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ゲイルと商売と特訓

 理力による身体能力の強化、長いのでブーストと呼ぶ、で解ったことはとにかく反動が酷い。あのゴブリン退治の後も屋敷の裏庭でちょくちょく使ってみてはいるけど、使った後は確実に筋肉痛に見回れている。あとは、使ったところで全く制御が出来ないのも問題だ。軽くジャンプしたら二階の窓に手が届いたのには驚いた。完全に振り回されてる。訓練すれば使えるかもと思ったのは最初だけで今はちょっと諦めモードだ。アクション映画の主人公のようには動けないね。


 ブーストはひとまず何か思いつくまで保留にすることにして魔法陣についてを今はやっている。

 魔法陣は大きく分けると制御・安定化、増減幅、変換の三種類になる。俺が使っている杖の魔法陣は、増幅一つ、変換一つ、制御・安定化が二つで割と初心者向けの設定だ。

 この魔法陣、増幅の一つをとっても結構な種類がある。陣の大きさや書かれている内容によって得られる効果は千差万別だ。火に変換しやすい増幅方法だとかどれだけ魔力を込めようと一定のラインまでしか増幅されないものまで把握するのが面倒なぐらいある。その原因が魔法陣の中に組まれている記号や文字だ。小魔法陣とでも呼べばいいのだろうか。とにかくこれを法則に則って列べることで色々な効果が出るようだ。

 さてこの魔法陣、ずっと何処かで見たことあると思って過ごしてきたわけだけど、ついに思い当たるものが頭に浮かんできた。回路図だ。きっかけは魔法陣を見ながら、やたらめったら曲線だ円だと曲がりくねった線で結ばれていることが気になって全部直線で書き直してみたのだ。その結果、俺のノートの上に現れたのは記号の置き換わった回路図だった。

 魔法の謎を紐解いていたらいきなり目の前に見なれたものが現れたので興奮を通り越して唖然としてしまった。予想外・・・ではないか。アニメやマンガで見る魔法陣は見栄えやデザイン性を重視したただの絵柄だけど、これは正真正銘機能する本物の魔法陣だ。記号や文字が抵抗やコンデンサーと同じだと思えば違和感は自然と消えていく。

 前世でも似たようなものは存在している。人工衛星を作っていたときに基盤を担当していた奴がよく、ヒエロニムスマシンみたいに紙に書いて動いてくれればいいのにとぼやいていた。このヒエロニムスマシンは、紙に書いた回路図に手をかざすと実際に組み立てた回路と同じ働きをすると言う擬似科学オカルトだ。実験では五百キロ離れた場所から害虫退治が出来ただとかかなり怪しいものだ。

 仕組みが解って内容が知っている分野なら試してみたくなるのが世の常だ。ちょいと我が家の執事に頼んでみよう。


「ゲイル、お願いがあるんだけど。」

「なんでしょうか坊ちゃま。坊ちゃまがお願い事とは珍しいですね。」


そういや、家の使用人にちゃんとした頼みごとをするのって今回が初めてだったな。


「魔道具の材料って手に入る?」

「魔道具ですか?どのようなものか言ってくだされば王都の方から取り寄せますが?」

「いや、完成したものじゃなくて材料がほしいんだ。」

「坊ちゃま、材料だけでは何もできませんよ。あまり無理を申されても・・・。」

「ゲイル、耳貸して。」

「はい?」


ゲイルが不思議そうな顔をしながらも律儀に耳を寄せてきた。うん、別に叫ばないから。


(ドライアイスが出来るかもって言ったらどうする?)

(!?・・・嘘ではなさそうですね。)


「解りました。直ぐに手配いたしましょう。」

「ありがとう、ゲイル。ああ、あまり高いものじゃなくていいから。」


さて、材料はゲイル(悪巧み仲間)に頼んでしまえば安心だ。順序としては逆だけど今のうちにドライアイスを作るための魔法陣を作図しよう。


 制御と増幅の図は魔法陣学・総論(テンプレート)から引用することにする。肝心なドライアイスを作る変換の部分は一からの作図だ。

 ドライアイスの作り方は結構単純だ。二酸化炭素に高い圧力をかけると液体になる。この液体になった二酸化炭素を急激に気体に戻してやろうとすると気化熱という形で熱が奪われて二酸化炭素が凍り、粉末状のドライアイスになる。液体が気体になるときに気化熱で冷たくなるのがイメージしにくいかもしれないが、スプレー缶をずっと噴射していると異常に冷たくなるのがそれだ。

