っていた。

 朱莉は二年前まで、この朱櫻国で正規の退魔師として暮らしていた。魅了者という特殊な力のために、相棒の蝶々以外の退魔師にはほとんど畏れられながら。

 あの頃の朱莉は兵破たちが言った通り、もっと大人しい少女だった。本質は今とそう変わりない。けれど自分の力の異端に負い目を感じ、退魔師としての在り方に悩んでもいた。

 そこを変える出会いと――そして別れを経験した結果、彼女は今こうして、桜人の退魔師として神刃と手を組むことになった。

 事情を知っている兄の白露はくろや元相棒の蝶々はそんな彼女のやり方を受け入れてくれた。神刃とはいまだに蟠りもあるが、それ故大陸に平和を取り戻したい彼の覚悟は痛い程に理解している。

 そして神刃が鵠を仲間にしたことで、ようやく歯車が回り始めた。最強の退魔師の名は伊達ではなく、彼の力があれば桜魔王討伐も夢ではない。

「退魔師としての役目はどうだ」

「今のところは極めて順調です。楽しいですよ。私以外の面々はどの方も波瀾万丈で」

「……そうか」

 いたずらっ子のような笑みを浮かべている朱莉を見て、白露は諸々の心配を押し殺し今は頷くに留めた。

 二年前、恋を失った朱莉がどれだけ嘆いたか彼は知っている。妹が今笑えているのなら、多少のことは目を瞑るべきだと白露は考える。

 神刃に関しても、彼ばかりを責めるわけにはいかない。朱莉とは色々あったようだが、あの少年は少年で桜魔王討伐という新たな目標を与えたのだ。それも朱莉だけではなく、この朱櫻国全ての退魔師に。

 緩慢に死を待つばかりだった朱櫻国に新しい風を吹き込んだのは、朱莉や神刃や蒼司という、まだ子どもとしか言えない若い世代だ。

 ただ、兄としてこれだけは捨てきれない感情で白露は一言妹に告げる。

「……辛くなったら、いつでも帰ってきていいんだぞ」

 朱莉は一瞬きょとんとして、次いで儚くもはっきりとした笑顔で頷いた。

「ありがとう、お兄様」

 自分はとても家族に恵まれているのだと、改めて朱莉は思い直した。


 ◆◆◆◆◆


「僕たちは家族に恵まれませんでしたね」

 国王と呼ばれる少年は寂しげに呟いた。

 朱櫻国の先王・緋閃は他国に侵略を仕掛け、数多の嘆きを生み出し、彼自身が死んだ今でさえもこの大陸を桜魔ヶ刻の絶望で包む大罪人だ。

「兄上……この関係は、もう少し隠しておくべきでしたか?」

 自室で神刃を前にして、蒼司はそう問いかける。初日に前振りも何もなく、神刃が朱櫻国王の兄だと明かしたことについて。

「……いや」

 神刃は目を閉じて考える。

 鵠の事、朱莉のこと、実の父・緋閃王のこと、そして――育ての親である、火陵のことを。

「鵠さんは、火陵が緋閃王を殺害したことを知っている。俺が話した」

「そうですか」

 その時傍にいたのはここにいる神刃と蒼司、そして情報屋にして間諜である彩軌だけだ。

 二人の少年の父親である緋閃王と、彼を殺した男、火陵。その関係は神刃にも蒼司にも完全に理解することは不可能だ。

 彼らの間にあった感情ごと、火陵は常世に持って行ってしまった。そこには彼のかつての主君も、その妹であり神刃の母である寧璃ねいりもいるのだろう。

「鵠殿には、“事実”をお伝えたしたんですね」

「……ああ」

「それで良かったのですか?」

「良かったも何も、あれが事実なんだ。下手な嘘を吐いて信頼を失うよりいいだろう」

「……朱莉殿と鵠殿でお話が食い違うことになります」

「朱莉様が俺に関して、そんな話を鵠さんにするとは思えないよ」

 神刃の言葉に、蒼司はぱちぱちと目を瞬いた。

「……どうした、蒼司」

「いえ。そうかな? と思いまして」

 蒼司の考えは違った。朱莉と鵠の両方が神刃に対して心配していることがあるなら、鵠は神刃の過去を朱莉に聞くと思うのだ。彼女は火陵のことこそ知らないが、二年前の因縁の事件に関わっている。

 だが神刃には、そもそも朱莉が自分を心配するという考えがないらしい。

 神刃は、自分がいまだに、彼女に殺したいほど恨まれていると思っている。

 共に桜魔王を倒すため手を組んだのは、あくまでも目的達成の困難さ故、仕方のない事なのだと。

 蒼司にはそう思えなかった。朱莉はそんなに単純な女性ではない。彼女は自分で考えて、自分の意志で神刃を支えることを選んだのだ。

 でも神刃が朱莉に恨まれているという認識自体は確かに正しい。二年前のあのことだけは、彼女は未だに彼を恨んでいる。その一方で、同時に神刃を心配もしているだけだ。

 蒼司にはその気持ちがよくわかった。

 朱櫻国王として、先王緋閃を最低の男だと憎んでいる。それなのにかつて蒼司は、朱櫻緋閃の息子である朱櫻蒼司として、父親に愛されたいとも想っていたのだから。

 なんてくだらないものを求めるのだろうと自分の幼さに嗤いながら、それでも長くその想いを捨てきれなかった。蒼司がそれを捨てる決意ができたのは、三年前の事件――緋閃王が死んだ、あの日のためだ。

 そして父を完全に葬った時また、残された家族である神刃に執着しているのだと。

 神刃は紛れもなく手櫻国王の息子であり血統的にも申し分ない。だが生まれてすぐの彼を火陵が連れて逃げたために、正式な王子として認められるどころか、彼の存在自体知らない者の方が多い。

