双子の説得
双子が来てから一夜明け……てはないが、とりあえず翌日になった。
双子は元の世界にすぐに帰れないので、ここで面倒を見ることになった。
元の世界に変える方法も、元の世界からこちらへ来る方法も、わかっている。だが、それは選ばれたものしかできない、極秘魔法。この場合「ワンダー」の部類に入る魔法だ。
ちなみに、あたしのあちらの世界の保護者は義父母で双子たちもやはり引き取られた子たちだそうだ。ついでに言うと義兄もいる。義父母はこちらの世界の住民だったが、あることがきっかけで極秘魔法使用者に選ばれた。そして、勝手にあちらの世界でも使用者が選ばれ、それが水野さんだった。
帰ろうと思えば帰れるが、両者ともそれぞれが行った世界のほうが性に合っていたらしく。帰らないでいるそうだ。国々のトップたちも納得させられているので、口出しはしない。
行き来するのには、たくさんの道具が必要となり、そしてそれは1年以上かけないと手に入らないのだ。水野さんはいつも最短の1年ぴったりで集めてくるので驚きだ。
双子はこの広い敷地内のある一角に、家を建ててもらうことになり、そこで寝起きするそうだ。
あたしも「研究室」という名の家を建ててもらっていいる。今あたしはその研究室で、昨日やっていた病の研究をしている。それは病と病の合成。これは普通ならできないと言われていたことだが、あたしは挑戦している。まぁでも今回は、失敗に終わりそうだ。
それから何時間かして、太陽が見えてきたころあたしの研究は一段落ついた。
「終わった~?」
「終わりました。けどまた失敗です……」
水野さんがノックなしに入ってくることはいつものことなのでスルーしておくと、予想通りの質問がやってきた。
「やっぱり、あんたでも無理か~。……ま、急ぎの用じゃないし、ゆっくりでもいいわよ」
「は~い」
ガチャガチャと器具を片付けながら返事をすると、返事に納得したようですぐに出て行った。
あそこで「嫌です。」なんて言ったら〆られるのはわかりきっていることなので、わざわざ自分から死にに行くようなことはしない。
器具を片付け終わり、パンの焼けた香ばしいにおいのする共有スペースへふらふらと歩いていく。
共有スペースは基本水野さんがいるところだが、食事の際に使うのでそう呼んでいる。全ての家は廊下でつながっているので、すぐにつく。
そこには双子と水野さんが向かい合わせに座っていた。水野さんの隣にパンが置いてあるので、あたしはそこに座るのだろう。
あたしがそこに座ると双子は驚いた表情で凝視する。首をかしげると我に返ったのかすぐにもぐもぐとパンを食べ始めた。
よくわからなかったがあたしも気にせずに食べることにした。
「いただきます」
水野さんは一足早く食べ終わり、あたしたちの食事風景を見る。そして大きくため息をつくと、あたしの頭をたたいた。その拍子に机にパンを落としてしまった。
「何するんですか?」
じろっと睨みながら尋ねるともう一度ため息を吐き口を開く。
「いつも着替えなさいって言ってるでしょ。最近は見逃してあげてたけど、この子達がいるんだからそこら辺は徹底しなさい。少しの間よ。まだ何も知らないのにそんな恰好を見せるのはよくないわ」
水野さんが言うそんな恰好とはごく普通の白衣とそれについている病の色のことだ。病の色はカラフルできれいだと思うんだけどな………。
「そんなこと思うのはあんただけよ」
しれっとそういわれ、白衣を脱がされた。白衣を着ていないと落ち着かないのに……。
白衣を着るために、無言で食べ続ける。あと一口というところで、インターフォンがなった。
「律輝出て」
こっそりとため息を吐き立ち上がる。
玄関に近づくにつれ、厄介ごとのにおいがした。急いでダイニングに戻りそれを伝えると、苦虫を噛み潰したような顔をして「国王か……」とつぶやいた。だが、とりあえず出てこいと言われたので、いやいやながらも、玄関を開けた。
「リツキか…」
「悪かったですね。何の用ですか?」
「いや悪いわけじゃないが…。水野さんはいるか?」
「長くなるんですよね?だったら入ってください」
「悪いな」
否定しないのか……。面倒事に巻き込むのは水野さんだけにしてくれよ、と切に願いながら客間に通した。しばらく待ってもらうことになるだろうが、こいつらにそんな気遣いは必要ないだろうと思い「少し待っていて」とだけ言って、ダイニングに戻った。
「誰だった?」
「国王の使い。闇のセルガ」
「はぁーーーー」と今日一番の大きなため息をつき、自分の部屋へ戻った。
あたしは最後の一口を口の中に入れると、お皿を片付ける。双子の文も片付けようとすると、少年のほうに止められてしまった。
「あの、僕らがします。」
「いや、いい。君たちは今ゆっくり休んどいたほうがいいから。これから、ここで生きていくためのすべを教えられるはずですから、できるだけ体力を残しておいたほうがいい。」
できるだけ優しく諭すと、少年はおとなしく引き下がってくれたが、どうやら少女のほうは何か文句があるらしい。
「あたしたち、こんなところで生きていかないから。」
「残念だね。一年は帰れない。聞いたよね?水野さんから」
「そんなに待ってられない。自分たちで探すから!!」
聞き分けのない子だな、と少しイラつきながら平静を装って話をする。
「最短が一年。君たちが捜しても、一生見つからないかもしれない。それに、嫌じゃない?向こうの世界の縛りなんか……」
自嘲気味に笑いながらに言うと、少女は黙り、少年ははっとしているような表情を見せた。
「ここは楽。好きなことができるし、学校なんかに行かなくてもいい。向こうにはなかったもの、魔法がある。君たちだっていろいろできるようになることがある。何よりも魔導師だということで、気心の知れない人たちが、あまり近寄ってこないから」
「あたしたちがその『魔導師』になるってこと?」
「そういうこと。理由はさっき話した生きていくため。納得した?」
首を縦に動かし、リビングに行ってくれてほっと一安心する。もし説得できなかったら、あとで水野さんのお説教ルート確定だったのだ。
「ありがと」
と言って出てきたのは、仕事モードの水野さんだった。苦笑しながら水野さんに目を向け、少しうなずくと、うなずき返してくれる。
「もしかしたら、ここを留守にするかもしれないわ。……あなたたちも連れて」
やっぱりかーと思いながらも「わかりました」というと、水野さんはあたしの頭に手置き、2回ほど軽くなでて、客間へと行った。
双子たちもリビングからこちらに戻ってきていたらしく、同じように水野さんに撫でられていた。
今の会話を聞いていたのだろう。少女はあたしの隣に来て、皿を洗い始める。
「これが終わったら、いろいろ教えて……」
少し俯きながらに言い、あたしを見上げる。
「わかった」
そう答えると、少女……奏芽は控えめに、だけど嬉しそうに笑った。
書いていて思いました。
なんか、説明多くね?と………
そう思った方、正解です。
会話だけで、一話終わらせる自信がありますからね、私笑
こんなんですが、今後も読んでいただければ光栄です。