第一話
「ねえ、空から花が降ってきているみたいだね」
学校からの帰り道。色とりどりの傘が通り過ぎていく中、彼女は立ち止まり空を見上げていた。俺はそんな彼女の横を通り過ぎようとしていたが、話しかけられ足を止めた。唐突にそんな言葉を言われ、なに詩人みたいなこと言ってるんだ、とも思ったが、
「ああ、綺麗だね」
と彼女のように空も見上げず、ただそう答えた。彼女は俺を見て、穏やかな笑みを浮かべていたと思う。
それが10年前のこと。
キーンコーン・・・
そんな音が聞こえてはっとする。どうやらぼーっとしていたみたいだ。今の授業のほとんどが頭にはいっていない。当然手元にあるノートも一応シャーペンは握っているものの真っ新なままだった。
はあ・・・とため息が漏れる。
「なに?ぼーとしていたみたいだけど」
友人が近寄ってきた。なんか顔がにやにやしている。
「別に・・・何その顔?」
「いやー成瀬がそんなぼーっとするの珍しいなーと思ってー」
「そんなことないし」
―――――あ、すねてる。
思わず笑ってしまいそうになるが、ここで笑ったらますますすねるので必死にこらえる。だが、結局こらえきれずににやにやしてしまうがまあ仕方がない。
成瀬博希とは高校のとき同じクラスだった。真面目な性格でクラスのリーダーをしていたり、生徒会に入っていたりとなにかとみんなから頼りにされているイメージがある。どっちかというと大人しく、友人とふざけ合ったり、バカ騒ぎをしたりということはなく、それらを黙って見守る方だった。だが、案外子どもっぽいのか、喜怒哀楽がすぐに顔に出て、面白いと思っている。こんなこと本人に言ったらどんな顔するかな、とも思ったが今日はやめとこう。
「次、授業入ってる?」
そんなことを考えていると成瀬にそう声をかけられた。顔は普段の表情に戻っていた。
「うん?今日はもう終わりだけど?」
「じゃあ、今の授業のノート貸して」
「へーノートも取れないほどなにを考えてたのかなー?」
―――あ、またすねた。
だが、わずかに顔を歪めたのを見えて、目をそらした。その表情の中には悲しさや辛さが見えた気がしたから。
「ごめんごめん」
そう謝りながら、鞄の中からノートを出して渡す。
「また、移し終わったら返す」
「分かった。じゃあまた」
そう言って別れた。
それが、1月12日のこと。
授業が終わり、大学の門を出る。冷たい風に身を震わせながら帰路を急ぐ。
授業中、窓の外を降っていた雪も今はやんでいた。
その雪を見て思い出してしまったのだろうか。
『ねえ、空から花が降ってきているみたいだね』
そう言った彼女はもうどこにもいないというのに。
投稿が遅くなり、すみません。
自分なりになんとか完結させました。最後まで読んでいただけると嬉しいです。