 緋閃の悪名が大陸中に轟いている今は、むしろその方が都合よいだろう。

 だが神刃は、緋閃のもたらしたこの悪夢の時代を終わらせるために動く蒼司と一緒に、桜魔王討伐のために尽力してくれている。

 それは実の父の乱行の後始末という面もあるが、第一の理由は養い親であった火陵のためなのだろう。

「蒼司の方は、問題はないか?」

「ありません。至って平和……と言う訳にも参りませんが、まぁ普通ですね」

 蝶々たちが動いてくれるため、退魔師協会との連携の方は年々着実に成果が上がっている。桜魔王や王に継ぐ高位桜魔を倒せる者こそ少ないが、雑魚が何体束になってかかってきても問題なく対応できるだけの勢力は固めたつもりだ。

「あ、でも最近は葦切様のおかげで更に退魔師協会の戦力を増強できました」

「葦切様……って、天望葦切とか言う」

「そう、その天望の御当主です」

 蒼司は鵠も「天望」だということを知っている。だからこの名を出したからには、次の神刃の問いの内容もわかっていた。

「その葦切って人のこと、教えてくれないか?」


 ◆◆◆◆◆


 退魔師協会は人がいっぱいのようなので、鵠たちは首都に宿をとった。協会の人間と面識を持つのは良いが、蚕や桃浪のことも考えれば常に一緒という事態は避けた方がいい。

 そして鵠個人に関しては、一人で考えたいこともあった。

「天望葦切……か」

 この国に来てから聞いた名前。花栄国からやってきて、退魔師協会にも協力している凄腕の退魔師。

 その名を脳裏に思い浮かべて独りごちる。

「実直そうな青年だったな」

 ……が、当然のように反応が返って来る。それでは独り言ではなく会話だ。何故か蚕が同じ部屋の中にいた。

「お前、桃浪と出かけるんじゃなかったか?」

「鵠があまりにも難しい顔をしているものだから相談に乗ろうと思ってな」

「別に頼んじゃいないぞ」

「まぁ、そう言うな。あまり一人で考えすぎると袋小路に嵌まるぞ」

 子どもはいつものようににこにことしている。仏頂面の鵠や常に真面目な神刃とは表情筋の使い方が一から違うようだ。

 そう言えば桃浪もいつもにやにやしているし、朱莉もくすくすと笑っている姿をよく見かける。桜魔とはどいつもこいつもこんななのか? と鵠は一瞬どうでもいいことを考えた。

「蚕……お前には両親の記憶も生前の知識も何一つないんだったな」

「ああ、そうだ。この大陸に関する知識はともかく、自分がどういう立場の人間だったのか、そもそも一人の人間の怨念から生まれたのかどうかもわからない。私が私だと思っているこの人格すら、目的を中心核としてあとから形成された手段の一つなのかもしれない」

 蚕は聞きようによっては異様に寂しいことを言った。桜魔の存在意義など鵠は考えたくもないが、だからといって自分の人格すら手段呼ばわりできるとは。

 人間だったら最初に自分という存在があって、それを生かし幸福になるために目的や手段を得るのだ。

「まぁ、そう憮然とした顔になるな。私は自分を不幸だなどと思ったことはないぞ。私はこれでいいんだ。何せ人間ではなく桜魔だからな」

 少しでも私を憐れむならば、桜魔王を倒すのに協力してくれと蚕は言う。

「だが、そう聞くと言うことは、お前は両親のことが気になるのか?」

「……ああ」

「あの天望葦切とか言う青年、お前の兄弟なのか。神刃と蒼司王のように」

「いや、違う」

 鵠は首を横に振る。

「うちの両親は駆け落ち者だ。だから実の兄弟が実家にいることは考えづらい」

 蚕に対しては説明を端折ったが、鵠の両親自体が、実の兄妹だったのだ。だからこそ二人は家を出たのだろうし、そうである以上どちらかの血を引く子どもだけを実家に残しているなどと言うことは考えづらい。

