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叔父さん登場

お待たせしました。

 夕暮れの王都の市街を馬車で抜けていく。夕飯時のためか飲食店からは明かりと喧噪が漏れてきて屋台からは香ばしいにおいが漂ってきている。

 王都の様子は欧州での古い町並みそのものだ。一番近いイメージはモンサンミッシェルだろうか。よく見ると建物は二種類に大別できるようだ。石造りで鉄による補強が入っているものと、すべて木造のものだ。前者は比較的大きな建物で後者はそれ以下と言った感じだ。

 地面は基本的には石畳だ。基本的というのは、ちらちらと見える裏路地には石が張られていない。まあ、今居る場所が王都の中でも比較的外周に当たる位置なので単純に工事が間に合っていないか、予算の都合で手が回っていないかのどちらかだろう。


 さて、ここで一つ気になっていることがある。今、この馬車は王都の中心、貴族や有力者が暮らしている貴族街(正式名称ではないが一般的にそう呼ばれている)に向かっている。ターニャを乗せたままだ。研究所は西の方角と言っていたけど・・・いいのだろうか?そもそも、彼女の目的を聞いていない。


「あの、先生はなぜ王都に?」

「あれ?言っていませんでしたか?」

「何も聞いていません。」

「俺も王都に行くなら乗せてくれと言われただけだな。研究所の方じゃないのか?」

「研究所の方ですよ。この間、放って置きすぎて上からも下からも怒られてしまいまして。今回はそうなる前に様子見に来たわけです。後はカールに会わせたい人が居るので、今回はいろいろと好都合なのですよ。」

「僕に会わせたい人ですか?」

「ええ、そうです。魔法陣学の著者ですよ。あなたの作った冷凍装置のことを手紙に書いたらえらく食いついてきまして。あなたも魔法陣に興味があるようなのでちょうどいいと思ったのですが・・・もし乗り気じゃなければ言ってください。断ったところで害になることはありませんから。むしろ、あれが悔しがる様を見れて私が嬉しいですね。」


自分が作ったものを評価されるのは素直に嬉しい。予定外の話ではあるけれど合わない理由も特にないのでここは会っておこう。いや、むしろ会っておくべきだな。こっちにもいろいろと都合がいい。


「大丈夫です。僕も興味があるので会ってみたいです。」

「そうですか。では、私の方でアポイントを取っておきましょう。予定が決まりましたらまた教えます。」

「お願いします。あの、じゃあ先生はこのまま研究所の方へ?」

「それなんですが、日も暮れ始めていますしこのまま研究所の方に行っても大して出来ることもありません。それに行きたくもない食事会に誘われるかもしれないので今日はやめておきます。っと言うわけでショーン、今晩泊めてください。」

「それは俺じゃなくてマルコに言ってくれ。」

「なぜそこであなたのお兄さんの名前が出てくるのですか?・・・あなたまさか!?」


ショーンの兄って事は俺の叔父に当たるのか。さて、こういう長期滞在の時は普通は宿か別荘に泊まるのがセオリーだったのだと思うけど何故に叔父の名前が出てくるのだろうか?


「男爵家にもなってまだ王都に屋敷を構えていないのですか!?いえ、あなたのことです。屋敷を持っていないことにあまり疑問は感じません。ですがこういうときは普通、宿に泊まるものでしょう?しかもよりにもよって自分の友人の家ではなく本家の家に泊まり込むなんて・・・ああ、頭が痛くなってきました。」

「お前が何を気にしているのか解らないが、そんなに気にするほどのことか?」

「滞在するのがあなた一人ならそこまで問題にはなりません。ですがカールが一緒となれば話は別です。」


ショーンは何故ターニャがそこまで騒いでいるのか心当たりが全く無いようだ。因みに俺も解っていないので親子そろって相当に阿呆な面と晒しているだろう。親族の家に泊まることがタブーな風習でもこの国にはあるのだろうか?


「貴族は普通、王都に屋敷を構えるか貴族向けの宿に泊まるのが一般的です。他人の屋敷に泊まるのはそういった設備のない地方の話です。普通ならあなたも屋敷を持っていないのなら宿に泊まるのが常識なのです。まあ、今まではあなた一人だったから特に問題にはならなかったのでしょうが。今回はカールが居るので話は変わってきます。

 ゲルハルドの分家の人間が本家に嫡男と一緒に乗り込むと言うことになるのですよ?」


ターニャの言葉で俺もショーンもやっと事の重大さに気づいた。前世なら孫を連れて祖父母の家に遊びに来たとなるだろうけどここは貴族社会だ。このままゲルハルドの本家に行けば、見方によっては分家が本家を乗っ取る足がかりを付けにきたとも取られかねない。