 魔法陣の中に組み込む行程はまず二酸化炭素の生成、高圧縮、解放だろう。特定の物質の生成は随分とわかりにくい形にはなっているけど原始の電子配置を書いてやれば作れる。内容はシンプルなくせに随分と凝った記号を書かないといけない。圧縮と噴射は本の通りに書き込んでいく。大まかな形が決まったら細かい調整だ。楽しくなってきた。




◆◆◆◆◆◆◆◆




 ゲイルに頼んだ材料が届いたのは二週間ほど経ってからだった。クォーツにミスリル板に彫金用の(たがね)に麻の袋だ。袋は粉末状になって出てくるドライアイスを受け止めるためのものだ。

 部屋に運び込んで早速、作業に取りかかる。ミスリルに鏨を使って魔法陣の下書きを傷つけていく。下書きが終わったら今度は彫り込んでいく。行くんだが・・・これ難しいぞ。鏨の尻を小さな金槌で叩いて掘っているけど力加減が難しくて溝の中がガタガタだ。このままだと溝が魔法陣の一部と見なされてまともに機能しない。熟練の職人に頼めばやってはくれるだろうけど、幾ら取られるか解ったものじゃない。こういうときに感光タイプのプリント基盤みたいな便利なものがあれば・・・プリント基盤か。ちょっと試してみるか。


 裏庭に出て、厨房から借りた陶器製のコップに強力な酸を魔法で生み出して注ぐ。そこにさっき削って出来たミスリルのカスを放り込んでみる。しばらくするとゆっくりと泡を出しながらミスリルが解けだした。これならいけそうだ。

 部屋に戻って下書きをしたミスリルの板に分厚く蝋を塗りたくる。塗り終わったら塗った蝋を魔法陣の形に削り取っていく。終わったらまた裏庭に出て今度は土魔法でミスリル板が入る大きさの桶を作る。後はさっきと同じように酸を入れて板を放り込めば蝋が塗られていない部分が溶けだして溝になる。溶ける速度が遅いので明日の朝に引き上げればいい感じになっているはずだ。

 そのまま立ち去ろうと思ったけど誰かが(主にニコラが)間違って触ると危ないので張り紙だけしてその場を後にした。



 次の日の朝、ミスリル板を引き上げると三ミリほどの溝が均一に刻まれていた。これで魔法陣は完成だ。ミスリル板を一度水で洗浄してまた部屋に持って行く。完成した魔法陣にクォーツとドライアイスの噴射口に当たる部分に麻袋を取り付けて完成とする。早速ゲイルを呼んでテストしてみよう。


 再び、庭の方に来た。ゲイルだけの予定だったけどソフィーアもついてきた。食材の鮮度を保つ魔道具(結構なお値段だそうで一般市民の家にはない)は家にもあるそうだが、凍らせることが出来るものは無いようだ。王都の方には売っているようだけど燃費が悪いのでよほどの食い道楽でもない限り買わないそうだ。因みに、維持には魔石なるものが必要だが未だお目にかかれていない。というか冷蔵庫もどきが家にあることすら今まで知らなかった。


「坊ちゃま、この麻袋は何でございましょうか?」

「ドライアイスがこの中に溜まるように。」

「なるほど。私が試してもよろしいでしょうか?」


ゲイルさんすっげー目がキラッキラしてるよ。男は新しいものにはやっぱり弱いよな。その気持ちがよく解るのでノーとは言わずにただ無言で頷いた。


「ありがとうございます。では早速。」

「あ、トリガーは水じゃなくて風だから注意してね。」


ゲイルは俺の言葉に静かに頷いてクォーツに手をかざした。そして・・・


「あの、坊ちゃま。呪文の方は?」

「え、無いよ。」

「「え・・・。」」


ゲイルと見学してたソフィーアが絶句した。

 うん、普通そうだろうね。魔法は魔道具と呪文と魔力の三つが必要だ。それはどんなに単純な物でも例外はない。照明器具でも「光あれ」のような簡単な呪文が必要だ。

 ならばこいつは世界初の呪文のいらない魔道具かというと全然そんなことはない。こいつにもしっかりと呪文は必要だ。魔法陣学に魔法陣とそれに対応する呪文があるのでそれを使って魔道具を動かす専用の呪文を作るわけだけど・・・。黒歴史(古傷)が抉られて呪文なんて作れなかった。いや、結構頑張ったよ?でも、いざ自分の考えた呪文を口に出すと、全身に鳥肌が、こう、ね?ぶっちゃけ無理。

