第五話
授業が終わった後、みんなが教室を出ていく。だが、俺と広崎は教室に残った。
正直、話す必要なんてないと思う。広崎は高校のとき同級生だったという関係だけだ。それでも話そうと思ったのは、俺が誰かに話すことで少しでも楽になりたいからだと思う。あの時、血まみれで倒れていた彼女から逃げだ罪悪感が今も消えていない。そのために、広崎を利用するのか。
「あのさ、やっぱり――」
「聞くからね!」
広崎は珍しく憮然とした表情をしている。
「成瀬のせいで授業に集中できなかったんだから!」
ああ・・・
「それは・・・悪かった。」
気まずくなって謝るとくすっと笑う広崎。表情がころころ変わるんだな、と新しい一面を見た。
「それで、どうしたの?」
途端に真剣な表情に変わる。
その目をみて、
俺は10年前のことを話し出した。
「ふーん、そっか。成瀬はそのことをずっと引きずってるんだね」
成瀬は谷崎結菜より先に帰ったはずなのに彼女は橋の上に血まみれで倒れていた。
そして、戻ってきたら彼女がいない上に、倒れていた痕跡はなかった。
それは、なぜか。
成瀬は幻覚としてそれを納得させたいようだったが、幻覚なんて都合の良いものはない。彼は確実にそれを見たのだろう。
「というかね、一つ気になったんだけど」
「うん?」
「谷崎結菜ちゃんはなんで立ち止まって空を見上げてたのかな?」
そんなことまで考えたことなかった。
「・・・ただ、ぼーとしていただけなんじゃないか」
答えが見つからず、俺はそう答えた。
その後、大学の校門前で成瀬とは別れた。心なしかすっきりした表情を見て、私もほっとした。どこか思いつめた表情をしているのが気になって仕方がなかったから。
雨も雪も降ってはいない。空を見上げるとどんよりとした曇り空だった。
私は成瀬が見たのは幻覚なんかじゃないと思っている。
だとすれば、この出来事はすべて彼女が仕組んだことだ。