今年もやってきた
ちょっと体調崩して書けませんでした。十万字を越えるまではなるべく今までのペースで行きたいと考えています。
この世界で生まれた瞬間は解ったけど、前世でいつ死んだのかが解らない。単純に考えれば寝ている間に死んでここに生まれたと考えられる。それでもifを考えてしまう。今も俺は病院のベッドの上にいて、この世界は俺が見ている夢じゃないかと。そんな、のどの奥に小骨が刺さったような違和感を抱えたまま日々を過ごしている。
羊の月になって新年早々、ショーンは王都の方に行っている。なんでも毎年恒例の貴族が集まっての会議があるそうだ。予定では、今年は俺とセイラも一緒に行くはずだったのだがセイラの妊娠が発覚したので取りやめになった。
セイラの方は酷かったつわりも今は落ち着いている。お腹の方は言われて気づく程度ではあるけど確実に大きくなっている。この世界じゃ超音波診断なんてないから実際に生まれるまで性別も解らなければ逆子かどうかも解らない。出産で命を落とす母親も多いと聞くのでかなり不安だ。少しでもリスクを減らすために俺は今、治癒魔法の修得に力を注いでいるが、結果はあまり芳しくない。呪文の補助があれば発動自体は可能だ。ただ、いろいろと応用の利く無詠唱になると途端にハードルが上がって成功率は二割を切っているのが現状だ。
詠唱と無詠唱の違いで少しだけ解ったことがある。詠唱は呪文の通りの効果しかできない上に、威力も呪文の影響を受けて減衰か増幅されてしまう。これに比べて無詠唱はトリガーの影響をモロに受けるので、効果から威力まで自由自在にできる。その反面、トリガーで全てを決められないと発動しないか暴走してしまう。
治癒魔法の無詠唱での難易度を跳ね上げている要因は、俺が体が治るプロセスを知らないからだ。病気にしろ傷にしろ知っている知識は高校で習った知識の延長上でしかない。ちょっと知っている物もメディアを通して知った程度でトリガーにするにはイメージとしてかなり弱い。
じゃあ、成功率の高い詠唱をすればいいじゃないかと言うかもしれないがこれがそうも行かない。治癒魔法も万能じゃない。目に見えている傷や骨折なら簡単に直せるが、原因が特定できていない毒や内臓の疾患となると効率が驚くほど悪くなる。出産での死亡率が高い理由もここにある。出産でどこが傷ついたか解らないから魔法の効果が薄く、結果的に効果が現れる前に死んでしまうのだ。
そのために治癒士は解剖、毒、病気の知識が必須となって、専門性の高さもあって一回の治療費が馬鹿にならない。特に、魔力が高く知識を持っている治癒士に頼むとなると前世で有名な全身黒ずくめの顔に傷がある凄腕の医者に頼むのと変わらない金額を要求される。そんなことができるのは王族か、金に余裕のある貴族ぐらいだろう。一介の男爵領にそんなお金はもちろん無い。
ああそうだ。治癒魔法の修得のハードルが高い要因がもう一つあった。そんなに簡単にけが人や病人が見つからない。せいぜい厨房で料理をしているソフィーアが切り傷か火傷をするぐらいで、試す機会が殆どない。
無いなら作ればいいと思って、自分の腕に軽い切り傷をナイフでつけようとしたらセイラとニコラに羽交い締めにされて止められた。その後、軽く二時間を超える説教を食らったのであんな事はもうやらない。セイラの説教はかなり怖いしニコラの泣き顔は精神的にきつい。
「で、君は自分のお腹に手を当てて何をやっているんですか?健康な人間に治癒魔法は効きませんよ。」
ターニャが俺の不審な行動に声をかけてきた。ここは俺の自室で、今は午前の授業が終わって休憩中だ。
「ちょっとした実験です。全然うまく行ってませんけど。」