 特に、ショーンの名前は広く知られている。当然皆が皆仲好し小良しの集団ではないから、ショーンのことを快く思わない連中もいる。そういった連中からすればこの一件はショーンを堕とす格好の材料となる。確かにこれはよろしくない。


「ああ、そういうことか。通りで今回カールを連れて行くと言ったら渋ったわけだ。駄目だな。どうにも俺はこういった駆け引きのたぐいは苦手だ。」

「痛くもない腹を探られる前に今回の会議の間に屋敷の下見をした方がいいでしょう。」

「そうだな。ティアナとティーネも産まれたし、旅行でこっちに出てくる機会も増えるからこれを気に思い切って買うか。」


目の前で大きな買い物の話がでているけど俺が買うわけではないので蚊帳の外だ。会話に入れないので何となしに外を見てみれば、ちょうど馬車が門を潜って貴族街にはいるところだった。

 入った瞬間、今までの何処か雑多な雰囲気から何処か品のある空気に変わった。建っている建物から歩いている人が身につけている物まで一気にランクが上がっている。住んでいる世界が違う、と言った表現が一番しっくり来るかもしれない。個人的にはこの空気、肌に合わない。生まれは貴族でも中身(前世)が一般庶民だから仕方ないか。


 しばらく進んでいると一軒の屋敷の前で馬車が止まった。門の前に掲げられた家紋はわが家の物によく似ている。たぶんここがゲルハルド本家の屋敷なのだろう。

 屋敷の大きさは周りに建っている物と比べてあまり変わらない、普通の大きさだ。とは言っても一般市民が住んでいる家に比べれば遥かに大きい。外見も奇抜なところはなくて周りに巧く溶け込んでいる。

 ゲイルが二言三言、門番と話すとあっさりと通してくれた。さっきショーンから叔父が渋っていると聞かされたので一悶着あるかと思ったけどそんなことは無かった。


 馬車を降りてエントランスに入ると一人の男性が迎えてくれた。顔立ちはショーンによく似ている。恐らくこの人が俺の叔父、マルコ・ゲルハルドだろう。お腹周りがちょっとぽっこりしているのが残念だが歳を考えれば十分男前だ。


「やあ、兄さん。今年も世話になるよ。」

「いい加減、自分の屋敷を買ってくれ。うちは貴族向けの宿じゃないんだから。・・・で、お前の息子はともかく何でターニャ先生まで一緒なんだ?」

「本当は研究所に行く予定だったのですが時間が中途半端なのでショーンに泊めてほしいと頼んだらこの結果に。まさか未だに屋敷を購入していないとは思ってもいなかったので。さっき馬車の中で説教しました。あと、先生はやめてください。私があなたの家庭教師を務めたのはもう何十年も前ですよ。」

「先生はいつまで経っても先生ですよ。それと、このバカに説教してくれてありがとうございます。遠回しに言っても全く理解しないのでどうしようかと思っていました。」

「バカで悪かったな。そうだ、迷惑ついでにいい空き物件がないか教えてくれないか?会議の間にある程度決めてしまいたい。」

「お前が屋敷を買ってくれるならお安いご用だ。」


俺に全く関係のない話が続くので暇な間、本家の屋敷のエントランスを眺めていた。入って直ぐ目に付くのは色鮮やかな真っ赤な絨毯だ。エントランスホールの形は円形になっている。その壁に沿うようにして左右から階段が降りて入り口と反対側の壁で合流している。壁は暗い色の木で覆われていて絨毯の赤が派手にならないように抑えている。

 日が暮れていることもあって照明がついているが蝋燭やランプと違った明かりが照らしている。たぶん照明の魔道具だろう。よく見ると暖色系の光を放っている物がちらほらと・・・いや、あれは覆っているガラスの方に色が付いているのか。そういえば光そのものに色を付けるのは難しいとか言ってたな。割と当たり前のように出来るのですっかり忘れていた。

 壷や絵画といった美術品そっちのけで魔道具を食い入るように見ていると周りがやけに静かになっていることに気づいた。顔を上げればそこには、苦笑いしているマルコ叔父、呆れているショーン、生暖かい視線を向けてくるターニャがいた。なんぞ?


