万能スキルで家事も楽々こなせたりします
ああーーそうか…………
これが、おもらし――――
立ちこめる湯気の中、俺の両目はいずれも、恥じらう女騎士をとらえていた。
「いやっ、どうしてぼくが……こんな…………」
自らの描いた水たまりに、彼女はへたり込んだ。
着底。
その湿った音は、身も心も沈み込むリュセルの屈辱と羞恥を演出しているかのように鈍く、そして生々しかった。
「お前……言ったよなあ? ここは何人の手出しも許さん俺の家だって」
「ご、ごめんなさい! いや、ちがうの――」
「ふむ。なにがちがうのじゃ?」
「ごめん……なさい…………」
年頃の少女らしい口ぶりで、彼女は目を伏せる。
「まあいい。いや、良くはねーが、そういうこともあるさ」
おもらし。
それは本来、子供がやらかすものだとされる。
だが、漏れてしまった以上は仕方がない。
事実から次どう動くべきか考えられるのが大人だ。
「ない。ないよぉ……ぼくはこんなことなかったもん!」
つまり、風呂と洗濯だ。
「俺もねーよ。っつっても、もう起きちゃったことには変わらんし、一緒に漏らすか?」
「ふぇ!? な、なにを――」
「冗談だ。ほら、立てるか?」
首をぶるぶると振るリュセルに、手を差し伸べる。
「わ、わたしなにか着るもの持ってきますね! こら、アンナノ。じっと見ない」
「宿敵が目の前でそそうしたのじゃ。見とどけずして、なにが魔王か!」
「すまん。知っての通り、こいつ遠慮ないタイプで」
リーリアは大人の対応、アンナノは魔王の対応だが、依然としてリュセルは縮こまったままだ。
「あの~、わたしのなんですが、着ますか……?」
「うぅぅ……玄関先を汚した上に、奥方の施しを受けるだなんて――この身を恥じることしかできないこの身を恥じ入るばかり…………」
しかし、アンナノの服は物理的に入らないだろう。
かと言って、俺が魔力で生成して贈るのは、愛する相手だけだ。
「分かった。俺が洗濯しよう」
「よ、よろしいのか……? 貴公はあれほど動きたくないと――――」
「俺自身が魔力炉みたいなもんなんだぜ。身動き一つせずに洗濯だってできる。しかも一瞬で済む。服が乾くまで裸で待つには涼しすぎるだろ」
実際、勝手に生成されている魔力へ意味を与えれば、それは完了する。
「水よ――――」
その一言で、眼前の空間に泉が湧いた。
「な……ッ!?」
宙に浮いたまま固定されている水を目にして、硬直する一同。
「す、すごい…………」
「さすが我が主よ」
「普段のマイペースなお姿も愛してますけど、やるときはやるってだんな様も素敵です!」
「しかし……この身が着たままでは――って、えぇッ!?」
先ほどまで自分を包んでいた服がいつの間にか絡め取られ、水流に揉まれているのを見た全裸騎士は、あらわになった胸元を両腕で隠して再びしゃがみこんだ。
「もう終わるぜ」
当初の毅然とした態度とは一変し、柔肌を耳まで赤らめて縮こまる彼女は、俺の声におそるおそる小動物のように様子をうかがう。
「さて、裸になったついでだ。風呂ぐらい貸すから入ってきな」
「そうまでしていただくなんて恐縮の限り……汚れた体でお先に浴場へ立ち入るというのも――」
「どうせ俺たちも夜には入るんだし気にすんな。それとも、みんなで入るってか?」
「はにゃッ!?」
今度は小動物さながらビクッと飛び上がる女騎士。
「おお! マスターとはだかの付き合いとあらば、わらわもはせ参じよう!」
なんで魔王こいつは目を輝かせてるんだ。
「従者たる者、主の背中ぐらい流さなくてはな!」
「アンナノは自分の頭を洗うだけで泣きそうになってるじゃないですか。まったく、愛する夫が女性2人と入浴だなんて......と、とにかくッ! せめてわたしも一緒に入ります!」
「さて、お前が気ぃ使うってんなら先に入ってきちゃってもいいが、その格好で待つのもそれはそれでしんどいだろ? 好きに決めな」