俺は超音波を出して自分の体を探るエコー診断を風の魔法で音を出すことで再現しようしているわけだけど全くうまく行っていない。試そうと思った理由は詠唱での治癒魔法の効果の底上げのためだ。原因が分からないから効果が薄いのであって原因さえ特定できてしまえば効果は大幅にアップすると考えてのことだ。
できたらいいなで試してみたわけだが結果は、何も解らない。超音波自体は再現に苦労しなかった。超音波で跳ね返ってきた音を拾って頭の中にイメージとして像を浮かべるところまではうまく行っていた。問題は、頭の中に浮かんだそれが、いったいぜんたい何を指していてどうなっているのかがさっぱり解らないのだ。これには俺もお手上げだ。ターヘル・アナトミアみたいな解剖学の本でもないと・・・あっても自信がないな。
「そうですか。私としては君にもできないことがあってホッとしているところですね。風の魔法で氷を作ったときには私の中の何かが壊れそうでしたよ。」
彼女が言っているのはこの間作ったドライアイスのことだ。最初は水を温度を冷やして氷を作る行程を考えていたけど、何故か魔力の消費が激しいのだ。詠唱で氷を作っても通常の水魔法に比べて消費が激しく、初めて詠唱での魔法に失敗した。理由は単純で氷の魔法は水魔法の中でもかなり上位に位置するようで使える人間も限られるそうだ。
魔法を失敗する感触はかなり奇妙な物だった。無詠唱の時は発動しないか、最初のウォーターボールのように明後日の方向に飛んでいって終わる。これに対して詠唱の時は頭の中に浮かべていたトリガーに変な物が混ざって、魔法が発動しなくなる。一番身近な感覚にたとえるなら、食べ物に入っている砂だ。イメージしていた食感の中にいきなりジャリっとしたあの嫌な感じが入ってくる、そんな感じだ。
最初は躍起になって水から氷を作ろうとしていたけど、途中から必ず水から作る必要がないことに気づいた。そんなわけで、風の属性で二酸化炭素を押し固めるイメージをしたらあっさりドライアイスが完成した。撃ち出すと氷よりも硬いので威力も高い。攻撃手段としてはかなり使える。
因みに、ドライアイスのことをソフィーアが聞きつけて、新しい料理に使えるかもとたまに俺にせびりにくるようになった。火傷にだけ気をつけるように言って渡したが、大丈夫だよね?
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時間は過ぎて双子の月がやってきた。ショーンも既に王都から帰ってきて、今は屋敷の執務室で仕事をしている。セイラのお腹もお腹が目立ってきた。そんな彼女にサンドラが影のように常につきまとっている光景が日常となっている。端から見れば妊娠した奥様を世話する屋敷の婆やだが、
「奥様。カールお坊ちゃまの時のように動き回らないようにお願いします。」
「解ってるわよ、サンドラ。」
現実はとても残念だ。ニコラに聞いたら、俺がお腹の中にいたときは屋敷の中を走り回っていたそうだ。いや、運動大事だけどそんな激しくしちゃだめだろ。今反省しておとなしくしているのも俺が生まれたときに泣かなかった理由に心当たりが多すぎたからなんじゃ・・・。
さて、双子の月と言えば俺の誕生日だ。年甲斐もなくわくわくしている。屋敷の住人はさも準備なんかしていませんといった空気を出しているが、そこは気づかない振りというのが様式美だ。・・・もっとも、そんな様式美は彼女の前にあっさり崩れるが。
「ショーン。賢いカールはもう気づいているから屋敷の住人に無駄なことを止めさせたらどうです?」
「な、なんのことだ?ターニャ・コヴァル。い、言っていることが理解できないぞ?」
父よ、そんなので貴族社会の中を生きていけるのか?気づいた時には全て手遅れとか止めてよ?
