序章
21世紀中盤後期、高校生達の間である一つの競技が熱を上げていた。
『高校生による超小型人工衛星打ち上げコンペティション』
文部科学省の推進によって参加予定の学校には予算が配られ、参加する生徒はその予算内で小型ロケットのキットを購入したり人工衛星の開発を行う。
レギュレーションは毎年微妙に変わるがこの3つだけは変わらない。ロケットの基本性能、人工衛星の軌道上での安定性、そして人工衛星の特殊技能。
特殊技能に関しては様々だ。古い通信規格の復帰、天体観測、気象予測など失敗しないものから、ただビープ音を発信し続ける、ネギを振る、ジャイロを使って奇妙な動きをするなど笑いを取りに行くものもある。
高校に在籍した3年間、友人達を巻き込んで俺もこのコンペに参加した。どの高校も入学時に開発に着手して3年次に集大成として打ち上げる。俺達も例外ではなかった。
あの3年間は正に青春と呼べるもの。俺はそういう物にしたかった。いや俺達は、だ。
あのとき巻き込んだ友人達には今でも申し訳ないと思っている。あれは完全に俺のわがままだった。
先天的な疾患で俺はあまり長くは生きられない身体だった。周りもそれを知っていたから、最期だからと俺につきあってくれた。本当にいい奴らだった。
あの打ち上げの日に起こったことはいまでもよく解っていない。
点火とともに雲一つない空を駆け上がっていくロケットを見上げながら成功を確信した。
周回軌道上に乗った我らが衛星、命名「ちあき」からのファーストコンタクトを得て喜びを分かち合った。
そして搭載した特殊技能、現行の通信規格を衛星で旧式の規格にコンバートするもの、を起動した瞬間だった。停止しているがまだ動く衛星をこれで探すの面白そうじゃないかという意見で採用した特殊技能、起動信号を「ちあき」に送信したと同時に「ちあき」から膨大なノイズが送られてきた。
なにが起きたか解らなかった。ノイズの内容に規則性はなく過去にあった規格には該当しない。こちらからの操作を一切受け付けなくなった「ちあき」のステータスを見ることしかできなかった。
そして、「ちあき」を見失った。
俺達は、いや俺達だけでなく会場全体が困惑した。宇宙ゴミに衝突したのか?回路が焼き切れたのか?プログラムミスなのか?コンペで通信に失敗した衛星は多数存在するが衛星の位置を知らせるビーコンは完全自律式で搭載が義務づけられており、その信号ごと途絶することは初めてだった。
運営も事態の把握につとめてくれたが結果は原因不明、俺達は続行不能と見なされ失格扱いになった。
「誰が悪かったのか。」
その一言が切っ掛けで俺達の仲は責任の擦り付け合いに始まって完全に崩壊した。
◆ ◆
ただ、友人達と馬鹿やりながら、何でもいいからこの世に残せたらよかったのに。あの出来事の後、俺はストレスもあってか一気に体調を崩すことになった。あれ以来、病院生活を送っている。あのときの仲間の何人かはたまに見舞いに来てくれるが昔ほどの親しさはそこにはない。
なにが起きたのか解らないまま人生を終わらせるのはどことなく釈然としなかった俺は病院特有の暇も手伝って当時のノイズデータの解析何ぞをやっていたりした。特に規則性があるわけではないのだがロストする3秒前あたりからノイズに変化が見られることが気になる。もう何度も見直してノイズもパターンが目に焼き付いてる。デジタルデータを暗唱しろと言われれば恐らくできるのではなかろうか。
そんなことを思っていると身体の奥から鉛のように重くなっていく感覚がやってきた。日に日に強くなっていくこの感覚は自分がもう長くはないと思い知らせてくれる。
いつものように身体を横たえて眠る準備をしながら居るかどうかも解らない神にではなく自分自身に祈る。
「どうか明日が来ますように。」
初投稿、見切り発車オーライ。
終着地点は全く見えておりません。