 普通に考えれば両親とは別の人間が家を継いだのだろう。

「でも親戚ではある訳だな? だったら詳しいことを、葦切本人に聞けばいいのではないか?」

「……直球だな」

「遠回りをする意味が何かあるのか? それに、向こうもお前を気にする素振りは感じられたぞ。敵意があるかどうかまではわからんが」

 確かにそれが一番早い。目を逸らし続けてぎくしゃくとした関係のまま退魔師協会と連携がとれなくなっても困る。

 だが、やはり、直接は躊躇われる。天望家は交喙と花鶏に対し、どう考えているのだろう。

「お前が聞きづらいなら、私がさりげなさを装って聞くか?」

「……いや、別にいい」

 退魔師相手に仲間にしてくれと、それこそ直球勝負を仕掛けてきた相手にそんな高度な話術は期待できない。

 鵠は腹を決めた。

「俺が、自分で聞く。……悪かったな」

 蚕はにっこりと笑う。その笑顔だけ見ていれば、彼はただの親切で歳よりもしっかり者な人間の子どもにしか見えなかった。


..033


 しかし鵠は、葦切に話を聞きには行けなかった。それよりも早く、襲撃の報が飛び込んできたからだ。

「またか」

「前回が上手く行かなかっただろ? 今度は向こうも手練れを揃えてきたようだぜ?」

 話を拾ってきた桃浪が楽しげな笑みを見せる。獲物に食らいつく前の、獰猛な獣の笑みだ。

「具体的にどういう状況だ」

「桜魔王の側近がいる。早花と夬だったか? あの二人と更に三人の高位桜魔が出てきた。おっさんと女とガキだ。坊やぐらいの歳のな」

「高位桜魔が五人も?」

 それはかなりの戦力だ。敵も本気だということか。桃浪の知らせてきた三人がどれだけの腕前かは知らないが――。

「この国の退魔師だけじゃ手に負えそうにないな。私たちも出るべきだろう」

 蚕が冷静に判断する。

 蝶々始めとする朱櫻国の退魔師は決して弱くはないが、人間型の高位桜魔に真正面から当てるには不安のある実力だ。

 戻ってきた朱莉と神刃も加え、鵠たちは宿を出て襲撃の報があった地点に向かった。

 桜魔が出現したのは、周囲に何もない更地らしい。以前の襲撃で人がいなくなった部分だ。

 わざわざ巻き込まれる周辺住民がいない場所を選ぶなんて気が利く……とは言っていられない。向こうはどうやら本気で、手練れの退魔師たちを潰したいらしい。

「華節といい今回の襲撃と言い、どうして奴らは退魔師をそんなに恐れるんだ? 華節級の桜魔に易々勝てるだけの退魔師なんて稀だろうに」

「鵠さん……」

 神刃が微妙に困ったように眉根を寄せ、蚕が苦笑し、桃浪と朱莉は笑った。

「それはお前の存在だろう、鵠」

 蚕が解説する。

「これまで桜魔は団結せずとも適当な雑魚を放り込むだけで人類に多大な損害を与えられた。だが鵠、今はお前がいる。大陸を救う勇者と成りえるお前が。奴らはお前を恐れている。だからできるだけ自分たちに有利な状況でお前をさっさと始末したいのだ」

「この歳で勇者なんて寒いだけだ。やめてくれ」

 まぁ納得は行った。鵠自身はそれほど自分が大した存在だとは思っていないのだが。

「だが前回の襲撃でやってきた奴らは、全て殺しきったはずだ。この国に俺が来ていることを、向こうが知るはずないと思うんだが」

「ふむ? 言われてみればそうだな」

「まぁまぁ、細かい話はいいじゃねぇか」

 鵠の疑問に蚕も目を瞬かせ、深く考え込む。それを桃浪がいなし、目の前のことに注意を向けさせた。

「そんなもん、本人に聞けばいいだろ」

「あそこです」

 敵を視認した神刃の指摘が重なる。


 ◆◆◆◆◆


 更地を中心に焼け残った家々の残骸が端に残る地区。鵠たちは他の退魔師を待たず、一番に突入した。

「下手に隠れると後から来た方々に巻き添えで撃たれる恐れがあります」

 退魔師同士の連携は大変だ。個人で能力も霊力の強さも使う武器も異なるので、あらかじめ綿密な打ち合わせのない相手と連携する時は姿を晒し合っていた方が安全だ。

「ま、どっちにしろ俺や鵠は相手に近づかなきゃじり貧だし」

「そうだな」

 桃浪は軽く言う。弓を持つ神刃やまだ隠している切り札のありそうな蚕、遠距離攻撃を持つ桜魔を支配している魅了者の朱莉と違い、鵠と桃浪はとにかく近づいて相手を斬るか殴るかせねばならない。

 風のように翔けてきた五人は、桜魔の一団から少し距離を置いた場所に降り立つ。

「貴様は……」

 集団の中央にいる壮年の男が眉根を寄せた。

 五人のうち二人は見知った相手。華節との戦いの際に顔を合わせた、早花と夬だ。

 桃浪の報告通り、後の三人は見覚えのない顔だ。だがここで蚕が反応した。

「む、載陽か」

「知っているのか? 蚕」

「ああ、相当な手練れだ。あの男は、前の桜魔王の時代から生きている」

 蚕が相手の名前を知っていたことも驚きだが、それ以上に彼らを驚かせる言葉が蚕の口から飛び出した。

「前?」

「桜魔王って、今の奴がずっとそう呼ばれているんじゃないの?!」

 神刃が勢い込んで尋ねる。

「桃浪」

「いや、俺も知らねーぞそんな話」

 桜魔は外見年齢と中身が合っているとは限らない。だが蚕は確か生まれたばかりで、桃浪はだいたい見た目通りの年齢だと言う。

「そうか、桃浪は現在の桜魔王より年下なのか」

 現在の桜魔王は鵠や桃浪と似たような年齢に見えるが、あえてどちらが年上と問われれば、大体の人間は桜魔王の方が彼らより年上だと答えるだろう。

 だがそれならば――何故、蚕がそんなことを知っているのか。

「私には桜魔として生まれるまでの記憶や知識はない。……だが、どうやらこれも、理由は知らぬが私が元から備えていた知識のようだ」

「蚕……」

 神刃が子ども姿の桜魔を複雑な目で見る。だがここで問答している時間はないと、鵠が質問を重ねた。

「他の二人は見覚えあるか?」

「いや、知らんな。女の方と少年の方に関しては私にも知識がない」

 だが、載陽と呼ばれた壮年の男が手練れと言うならば、後の二人も相応の実力なのだろう。

 一方の桜魔側も、蚕の存在を中心に鵠たちに対して動揺が広がっているようだ。

「思わぬ獲物が網にかかりましたね」

 夬が零し、載陽を見る。早花も何も言わず視線を置いていた。今回の指揮官は一人だけ年嵩のこの男だという訳か。

「――夢見、祓」

「はぁい」

「はい」

 女と少年の名だろう、二人がそれぞれ返事をする。

 少年の方はいかにも生真面目そうでわかりやすい。だが女の方は、見た目からすでに何かがおかしい。

 鵠たちは警戒を高めた。

「お前たちは邪魔者を排除しろ。私はあの小僧に用がある。夬、お前たちもだ」

「了解」

「りょーかい!」

「……わかりました」

 載陽の方でも蚕の存在を警戒しているのか、彼は蚕に向かってくるようだ。

 各々の立ち位置と能力から、彼らは自然に相手を決めた。丁度良いことに、敵も味方も五人ずつ。実際にぶつかってみて勝てない相手ならば誰かと交替すればいい。退魔師側は、そのうち朱櫻国の退魔師勢の援軍もつく。

「戦闘開始だな」

 本日の主役と呼べそうな程に注目を集める蚕が、おっとりとそう告げる。

 次の瞬間、全員が弾丸のように動き出した。


 ◆◆◆◆◆


 朱櫻国の退魔師たちは焦っていた。すでに桜魔が出現したとの報に、全力で現場へと向かっている。

「こんどは高位桜魔が五体だって? 敵さんも随分と大盤振る舞いじゃねぇか!」

 兵破が血の気も多く騒ぐ。

「前はこんなことなかったのに」

 一人の退魔師が思わず零すのに、蝶々は口を開く。

「相手もそれだけ、葦切様を警戒しているんだろ」

 朱櫻国の桜魔被害は、隣国から葦切を呼び寄せた頃から大幅に減っていた。最近は桜魔側も彼を警戒して、雑魚や中位の桜魔だけではなく、人間の退魔師とまともにやりあえるような高位桜魔を投入してくるようになったのだ。