途中いろいろとあった物の無事、誕生日を迎えることができた。今年は去年と違ってターニャがいる。何故かドレスまで着て気合いを入れているけどそんなドレスコードが必要な会じゃないぞ。気楽に行こう気楽に。
ターニャの、カールは気づいている発言から屋敷の住人は完全に隠す気を無くし完全にオープンな感じで準備を進めてくれた。それでも、プレゼントだけは隠し通していたけど。
テーブルの上の料理は相変わらず豪勢だ。鳥の丸焼きにスープにとソフィーアが腕を振るってくれた。ただ、何故かケーキが去年より小さくなっている。彼女に限ってそこで手を抜いたとは考えにくいので何か理由があるんだろう。気にはなるが。
ショーンの乾杯の挨拶から始まって全員の腹がそこそこ満たされた頃、恒例のプレゼントタイムとなった。去年はセイラが俺の心をがっちりと掴んだので今年は誰がと、妙に気合いが入っているようだ。
最初は使用人からでニコラが杖を納める革のケース、サンドラがノート(俺が適当にメモしまくっているのが気になっていたようだ)、ゲイルがサンドラのノートにあわせて羽ペンとインクをくれた。ソフィーアは厨房に何か取りに行って戻ってきた。
「形には残りませんがこういう物を作ってみました。」
そう言ってソフィーアが俺に渡してきたのは、柑橘系の果物の果汁を凍らせた物だった。シャーベット・・・いや、牛乳使ってないからソルベか。
「そのまま食べてください。冷たくておいしいですよ。」
彼女に促されるまま口に運ぶと、柑橘特有の酸味の中に独特の苦みと爽やかな甘みが口の中に広がってくる。たぶんこれ、複数の種類の果汁を使ってる。
「すごくおいしいよ!冷たくて!」
「ありがとうございます。坊ちゃまからもらった、例の氷で作ってみました。プレゼントとしてはアレですけど、記憶に残るってことで一つお願いします。」
ドライアイス使っての料理って俺自身、アイスクリームぐらいしか浮かばなかったけど。そうか、ソルベなら材料も簡単でアイスクリームほど複雑じゃないから作れるか。流石は我が家の料理長だ。
「ソフィーア。それ、私たちの分もあるわよね?」
「え・・・奥様、坊ちゃまのプレゼント食べるんですか?」
「そ、そんな・・・。」
セイラがこの世の終わりみたいな愕然とした表情を浮かべている。甘い物が好きなセイラには拷問のような言葉だろうな。ソフィーアも意地悪しない。視線でそう訴えると、
「冗談ですよ。皆さんの分もちゃんとありますから。」
そう言って全員分の皿を用意して配っていった。
「ほう、冷たくてうまいな。」
「はあ、おいしい。幸せ。」
「これは・・・凄いですね。ただ凍らせただけじゃこうはならないはずです。」
「・・・(ソフィーアさん、おかわり)。」
「・・・(ニコラ、後でお話があります。)」
「ほほう、これは凄いですね。名前はなんというのですか?」
セイラの顔が惚けて、ニコラの食い意地にサンドラが目くじらをたてていると、ゲイルがソフィーアに聞いてきた。
「全く考えてません。」
「そうですか。・・・せっかくですからカール坊ちゃまに決めてもらいましょうか。」
え、俺?全員の視線が集まってくる。視線でソフィーアに良いのかと聞いてみると無言でうなずいてきた。色々と名前が浮かんでは消えていくけどしっくりくる物が来ない。
「じゃあ、ソルベで。」
「わかりました。この氷菓子はソルベで。」
結局、どれをつけても名前としてしっくりこないので前世にあったものと同じ名前を付ける事にした。理由を聞かれると困るけど、ただ何となくだ。
ゲイルは満足そうに頷いて、ソフィーアとなにやら話し始めた。漏れてく会話から、売り物になるかどうかを話し合っているようだ。ドライアイスさえ量産できれば難しくはないと思うけど、純粋な二酸化炭素って魔法使わなかったらどうやって作ればいいんだ?発酵での炭酸ガスとか?こっそりゲイルに相談して一枚噛めないもんかね。
「さて、去年はセイラに負けたが、今年は俺が勝つ。」
「あら残念。今年もカールの心を掴むのは私よ。」
こっちは夫婦そろって馬鹿みたいなことではしゃいでいる。特にショーンは去年セイラに負けたことが悔しかったのか燃えているようだ。というか俺を使って勝手に勝負をするな。お互い楽しそうだから良いけど、夫婦喧嘩にまで持って行くなよ?
「俺からはこれだ。」
「私からはこれよ。」
ショーンはチェスのようなボードゲームを、セイラは十センチほどの銀のチェーンで先端にエンブレムのついたアクセサリーだ。
ショーンのくれたボードゲームはチェスよりも駒と升目が多い。チェスや将棋のようにキングや王将のような目立つ駒も存在しない。どうやって遊ぶのだろうか?