 じゃあ、もう魔力さえ流れれば動くようにしてしまえと言うことでこの魔道具には、特定の呪文はなくて風をトリガーとした魔法で一定の魔力を流し込めば動くようにしている。と言うことをゲイルに説明する。黒歴史の部分はもちろん俺の中の秘密だ。


「わかりました。では、『風よ、我が前に集いて刃となって放たれよ』。」


ゲイルの詠唱から若干のタイムラグでドライアイス製造機から勢いよく 白い煙が吹き出した。もちろん故障じゃなくてドライアイスの噴煙だ。どうやら問題なく動くようだ。

 しばらく動かして、製造機を止めて麻袋の中を確認すると粉末状のドライアイスが溜まっていた。


「坊ちゃまに作ってもらったのは固まりでしたよね。粉じゃちょっと使いづらいですね。」

「容器に移して押し固めたらソフィーアにあげた固まりになるよ。」


百聞は一件にしかず、と言うことで土魔法で円柱状の容器を作ってその中にドライアイスの粉を流し込む。上から押し固めてやるとペレット状になったドライアイスの固まりが完成した。


「すばらしい、流石は坊ちゃまです。」

「うん、これで王都でソルベのお店が開けるね。」

「そうですね。」

「じゃあ、僕の名前でお店を出してね。」

「かしこまりました。」


あら、てっきり反対されるかと思ったら案外すんなり要求が通った。


「ゲイル、これ僕のところにも少しはお金はいってくるよね?」

「それはもちろんでございます。坊ちゃまの発明がなければお店として成り立ちませんから当然です。あり得なお話ではございますが、例えショーン様が坊ちゃまの発明品を取り上げて事業を興そうとしてもこのゲイルが全力で阻止させていただきます。

 坊ちゃまはゲルハルド家の未来を担うお方です。坊ちゃまの将来のためになることであれば全力でサポートさせていだきます。」


格好良すぎるぞ、この執事。

 

 その後も、ゲイルと料理の出来るソフィーアの意見も交えながら具体的な話し合いをした。売り出すソルベの種類から店員の確保、ドライアイス製造機はゲルハルド家の息がかかった秘密の守れる職人に頼むことになった。凍らすことが出来る魔道具が高価で珍しいからこの事業は実質、独占したようなものだ。

 ついでに、ドライアイスが氷と違って水が出ないから食材を水浸しにしないで鮮度を保って輸送できることを教えたらゲイルがものすごく楽しそうな(悪い)笑顔を浮かべていた。何事もやった者勝ちだよな。



◆◆◆◆◆◆◆◆



 五歳の誕生日を終えて(今回は全員引き分けだった)一月経った蟹の月(四月)の中頃、俺は裏庭でゲイルと向き合っていた。王都の方ではソルベのお店一号店の準備が順調に進んでいるけど今向き合っているのは商売の話じゃない。ゲイルは何も持っていないけど俺の手には片手用の木剣が握られている。組み手の真っ最中だ。


 いつかはやろうと思って先延ばしにしていたけど、切っ掛けはショーンからのアドバイスだった。ブーストの改良を庭でやっていたらそれを見ていたショーンが、「凄い魔法だけど体の使い方が出来ていないから振り回されているんだ。ちょっと体術をやって見ろ。」と言ったからだ。確かに、前世を含めて体を限界まで動かすことがほとんどなかったから正直、体を動かす姿勢(フォーム)がよく解らない。

 そう言うわけで、最初はショーンに稽古を付けてもらっていたわけだけどこれが全くと言って俺に合わない。ショーンの剣術は西洋式で技はあっても基本は力で叩き斬るものだ。この力任せな動きのせいで完全に体が振り回されて組み手や練習どころじゃないのだ。ショーンも合わないものを無理矢理やらせるつもりはないようで(多少残念がってはいた)代わりに教えてくれるようになったのがゲイルだ。

 ゲイルの動きはショーンと違ってかなり独特だ。例えるならタイの武術、エスクリマ(カリ)の動きに古武術を組み合わせたような動きで力任せに動くと言うよりは相手の動きも自分の動きも利用して全体で一つの動きになっている感じだ。難易度は確実にこちらの方が高い。