 また別の男が指摘する。

「だが、今回は花栄国からやってきた連中がいるんじゃないか? 朱莉お嬢様の知り合いの」

「ああ、そうだね」

 朱莉の連れてきた退魔師たち――特にあの鵠と言う男は、高位桜魔に勝ち、葦切との手合わせにすら勝ったのだ。

 最強の退魔師。

 花栄国で一時騒がれて以来久しく聞くことのなかったその名は、伊達ではなかったということか。

「これだけの戦力がいれば、高位桜魔五体程度敵ではないでしょう」

 話の渦中にいるはずの葦切は淡々と告げる。

 あらゆる桜魔から命を狙われているというのに、天望家の当主には恐れも何もないようだった。

 彼の脳裏に浮かんでいるのは、ずっと存在を知っていたのに、今まで話したことどころか顔を合わせる機会すらなかった青年。

 最強の退魔師こと鵠、『天望鵠』。

 やはり彼は、自分の――。

「着いたよ!」

 彼らが戦場に辿り着く頃には、すでに桜魔と鵠たち退魔師の激しい戦いが繰り広げられていた。


..034


 載陽が蚕に真っ直ぐ向かってきた。蚕はそのまま相手を迎え撃ち、他の面々はそれぞれ一番近い相手との対戦になる。

 神刃は祓、見た目の年齢的にも同じような少年。

 朱莉は前回と同じく早花。

 桃浪は夬。桜魔王に恨みのある桃浪としては、桜魔王の側近の一人である彼を殺せれば復讐の達成に一歩近づける。

 そして鵠は。

「きゃははははは! あたしの相手は、あなたなのぅ?」

 夢見と呼ばれていた、あの女桜魔を相手にしていた。

 見た目の時点から奇矯な女は、その性格もまともではないようだった。一言で言えば、狂っている。だが――。

「強い相手と戦うの、久しぶりぃ!」

「ぐっ……!」

「鵠様?!」

 強い。これだけ重い一撃を鵠が桜魔相手に食らったのは久しぶりだ。

 早々に紅雅を呼びだして二対一の状態で早花と対峙する朱莉が、鵠の呻きに反応して声をかけてくる。

「大丈夫だ。確かに手強いが、俺が簡単に負けるような相手じゃない。自分の敵に集中しろ!」

「はい!」

 朱莉の方も余裕がある相手ではない。早花は見た目こそおとなしやかな女なのだが、ただの女が桜魔王の側近を務められるはずがないのだ。

 まったく、敵も味方もなく、桜魔の女は怖い奴らだらけだと鵠は胸中で悪態をつく。

 夢見の攻撃は変則的。言葉にするとそうなるが、要は詳細がわからないと言っているのも同然だ。あちらから来ると思えばこちらから来る、の定石が普通の相手と違う。何せ時折、わざとこちらの攻撃を受けては喜んでいる。被虐趣味か。

「わぁ! 強い、強いねぇ……!」

 強い相手と戦いたいだけなら桃浪と似ているが、桃浪よりも更に変態……もとい、変則的なのだ。

 鵠はとにかく心を無にすることにした。普通の女桜魔だと思って戦うからいけないのだ。こういう相手だともはや諦めてしまうに限る。

「おぉ?」

 霊力を手のひらに集中する。


 ◆◆◆◆◆


 朱莉は早花と戦う。と言っても主に真正面から懐に飛び込むのは紅雅の役目だ。

 朱莉は魅了者としての能力は一流だが、身体能力がそれ程高い訳ではない。前回の小手調べのような戦いの時点で早花の実力がわかった以上、剣を扱う紅雅を後ろから援護する方が確実だった。