「カール、これはなクリークって言うゲームだ。戦争を真似したゲームで貴族の男なら皆やっている遊びだ。歩兵、弓兵、騎馬、魔法使いの駒を使って相手を倒すんだよ。詳しいルールは遊びながら覚えよう。」
「勝負はどうやってつくんですか?」
「全滅するか降参するかだね。このゲームで全滅って言うのは最も惨めな負け方だから、勝てないと思ったら撤退の意味も含めて降参するんだよ。」
へぇ、面白そうだ。前世であった戦略シミュレーションみたいな奴か。たぶん、駒の中でも優劣があって一種類の駒だけを使う方法じゃ勝てないんだろうな。屋敷の中での娯楽が本か魔法かターニャに偏っていたからこれは素直にうれしい。
で、ショーンの次はセイラだ。これは何となく予想がついている。たぶん杖につけるストラップみたいな奴だ。
「私のはお守りよ。ターニャから聞いたわよ。結構危ない魔法を使っているって。」
ガストーチにドライアイスの弾に真空砲に・・・おおよそ子供が使う魔法じゃないよな。そりゃ心配する。
「先端についているのは聖神教の守護の神様のシンボルよ。大事にしてね?」
さっそく杖につけてみる。取り回しにちょっと邪魔になるかと思ったけど、チェーン自体がそこまで長くないので気にならない。エンブレムも守護を名乗るだけあって、盾をモチーフにしている。デザインもかっこいい。
「で、カール。どっちのプレゼントを気に入った?」
もらったお守りを眺めていたらショーンが笑顔で聞いてきた。目が笑っていない。
「そうね。さあ、カール。どっち?」
「えっと・・・。」
いや、どっちも素直にうれしいから甲乙つけがたいんだけど、どっちつかずの回答はどうやらお望みじゃないようだ。心情的に、去年がセイラだったから今年はショーンを選んで一勝一敗にしたい。ただ、それでこの二人が落ち着くとも思えないわけで・・・。
「すみません、二人とも。その勝負、私もかませてもらいますよ?」
そう言って、ターニャが乱入してきた。俺の状況を余計にややこしくするな。
彼女は一冊の本を俺にくれた。かなり分厚く、表層にちょっと痛みはあるが中は無事なようだ。タイトルには・・・
『魔法陣学・総論』
「先生、これ!?」
「以前、君に魔法陣のさわりを教えたときに随分と興味を持っていましたから知り合いの魔族に頼んで送ってもらいました。ほら、種族の話をしたときに研究所に居るって言いましたよね?その彼の専門分野が魔法陣だったので。」
確かに、ターニャから教わった魔法陣は気になっていた。どこかで見たことあるような気がして、かといって彼女が知っている陣はせいぜい五個か六個だったのもあって思い出す判断材料としては足りなかったのだ。
正直なところただの勘違いですませて諦めようと思っていたところだったので、この本は本当にうれしい。試しにパラパラとページをめくると、ターニャから教わっていない未知の魔法陣にその効果と解説と、かなり細かに書かれている。
「本当にいいんですか?魔法の本は高いと聞きましたけど。」
「ああ、大丈夫ですよ。研究費用のために書いた本で、当の本人が欲掻いて重版して売れ残ったものですから。売れ残ったから内容が酷いと言うことはありません。そこは私が保証します。あのアホに商才がなかっただけです。」
名前は解らないがその魔族の研究員に心から感謝する。世の中、何が起こるか解らないね。俺がこの本を見て、もし何かを思い出せた上でその研究員の知らない内容だったらそっくりそのまま教えよう。これは是非恩返しをしたい。
「ありがとうございます!先生。」
「そうか、今年はターニャか。」
「うぅ、負けたぁ。」
この二人は放っておこうか。
四歳の誕生日も無事に迎えることができた。ターニャからの魔法陣の本であのデジャビュが気のせいかどうか解るだろうし、予定通りなら夏には俺の弟か妹が生まれるはずだ。今年も色々と楽しみだ。
十話越えても未だに屋敷に引きこもったままなのはどうなんでしょうね?
おかげさまでユニークPVが百人越えました。投稿後にカウンターが回っているのを見ると、とても励みになります。
感想や評価がつかないのは自分がまだその域に達していないと思って精進していくつもりです。
もしよろしければ、読みづらいとか改行を増やしてほしいとか意見でかまいませんのでお聞かせください。今後の糧にさせていただきます。
文体も安定しない私の妄想の垂れ流しですが今後ともお付き合いいただけたら幸いです。