「まあ、子供には退屈な話だよな。」

「カール、お前なぁ。形でもいいから美術品の方に目を・・・」

「いやいや、これでこそカールです。」


悪かったな審美眼が無くて。昔から美術館は俺にとって鬼門だよ。絵の善し悪しは解らん。


「ほったらかして悪かったな。ショーンの兄でお前さんの叔父のマルコだ。よろしくな。」

「こちらこそ挨拶が遅れて申し訳有りません。カールハインツです。よろしくお願いします。」


第一印象は重要なのでサンドラ直伝のお辞儀をする。顔を上げるとそこには感心した顔をした叔父の姿があった。


「ショーン、よかったな。お前の血は入ってないみたいだぞ。完全に嫁さんの血統だ。」

「そう思うだろ?魔法を交えての戦闘センスは下手したら俺より上だ。」

「組み手で一本取られたりしたのか?」

「親子喧嘩で足下すくわれて階段から突き落とされた。」


おい、その表現だと俺がもの凄い攻撃的な性格をしているように聞こえるぞ。


「子供相手だから全力を出した訳じゃないが、それでもやられたことに変わりはない。ターニャもその場に居たから単なる親バカじゃないぞ。」


マルコ叔父さんが信じられないと言った顔をターニャに向けると、ターニャはそれが事実だとうなずいて見せた。


「子供が元聖騎士副団長相手にどうやって?」


ターニャが何か確認するような表情を俺とショーンに向けてきた。内容に予想が付いたので二人そろってうなずいてゴーサインを出す。


「二人の許可ももらいましたし、いずれバレることなので根回しも含めて言っておきましょう。カールは無詠唱の担い手です。それもあのメーメットのような〈なんちゃって〉ではなく正真正銘の、です。」

「・・・冗談ですよね?」

「残念ながら冗談ではありません。ここで変に隠すと話がこじれるので、カールに実際にやってもらいましょう。出来ますか?」


長旅で疲れてはいるけどその程度で使えなくなるほど柔な鍛え方はしていない。言葉よりも行動で示した方が早そうなので、さっさと杖を取りでして・・・。


「先生、問題のない魔法って何があります?」

「そうですね・・・火は論外でしょう。あなたの魔力ですと加減を誤ると一瞬で屋敷が灰になってしまいます。水は掃除が大変ですから氷とかはどうでしょうか?」


ああ、氷があったか。因みに、屋敷が灰になると言ったところでショーンが納得した顔をして、マルコ叔父さんが顔をひきつらせていた。

 さた、使う魔法が決まってしまえば後は簡単だ。単純に氷の球一個でも問題ないだろうけどインパクト重視で四つ同時に起動させる。それを等間隔に列べて俺の周りをぐるぐると周回させて見せた。

 完全な球体の氷が俺の周りを回っている光景にマルコ叔父さんは完全に固まっている。因みに発動させる魔法を決めてからは俺は一切口を開いていない。


「信じてもらえましたか?」


ターニャに声を掛けられてやっとフリーズ状態から叔父が脱した。


「・・・ゲルハルドの家系から無詠唱の担い手がでるとは。やっかいなのは本家じゃなくて分家に出てしまったことか。取りあえず、騒ぎになってからじゃなくて、今この場で解ったことに感謝だな。カールは今は・・・」

「五歳です。双子の月(三月)で六歳になります。」

「そうか。もちろん学術院には行かせるのだろう?」

「当たり前だ。当の本人も希望している。」


学術院への入学はショーンやセイラの親のエゴではなく俺の希望だ。・・・邪な思惑(可愛い女の子)が無いとは言わない。


「騒ぎを聞いてから対応が後手に回る前でよかった。このことを知っているのは?」

「俺とセイラと家の使用人たち。後は・・・」

「私と研究所に一人ですね。研究所の方は問題ありません。もしバラしたらカールとの一切の接触を禁止すると言い含めていますからね。当の本人もそれを嫌っておとなしくしています。」

「わかった。この事はカールが学術院に入るまで口外しないように。その間に俺の方で対処しておこう。」

「息子のタンクレートにはいいのか?次期当主だろ。」

「いや、伏せておこう。まだ未熟な部分が多いからうっかり口を滑らせるとやっかいだ。」


話からすると、タンクレートは俺の従兄だろう。ショーンがかなり晩婚だったからとうに成人である十五歳を越えていても不思議じゃないな。


「話がでるまですっかり忘れていましたけど、彼は今どこに?」

「王城で会議の資料作りだよ。今日明日が山場だから明後日には帰ってくるだろう。」


後で聞いた話で従姉にイザベラが居る。こちらは本家の第一子なのでとうに成人を迎えて嫁いでいる。会議に会わせて王都に来ると言っていたのでどこかであう機会があるかもしれない。


 この後、夕食の時にお互いに近況を話したりして時間を過ごした。明日からは王都での活動開始だ。









 パソコンと一緒にプロットや設定が一緒に死にました。おかげで登場人物の年齢だとか細かい部分が完全にあやふやになっています。


 この話を投稿する直前に十四話の小鬼退治でルーレ地方の総人口を四百人から二千人に変更しています。四百人で麦の収穫から出荷ってアメリカ並の農工具を導入しないと無理ですよね。


 誤字脱字などを見かけましたらお知らせください。評価、感想ともにお待ちしています。

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