 援軍として朱櫻の退魔師たちが辿り着く前に決着をつけねば、彼女の配下もうっかり退治されてしまう恐れがあるのでこう見えても必死だ。

 少し離れたところで夢見の相手をしている鵠も、珍しく苦戦しているようだった。今回の敵はどれもかなり強い。

 早花の剣技は相変わらず鋭い。紅雅も剣士として相当の腕前だが、さすがに見るからに格の違う高位桜魔を相手にするのはきついようだ。

「頑張って頂戴ね、紅雅。もう少しで援軍が来るはずだから」

 退魔師の数が増えれば、少しは有利になるはずだ。

 朱莉と紅雅の役目は、それまでこの女が他の仲間の救援に行けぬよう足止めし続けることだった。


 ◆◆◆◆◆


 桃浪は夬に飛び掛かった。後先考えずに頭から突っ込んでいくように見えるが、その実、相手の攻撃を躱してこちらの剣を届かせる的確な動きだ。

 だが相手もそう簡単に引っかかってくれる程単純ではない。

「やれやれ。まだあなたは奴らのもとにいたのですか」

「おうよ。華節の仇をとらせてもらうぜ。手始めに桜魔王を呼びだすためにお前さんの首だけでも送りつけたいんだが、ここらで素直に死んでくれねーか?」

「人間じゃあるまいし、桜魔は死んでも首なぞ残りませんよ」

 問題はそこじゃないだろう、と突っ込みを入れる者がいないので、桃浪と夬のくだらない会話は続く。

「大体お前さんたちこそ今回はなんであのおっさんにくっついてる訳?」

「あなた方の時と大体同じですよ。まぁ、載陽様にはあなたの養い親と違って、陛下に成り代わる野心はありませんが」

「さいようさま、ねぇ……」

 夬が載陽のことも桜魔王と同じく崇めているらしいと気づいた桃浪の唇が皮肉に歪む。

「なら尚更、あいつらは俺の敵だ」

「!」

 底冷えする目付きと共に突き出された一撃。確かに躱したと思った夬は、次の瞬間脇腹に走った痛みに目を瞠った。

「何故……」

 戦闘はあちらこちらで続いている。


 ◆◆◆◆◆


「ほぉ、ならばもうお前以外の前時代の桜魔たちはほとんど残っていないというわけだな!」

「そうだ! どいつもこいつも、己の力を過信して単身で暴れた結果、退魔師どもに討ち取られている!」

 蚕は載陽と戦いながら、さりげなく最近の桜魔事情を聞き出していた。自分の中にある桜魔界の知識が正しいのかどうか、その確認も含めて。

「退魔師に殺された者たちはまだいい! だが高位桜魔に多いのは、王の命に背いた結果、粛清された馬鹿者どもだ!」

「前桜魔王は気難しい性だったものなぁ」

 しみじみと言う蚕に、載陽の苛立ちはますます集った。

「貴様は何故そんなことを知っている!」

「いや、それが私にもよくわからんのだ」

 載陽が出した名はどれも、今の桜魔王が生まれる前――すなわち二十七年以上前に死んだ高位桜魔たちの名だ。

 載陽と同世代の高位桜魔のほとんどは、前桜魔王に粛清されてこの世には残っていない。

 そして早花や夬、桃浪たちのような若者は、当然自分が生まれる前に生きていた桜魔たちの話など知る由もなかった。

 なのに何故、こんな見た目は十にも満たぬ子どもがその名を当然のように口にするのか。

 普段はもっと師父然として冷静な載陽の精神を、この子どもは狙った様子でもなく削っていく。

「私にも私の事情はよくわからない。だが私は、桜魔王を倒すことを目的として生まれた」

 それだけが自分の存在に与えられた意味だと、蚕はもう幾度も鵠たちの前で繰り返した台詞を、載陽の前でも繰り返す。

「だから桜魔王を祀り上げて勢力拡大を狙うお前にも、やはりここで死んでもらうとしよう」

「……夢見! 祓!」

 載陽は部下二人の名を呼んだ。


 ◆◆◆◆◆


 鵠は載陽が目の前の女と、神刃が相手をしている少年桜魔の名を呼んだのを聞いていた。

「えー、今がいいところなのにぃ!」

「行かせるか!」

 蚕を積極的に助けようと言うわけではないが、ここで彼女に載陽と合流されるのはまずい。載陽の中に彼女たちと合流すれば蚕にも鵠たちにも勝つ目算があるのなら尚更だ。

「邪魔しないでよぉ。あたし、載陽様に呼ばれたから行かないとぉ」

「その必要はない。お前はここで死ね!」

 鵠は夢見が戦線を離脱しないよう、圧力をかけるように攻勢に出る。体勢を立て直すまでに、少しでも削れれば有利だ。

「もぉ」

 攻め続ければ夢見は諦めて、鵠を倒さねば載陽と合流することもできないと理解したようだった。

 これでいい。そう思った瞬間だった。

「っ! 神刃ッ!」

 一気に形勢が動いた戦場、いきなり弱くなった神刃の霊力を感じて鵠はそちらへと駆け出した。


 ◆◆◆◆◆


 祓は載陽に呼ばれた瞬間から合流のための策を練った。

 神刃と祓の実力は拮抗している。なまじ実力が近いだけに、これまでどちらも迂闊に動くことができなかった。

 だが載陽が呼んでいるとなった以上、祓はどうしてもそちらに向かわねばならない。

「行かせるか!」

 神刃も鵠と同じように、目の前の敵を仲間と合流させないよう足止めを狙うつもりだった。しかし。

「無駄だ」

 これまで小刀二本を扱っていた祓が、いきなり戦法を変えてきた。

 手にしていた小刀がいくつもの小さな手裏剣のような形になり、神刃に一目散に向かってくる。

「くっ……!」

 無数の刃が迫りくる。神刃は急所を狙う幾つかは叩き落したが、それでも全ては避けきれない。

「神刃!」

 弱まった霊力に気づいた鵠が自分の相手を放ってまで、神刃の助太刀に来てくれる。その分夢見が載陽と合流し、蚕は先程より苦戦気味だ。

「無事か?」

「大……丈夫です。まだ、戦えます」

「無理を言うな」

 祓の攻撃を易々と全弾対処しながら、鵠は負傷した神刃を気遣う言葉をかける。

 急所こそ避けたものの、鋭い刃に切り裂かれた傷が幾つも痛む。首や胴体を守った分、手足が傷ついてこれからの動きにも支障が出そうだ。

 神刃の戦力はもう当てにならない。足を引っ張ってしまった。そう考えた時だった。

「朱莉! お待たせ!」

「蝶々!」

「悪いな! 出遅れちまったぜ!」

「兵破のおっさん」

 朱櫻国の退魔師たちが到着した。そして無数の苦無が、上手く味方を避けて敵の頭上にだけ降ってくる。

「数で勝っている今なら、高位桜魔にも勝てそうですね」

 相変わらず淡々と言う葦切の顔を見て、載陽たちは引き際を悟ったようだった。

「夢見、祓。それに夬、早花」

「退くのですか?」

「それしかあるまい」

 結局蚕を始末すること叶わなかった載陽は口惜しそうにしながらも、数的に不利と悟って撤退を決めた。

「俺たちの出番なかったな」

 早々と退散した桜魔たちを見送り、深追いを避けた退魔師側でも兵破がぼやく。そんな兵破に、葦切は冷静に諭した。

「いえ、退いてくれて助かりましたよ。彼らがこれだけ苦戦する相手です。あのまま戦っていたら我々もどうなったかわからない」

「マジか?! え、じゃあ葦切殿のさっきのあれは」

「はったりです」

「マジか……」

 顔色を変えずに言う葦切の様子に些か毒気を抜かれながら、退魔師たちも桜魔の姿が消えた空を見て退却を決めた。

..035


 翌日、神刃は退魔師協会の庭の片隅で落ち込んでいた。

 高位桜魔の集団での襲撃があった昨日の今日なので、鵠たち一行も昨夜は退魔師協会に泊まりこんでいたのだ。神刃はそのまま朝から鍛錬用に庭の片隅を借りている。

 けれど、今一つ訓練に身が入らないのは、昨日のことを気にしているからだ。

 自分が桜魔の少年に負けそうになったことで、鵠の――皆の足を引っ張ってしまった。蚕や桃浪は元々桜魔で桃浪に関しては敵だったとはいえ、彼らはしっかり結果を出している。