 俺が難易度の高いゲイルの動きを取ったのは、ショーンの剣術が合わなかっただけじゃなくてブーストの動きが外から無理矢理加えられた力に近いと思ったからだ。勢いついて前に跳びすぎたのも相手に思いっきり投げられたと思えば対処の仕様がある。

 そんなわけで、ゲイルにちょくちょく組み手をやってもらっている。ゲイルが忙しいときはブーストを使って受け身や反動を殺す練習をしている。これが思いの外、型にはまって楽しい。因みにゲイルの使いこの武術、フォヴィと言う名前らしい。


 視線の先のゲイルは無手だがリーチと実力の差で木剣程度じゃ心許ない。魔法もこの訓練の間は使えないのでブーストも無理だ。ただ、力を巧く使えば五歳の体でも大人を投げ飛ばせるらしい。今のところ一度も成功した試しはないけど。


「こないのでしたらこちらから行きましょうか?」


攻めあぐねいているとゲイルが余裕の笑顔で問いかけてきた。ちょっと腹が立つ。確かに埒があかないのでこちらからモーションをかける。

 片手剣を振るうと俺の剣ではなく腕の方を自分の腕でいなしてきた。そのまま防御に回したのと逆の手が俺の方に向かってくるので、さっきの仕返しとばかりにこちらも逆の腕を使ってゲイルの腕を当たらないようにいなす。意識が逆に向いたところで手に持ってる剣をゲイルが奪いにきた。抵抗せずにそのまま手を離すとゲイルの腕が少しすっぽ抜けるような動きを見せた。そこに剣を持っていた手で掌底をたたき込んで剣を明後日の方向に弾き飛ばす。これでお互い無手になった。

 そこからはひたすら打ってはいなしての繰り返しだ。集中が切れたときに勝敗が決まる。


 三分ほどそのまま打ち合っていると俺の疲れをゲイルが見逃さず甘く打ち込んだ右手を捕まれてこちらの打ち込みの力を利用して思いっきり投げ飛ばされた。地面が近づいてくるのを感じながら受け身をとろうとして、思いっきり失敗した。ブーストのときは少しマシにはなってきたけど相変わらず人から投げられるとどうやっていいか解らないで、地面と熱い包容をかます羽目になっている。


「大丈夫ですか坊ちゃま?」

「痛い。けど無事。」

「さようですか。では休憩したらもう一回やりましょう。実戦に勝る練習なしです。」

「はーい。」


ショーンとゲイルの組み手は何度か見ているのでこれが全力でないのは解っている。手加減されている上に負けるというのはなかなか悔しいものがある。


「坊ちゃまはまだ五歳なのですから、あまり気にしない方がよろしいかと。」

「解っているけど、悔しいものは悔しいよ。」

「大丈夫ですよ。坊ちゃまならいつか私に追いついて追い越せますから。」


そう言えばいつか聞こうと思っていたことがあったな。休憩中だしちょうどいいか。


「ゲイルはいつからお父様に使えているの?」

「私ですか?ショーン様がお生まれになったのとそう変わらない時期ですね。

 私の家系は代々ゲルハルド家に仕える使用人の家系です。わが家の方針で長くお仕えするため、またお仕えする方を理解するために子供のうちからその方と一緒に過ごすのです。因みにサンドラはセイラ様の御実家、アマツガミ家に代々仕える使用人の家系ですよ。」


へぇ、ゲイルもサンドラも使用人の家系のサラブレッドだったのか。あれ、じゃあ俺に仕える使用人は二人の家系からじゃなくてニコラが?なんだろう嫌じゃないけどなんか不満だ。主にあいつの残念な性格のせいだけど。


「ああ、ニコラは坊ちゃまの正式な使用人ではございませんよ。私とサンドラの家から選ぶ予定でしたが、坊ちゃまと同い年の子供しかいませんでして・・・。坊ちゃまが学術院に入る前には何とかなるようにしているところでございます。」


俺の使用人になるそいつも大変だな。自分で言うのも何だけど絶対に振り回す自信がある。


「さて、休憩は終わりにしてもう一本参りましょうか。次はもう少し頑張ってくださいませ。」


数分後、俺はまた宙を舞っていた。こんちくしょう。





 屋敷に戻るとニコラが双子に「私がお姉ちゃん」と洗脳していたのでドライアイスをぶつけてやった。人の可愛い妹に何やってやがるこの駄メイドは。



 

 





十万字がやっと見えてきました。一話だいたい五千字でやっているので後四話ほどですね。


感想・評価ともにお待ちしております。今後ともよろしくお願いします。

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