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国王からの使い

  「待たせたわねセルガ」

「いいえ、大丈夫です」

 2人の間には、異様な空気が流れている。

 水野さんは、『さっさと帰りなさいよ、厄介者』と。セルガは『今回は逃がしません』と語っている。そこにあたしは、トレイに紅茶と茶菓子をもって行く。一口紅茶を飲んだら、さっきまでの空気が嘘のように消えた。しばらく2人を交互に見ていると水野さんに、隣に座るよう促された。あたしは、嬉々として座りに行く。

「今回は、国王の使者としてやってきました」

「断るのは確実だけど、話だけは聞いてあげるわ」

話だけ聞くというのは、水野さんの優しさなどではなくただの情報収集のための行為。相手もそれをわかってはいるが、承諾してくれるかもしれないという、かぎりなく0に近い可能性に懸けて話し始めた。

 話の内容を聞くと、0だった可能性が一気に反転した。

「やはりもうウェルも知っているのね? 」

 ウェルとは、ルウェルド・スイルトというこの国の王様の名前の呼称だ。国王と水野さんはいろいろあって親しい関係になったらしい。あたしがここに来る前のことだから詳しくは知らないが、水野さんがこの国で何かしたらしい。ということは知っている。公にはされていないので、詳しいことはわからない。

「もちろん、知っておられますよ。この国のことですから」

うっすらと笑うセルガに向けて、小さく舌打ちをし、セルガに負けないくらいの妖しい笑みを浮かべて、ある紙を一枚ぺらっと、懐から取り出す。それを見て焦ったのはセルガだった。

 その紙には『見習い魔導師集めてきてね♡ 国王より』と書かれていた。

 何だろうね、この♡マーク。いい歳こいた大人が何書いてるんだろうね、うん。ホントマジで、ただキモイだけだろ。と思いながらセルガの顔の前で、数回ひらひらとさせる。つかもうとする手をよけ、水野さんに見せると「ぷっ……何あいつ……」と言ってお腹を押さえて笑いをかみ殺しているようだった。

 普段は冷静で、厳しい国王様が、城内の部下にこんなことを書いた紙を見ると、それはそれは大爆笑決定だ。あたしも若干笑いそうになった。

それからは、こちら側が有利な交渉になった。

「わかりました。それで妥協します。少々待ってください。連絡してみます」

セルガが魔道具(魔法道具の略称)を取り出し、国王様に連絡を取っている間、あたしは席をはずした。


 双子の部屋に行ったが、部屋の中から何やら言い争うよいうな声と、物音が聞こえた。様子が気になったので、透視魔法を使い部屋を見ると、場所の取り合いをしているようだった。物がたくさんあるらしく、お互い置く場所を譲ろうとしないようだった。待っていてもきりがないなと思い、「バンッ」とドアを開ける。2人は驚いたようで、動きを止めた。

「どうしたんですか? 」「勝手に開けないで!! 」

と言う2人の声が被ったが、どちらも気にせずに概要だけ説明してせっかく出していた荷物を、もう一度詰め直すように言った。

奏芽からは文句の嵐がやってきたが、文句を言われる理由がわからないので、スルーさせてもらった。


 セルガは国王と連絡し終わっており、事の詳しい内容を話していた。あたしは静かに元いたところに座り、2人の話に耳を傾けた。

「さっきの手紙のことですが、今国の魔導師が、10人弱しかおりません。前までいた世代の方々は、去年、引退なされましたので、急激に少なくなりました。それで、新しい魔導師を見つけようと探しましたが、あまり素質のあるものがおらず、国王も悩んでいます。そうしたらいきなり、「水野さんのところへ行って来い」という命令を受けまして、ここに来ました」

「無能め……」

この国の国王を侮辱していることなど気にも留めずに、水野さんは続きを促した。

「今回こちらに、連れてこられた2名の子供を国が設立する『魔導師育成学校』に入学していただきたいんです」

学校なんてただのめんどくさいだけの箱庭。学校そんなものを設立するなんて、ずいぶんとお金が余っているようだな。

 あたしは紅茶をすすりながら、セルガのほうをじっと見る。そな間にも進んでいく話は、あたしの興味が欠片もないもので、ただただ聞き流していた。

「リツキ、そんな怖い顔でにらまれたら落ち着かないんだが……」

ある程度話が進んでいた時、突然そう言われ「ふぇ?」と間抜けな声が出てしまった。

「だから、睨むなって言ってるんだ」

睨んでいるつもりはなかったが、学校関連の話を聞いて、ひどい顔になっていたようだ。素直に謝ると、また話を進めた。

 一通り話が終わったのか、息をつき紅茶のお代りを要求してきた。準備していた紅茶をそれぞれのカップに注ぎ、茶菓子を足した。

「学校についてはわかったわ。だけど、それだったら私と律輝は関係ないんじゃない? 」

あたしも巻き込まれるのか……。とため息をつきながら、セルガのほうを見ると思い出したように補足した。

「水野さんとリツキについては、学校の教師をしていただこうと思っているためです。もちろんそれ相応の報酬、あちらでの生活についてはしっかりと準備できています」

「寝床や食事についても問題なし。そして、給料も出るんですね……。でも、あわよくばそのまま国の魔導師にしようと思っているんでしょう? 」

核心を突かれたことに焦ったのか、表情が微妙に崩れた。水野さんもそれに気づいたらしく、セルガのほうを睨んでいた。

「国王はそう思ってらっしゃいますが、俺としてはどっちでもいいんです。魔導師の数も、リツキたちのことも」

案に「お前らなんか必要ない」と言われているような気もずるが、こちらだって「お前らなんか願い下げだ」と思っている。これは考えが一致したと言っても過言ではないだろう。

水野さんと目を合わせた数秒で、そんな会話をして、水野さんは満面の笑みで「じゃぁ……」と言いかけた。

「でも、俺の意思とは関係なく、これは国王の意思ですから、無視するわけにはいきませんよ? 」

盛大な舌打ちをすると、水野さんは案外あっさりと諦め城へ赴くことを決めた。

次回、手紙に♡マークを付けた国王のご登場です。

多分………

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