 敵の攻撃を見事に食らって無様に敗北しかけたのは、神刃だけだった。

 鵠は別に神刃を責めなかったが、神刃は自分を赦せない。守られるために、彼の負担を増やすために桜魔王討伐への協力を求めた訳ではない。

「……しっかりしなくちゃ」

 朱櫻国に帰ってきて、蒼司と会い、自分が緋閃王の息子だと鵠に明かしたことで、内心動揺している。それはわかっている。

 緋閃の息子だという事実は、それだけで神刃を苦しめるものだった。そしてそれを自身が知った三年前の事件にまつわる記憶の全てが、今も神刃を責め続ける。

 幸せになるなんて、赦されるはずない。

 穏やかな生活なんて、例え今の世界が平和だったとしても神刃にとっては幻想だ。むしろこの桜魔ヶ刻だからこそ、桜魔王を倒すという目標を自分に課すことでまだ戦い続けることができるのかもしれない。

 でも、もうその強さも意味がない。

 鵠は凄い人だ。彼にとっては、自分の微々たる力なんてそこにあってないようなものだろう。

 雑魚退治に血道を上げて、ようやく一端の退魔師と名乗れるくらいの実力で鵠と肩を並べようなどと、考える方が不遜なのだと思い知った。

 ――……別に俺だって、そう昔から強かったわけじゃないぞ? 現に死にかけて火陵に助けられている。

 鵠はそう言う。でも神刃は知っている。鵠は今の神刃と同じ年頃の時だって、神刃より圧倒的に強かった。

「はぁ……」

 自分を鼓舞して訓練に戻らねばと考えるのに、どうにも気が乗らない。剣を握る手に込められたのは力ではなく、行き場のない迷いだけだ。

 そんな時だった。

「よー、坊や。朝からお稽古とは精が出るねぇ」

「桃浪」

 お稽古とは何だ、これは訓練だと反論したいところだが、桃浪から見れば神刃の剣技など所詮子どもの稽古にしか見えないのだろうことも理解して神刃はぐっと口を噤んだ。

「おや? 珍しい。お前さんは言いたいことを我慢しない性質だと思ってたんだがな」

「うるさい。邪魔をするならあっちに行け」

「まぁそう邪険にするなよ。どうだい坊や、そんなに暇なら俺とやろうぜ?」

「お前と?」

「鵠も蚕もお嬢も、皆忙しいって俺と遊んでくれないんだよ」

「お前朱莉様にまで声をかけたのか……と言うか、遊ぶってなんだ。ふざけ過ぎだろう」

「いいじゃないか、多少はふざけたって。真面目一辺倒だからって勝てるわけじゃないのは、お前さんが誰より知ってるだろ?」

 神刃はぴくりと片眉を上げた。

「まぁ、昨日のあれは、祓とか呼ばれていた向こうの坊やも真面目系の相手だったけどなー」

「……桃浪」

 神刃は目を座らせて尋ねた。

「要するにお前は、俺を怒らせて、何でもいいから戦いたいんだな」

「その通り」

 色男はいつも通りにやにやと笑っている。

「あーもう! だったら好きなだけ相手をしてやるさ! むしろお前もそのまま退治されろ! この性悪男め」

「御冗談を。桜魔王を倒すまでは死ぬわけにはいかねーっての!」

 神刃は剣の切っ先を突きつけ、桃浪も楽しそうに自らの得物を引き抜く。

 挑発する桃浪と彼の言動にもう我慢がならないと怒る神刃の、訓練と言う名のくだらない喧嘩は、こうして始まったのだった。


 ◆◆◆◆◆


 葦切は庭を通りがかった際、その光景を目にした。

「あれは、鵠殿のお仲間の」

 大人しそうな少年と飄々とした青年。そう記憶していたのだが、今日の二人はどう見ても騒がしい。あれでは訓練と言うよりも子どもの喧嘩だ。

 特に桃浪が挑発して神刃を怒らせ、著しく効率を下げている気がする。

 あれでは駄目だ、訓練にはならない。いっそ仲裁に入ろうかと考える葦切だったが、その光景を見て驚愕した。

「……っ!」

 神刃の剣がかすった先、桃浪の腕から零れた血が瞬く間に幾枚もの桜の花弁に変わる。

 あれは桜魔の血だ。何故桜魔の血が?

