第六話
どんなに憂鬱でも明日はやってくる。足取りは重かったが、それでもなんとか大学にくる。
はあ、とため息をつくと、また隣の友人につっこまれた。
「なあにー?恋の病?」
「・・・違うって」
「あ、今度はほんとに違うみたいだね」
どうしたの?とのんびりとした口調で聞いてくる高木夕菜。会うのは一週間ぶりだ。
成瀬の話を聞いて私なりに考えたが、分からないことがある。
あのね、変なこと聞くけど、そう前置きして、
「人が血まみれで倒れてたらどう思う?」
「・・・そりゃあびっくりするでしょ」
「それが嘘で仕組んだものだったら、なんでそんなことをしたんだと思う?」
そんな質問が出てきたことに驚いているようだが、
「――――それはね、その人に自分のこと見て欲しかったんじゃないかな」
彼女は寂しそうな目をしてそう答えた。
「・・・そんなことをしてまで?」
「そうでないといつか忘れちゃうじゃない。どんな姿でも目に焼き付けて忘れないようにしたかった。」
私には分からない。
「それをしたのが女の子で、それをして見せたのが男の子なら、彼女は彼のことが好きだったのかもね」
私には分からなかった。
成瀬はその出来事をずっと忘れられないでいる。未だにその過去に彼は縛られているのだ。
そんなショックを受けさせるような真似をして忘れられないようにするなんて、
悲しい。成瀬もその彼女も。
「それはっ―――――身勝手で、独りよがりだよ」
「・・・そうね」
夕菜は顔を伏せていた。だから、表情は分からなかった。
それが、1月25日のこと。