 腕を斬られても余裕綽々の男を見る。彼が笑いながら斬られた腕を一撫ですると、傷口はあっさりと塞がった。

「桜魔――」

 葦切は言葉を失った。


 ◆◆◆◆◆


 鵠はまたしても朱莉と顔を合わせていた。

「……神刃の奴はまだ落ち込んでいるのか?」

「わざわざ私に聞かずとも、本人の様子を見に行けばいいと思いますよ」

 まったくもって正論である。だが鵠には神刃と直接話をする前に、朱莉に聞いておきたいことがあったのだ。

「お嬢、あんたは俺たちをこの国に誘ったが……あいつにとっては負担の大きい展開だったんじゃないか?」

「そうでしょうね。神刃様は実の父親のことが嫌いですから」

 朱櫻国に来たことで、鵠たちはこれまで神刃が黙っていた彼の出生を知ることとなった。

 大陸に桜魔ヶ刻と呼ばれる時代をもたらした最悪の大罪人。先代朱櫻国王、緋閃。

 彼のせいで緋色の大陸は戦火に包まれ、そこから派生した桜魔が今も人々を苦しめ続けている。

 この先鵠たちが桜魔王を倒せず人類が滅びるのであれば、緋閃王は正しく「大陸を滅ぼした男」になる。

 今まで鵠はそこに何の感慨もなかった。最強の退魔師と呼ばれたこともあれど、勇者など柄ではない。緋閃王の後始末を、わざわざしてやる義理もない。

 けれど今は、それで神刃が少しでも救われるのなら、桜魔王の一人や二人、倒してやるという気になっている。

 それをそのまま伝えると、朱莉はいつもとは違い、散る前の桜のように儚く微笑んだ。

「あなたがそう想ってくださっただけで、救われているものはありますよ」

 そうは思えない。昨日の戦いは実力差的に仕方がないと思うのだが、祓に負けた神刃は落ち込んでいる。

 だが、彼の落ち込んでいる理由はそれだけではないように思える。

 この国にいることそのものが、神刃の精神を不安定にさせるのだ。

「彼にとって自分が弱いことは、そのまま大陸の危機に直結する。どうしても桜魔ヶ刻を終わらせたい神刃様は不安なのですよ」

「それだけか?」

「……」

 先日――華節の事件の後も、朱莉と鵠は神刃の精神性について話した。

 神刃は桜魔という存在に対し憎しみを抱いているが、その一方で、いくら相手が桜魔であろうと、人の姿をした生き物を無闇に殺すことに罪悪感を覚える性質だと。

 どこまでも残酷になりきれない、なんて生き辛そうな性格だと思うが、だからこそ鵠は神刃のひたむきさに心を打たれたのだ。

 しかしその一途さは、彼自身を押し潰しそうな罪悪感から生まれている。

 それは桜魔を殺す時の態度にも表れているが、それだけではないことにも鵠は気付いている。

「……あいつはそんなに、火陵が緋閃王を殺したことに傷ついているのか」

「え?」

 驚く朱莉の反応が予想外で、目線を伏せて物思いに沈んでいた鵠は顔を上げた。

「違うのか? 神刃自身がそう言っていたんだが」

「私は……緋閃王を殺したのは、神刃様自身だと聞いております」

「何?」

 思わぬ答に鵠は驚愕する。

「いえ、待ってください。私が神刃様の事情をお聞きしたのは、主に蒼司様からなのです。神刃様があなたに嘘を吐くとは思えませんので、多分……鵠様が聞いた話が正しいのだと思います」

「確かに俺も、神刃が父親を殺したというよりは、火陵が覚悟を持って王を殺害したという方が納得する。だが……」

 ならば何故、朱莉が聞いた話では神刃が王を殺したことになっているのか。

 この情報の食い違いの中には、神刃のどんな感情が隠されているのだろう……。

「鵠さん、実は――」

 朱莉が何かを言いかけた時だった。

「鵠殿!」

 葦切が何故か怒った顔で、場に乱入してきたのだった。

..036


「……貴方方は一体何を考えているんです!」

 葦切の怒鳴り声に重なるように、二人分の足音が彼の後を追ってきた。

「待ってください、葦切さ――あ、鵠さん」

「悪い、鵠。見られちまった」

 ほぼ塞がった腕の傷跡を見せる桃浪に、鵠は状況を理解した。つまり、神刃と桃浪の鍛錬で桃浪が負傷して、桜魔としての体質を葦切に見られてしまったのだろう。

「桜魔を……こんなものを仲間に入れるなど!」

「あ、あの、葦切さ……様」

 激昂する葦切を押し留めようと神刃が名を呼ぶが、いかんせん彼の制止では弱すぎた。葦切は鵠だけを真っ直ぐに睨み付けている。

 同じ天望の血を引く男たちは、ようやく真正面から対峙した。

 形ばかりの手合わせをした時とはまた違う、今度こそ本音のぶつけ合いだ。

 いつもは何をするにも淡々としていた葦切が、今は切れ長の目尻をきつく吊り上げている。

 皮肉なことに、そうして感情を露わにした姿が鵠の父・交喙に似ていて、妙な郷愁を鵠に感じさせた。

「桃浪のことか。こいつは桜魔だが、桜魔王に養い親を殺されて恨んでいる。復讐のためにだが、桜魔王を倒したがっている。俺たちと目的は同じだ」

 まだ完全に信用しきった訳ではないだとか、蚕も桜魔なのだとか、そう言った細かい事情は省略して、鵠は簡潔に説明する。

「信用できますかそんなもの! いくらなんでも、桜魔を味方にするなどありえません!」

「……」

 沈黙したままの朱莉が微妙に眉を顰める。

 しかし葦切はくるりと彼女の方を向いて、思いがけない言葉を続けた。

「嶺朱莉嬢。あなたについては私も話を伺っています。なんでも元々人間の退魔師であったのが、諸事情によって桜人となり桜魔王を倒すことを選んだのだとか」

「……あら」

 どうやら隠すまでもなく、朱莉の事情は葦切に知らされていたようだ。

「では私のことは御納得頂けているのでしょうか」

「私をこの国に呼びだした国王陛下と、退魔師を纏める蝶々殿直々に懇願されれば聞かぬわけには行かぬでしょう」

 朱莉の事情をこの国で知るのは主にその二人だ。葦切程の退魔師に後で気づかれてややこしいことになるよりはと、初めから説明していたらしい。

「それにあなたは魅了者だ。桜人化しても支配下の桜魔たちの制御が外れていないことが、今もあなたが人間の頃と同じ霊格を保っていることを表明している」

「……」

「ほぉ。魅了者とはそうなのか」

「感心している場合ではありません」

 退魔師としても稀な朱莉の能力について的確に判断した葦切の説明に、鵠は思わず感嘆の声を上げてしまった。すかさず葦切に睨まれる。

「朱莉殿のことはさておき、この男は完全に桜魔ではないですか。それと……そこの童もですね」

 いつの間にか皆に合流していた蚕は、葦切の指摘に動揺の欠片も見せず、堂々と頷く。

「うむ、そうだ」

 隠す気の欠片もない。

「私の名は蚕。ここ最近生まれたばかりの桜魔だ。核となった怨念が持つ生前の記憶こそないが、生まれた時から『桜魔王を倒す』という目的意識だけはあった。そのために今は鵠たちと共に行動している」

 見た目は十にも満たない小さな子どもの姿をしている蚕だが、その口振りや振る舞いはただの子どものそれでも、ただの桜魔のそれでもない。

 桜魔の外見は当てにならないと言う言葉がこれほど似合う者もいないだろう。蚕は精神年齢だけで言えば、恐らくこの場の誰よりも大人びている。

 理性と知性を湛えた眼差しは、これまで激昂していた葦切をも怯ませた。なまじ彼は鋭いからこそ、蚕が鵠にも匹敵する強大な力を持つ桜魔でありながら、人間に害意を持っていないこともわかるのだろう。

「……桜魔の全てが人間に敵意を持っていないことは知っています。そもそも桜魔にも下位や中位と言った区別がある。運良く生まれることができても、人間に危害を加えるどころか、生き抜くのがやっとの者もいることも」

 蚕や桃浪はそんな可愛らしい存在ではないが、彼らが人間と敵対しない桜魔であるという理屈も一応わかると葦切は言う。

 しかし。

「我々は、退魔師です」

 魔を滅ぼす者だ。

 桜魔を殺し、桜魔ヶ刻を終わらせる者だ。

「その我々がのうのうと桜魔と馴れ合っていては、示しがつきません」

「示しなんてつける必要ないだろう。俺はこいつらのことを仲間内以外に言う気はないし、こいつらだって同じだ。それに」

 鵠はちらりと蚕と桃浪を一瞥する。

「無事に桜魔王を倒せたとしたら、どうせこいつらも桜魔という種の中に居場所はない。完全に同族を裏切ってこっちにつくか、そのまま裏切り者として追われ死ぬかだ」

「うわー。ひっでー」

 大して酷いとも思っていない口振りで桃浪が言う。彼はこんな会話でも、けらけらと笑っていた。

「まぁ、私は別にどちらでもいいがな。私の力があれば並の桜魔に殺されるとも思えんし、お前たちといるのも中々楽しい。別に人間の振りをして生きていくのでも構わない」

「……蚕」

 神刃が複雑な表情で蚕を見る。

 最初から明らかに人間と敵対し辻斬りを行っていた桃浪と違い、蚕は彼らの前で人間に危害を加えたことはない。

 神刃としてはある意味、桃浪以上にやりにくい相手だ。この子どもは――桜魔なのに憎みきれない。

 鵠は葦切に告げる。

「あんたに退魔師として守るべき基準があったとしても、その基準が俺と同じとは限らない。そこまで言うならこっちはこっちで勝手にやるから、あんたたちも勝手にしてくれ」

「鵠さん……」

「蒼司様には悪いけれど、仕方ありませんわね」

「朱莉様まで……」

 葦切は不信を通り越して、もはや疲れ切った目をしている。

「退魔師は基本的に、桜魔被害の依頼を受けてから動くものだろう? 今、こいつらの被害に遭ったと、あんたに依頼をする人間はいない。悪いがこのことは忘れてくれ。――でなきゃ、俺たちもあんたと戦わなければならない」

「あくまでその桜魔たちを庇うと言うのですか」

「悪いが俺は元々はぐれ者の非正規退魔師だ。自分の勘と実力が全て。あんたたちみたいに協会に守ってもらったことはないんでね。俺が信じるべきものは、俺自身で決める」

「おーおー、格好いいねー、勇者様」

「桃浪、やっぱり退治されたいのか? お前」

「いーや」

 いつにもましてふざけている男は肩を竦める。

 そんな二人のやりとりを見つめながら、葦切が感情を落としてきたような声で言う。

「あなたはやはり、あの両親の血を引いているというのか」

「え?」

「何故憎まずに生きられるのです。あなたが、あなたこそが全ての桜魔と桜魔王を憎むべきなのに。少なくともあなたの御両親は、この世界の誰よりも桜魔王を憎んでいたはずなのに」

「俺の親が……何……」

 両親が憎んでいた?

 桜魔王を? 桜魔ではなく、彼らを統べる桜魔王のその存在を?

「桜魔王のせいで、天望花鶏は全てを失ったのに」

 ――そんな話は知らない。

 脳裏に生前の仲睦まじい両親の姿が過ぎる。

 彼らが実家を捨てて駆け落ちしたのは、あの二人が兄と妹、実の兄妹で禁断の恋に落ちたからだと鵠は納得していた。――納得してしまった。それは充分に全てを捨てるに足る理由だったから。

 だが葦切のこの言い分は、鵠の知らない何かを彼が知っているように見える。

 まさか両親に、鵠もまだ知らない何か他の事情があったのか?

「鵠殿! 葦切様!」

 協会の方が騒がしくなってきた。切羽詰まった様子の少年退魔師が一人駆け込んでくる。

 一番立ち直りが早かったのは朱莉だった。彼女とさして変わらぬ歳の少年に問いかける。

「どうしました?」

「桜魔の襲撃です! 南地区でまた襲撃があったと報せが! 先日の高位桜魔五体が含まれているそうです」

「! すぐに行きますわ!」

 話をしている場合ではない。相手がまた載陽たちであれば、ここにいる面々でなければ対抗すらできないのだ。

 鵠たちも思考を戦いに切り替える。

 しかし回廊を駆け抜けるその一瞬の間に、葦切はこれまでほとんど言葉を発さなかった神刃にも一つの問いを放っていた。

「君はどうするんだい? 桜魔を身の内に飼いながら、桜魔王を憎むという矛盾を許すのか?」

「お、俺は――」

 葦切も尋ねはしたが、本気で神刃の答を必要としている様子でもなかった。さすがに兵破や蝶々と顔を合わせる頃には退魔師の顔に戻っている。

 神刃はうまく答を出せないまま、とにかく鵠たちについて現場に向かうことになった。

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