病の店の少女
スイルト国。現代日本とは違う、異世界と呼ばれる世界にあるとある国。その世界ではエレメント――四大元素である地・水・火・風――とそれ以外の光と闇。そして無系統(エレメント・光・闇以外)ワンダーを魔法として操る世界。
スイルト国には……いやこの世界には、とある店ひとつだけある。それは知る人ぞ知る店。表向きはただの薬屋「アトリビッツ」。
アトリビッツには病を取り出す、体に入れるという稀すぎる魔法を操るものがいる。
まぁ、この世界で言う病とは「心」。病気とは別のもの。
そんな病を売ったり買ったりしているのが、アトリビッツの店主とその弟子である、異世界から来た女の子。
そしてそれが、アトリビッツの本当の顔。
今日もまた病を求め、望み、金に困った者たちが、アトリビッツに訪れる。
カランカラン
お店のドアが開く。誰か入ってきたのだろうか?今は店主がいない。でもあたしは病のことで忙しい。さっさと出て行ってはくれないだろうか?そんなことを思ってはいたが、呼び鈴を押されてしまったので、仕方なく店に出た。
「いらっしゃいませ。何をお探しです?」
そう言いながら顔を上げると、立っていたのは、12、3歳ぐらいの少年と少女だった。2人はここらでは見かけない恰好をしていた。
少年はあたしが元いた世界の服装に眼鏡、右手には茶封筒、左手には重量のある本。そして、背中には大きなリュックサックを背負っていた。少女は少年の横で警戒心をむき出しにしてあたしを見ている。服装は可愛らしい、今どきの女の子という感じだった。少し違うが、あたしは少年の姿を知っている。そう、2年前にここにやってきたあたしのような恰好だったのだ。
「あ、あの……ここはどこですか?」
小さい声で問いかけてくるその少年の姿は小動物のようだった。あたしはとりあえず近くの椅子に座らせる。そして、この世界について、少しだけ教えてあげた。
「ここは君たちの知っている世界とは異なる、異世界。魔法というものがあってそれを使ってたくさんのことをしている。まぁ、使えない人もいるけど……。安心しても大丈夫。あたしも君たちと同じ世界から来たから。……とりあえずここの店主が戻ってくるまで待って」
お茶とそれに合うお菓子をテーブルの上に置く。「好きに食べていい」と言って、あたしは中断していた病のところへ行った。
魔法を使いながら2人の様子を伺う。店を物色しているわけではないので、取り敢えず放っておいても大丈夫そうだ。だが、少年の持っていた茶封筒のことを思い出し、2人のところへ行く。
あたしが来たことに驚いたのか、2人は「びくり」と肩を震わせる。
「ねぇ、えっと、君。その茶封筒を見せてくれないかな?いや、別に嫌ならいいんだけど……その、相坂律輝に渡せって言われてるものない?」
どうも自分よりも年下の人は苦手なので、うまく話せない。怖がらせないようにしようとしてそれが裏目に出て逆に怖がられた。だが少年はおびえながらも、茶封筒の中に入っていた紙を一枚取り出すとおずおずと差し出してきた。礼を言い、それを受け取り奥へと戻る。別にその手紙を読みたいわけではないが、読んでなかったら後々面倒なことになるので、とりあえず目を通した。後半になるにつれどんどん頭が痛くなってきたので、最後は読んでいない。これ以上読むと、頭痛で倒れそうだ。
読み終わっていない手紙を、元のように折りたたみ、引き出しに入れる。……できるだけ目につかないところに。
もう一度、少年たちのところへ行くと、少女がもの珍しそうにいろんなものを触り、それを少年が止めていた。
「ここにあるものは危険なものばかりだから、触らないほうがいい。店主が帰ってくるまで、もう少し待ってて」
スパァン!!
そう言った直後――多分スリッパで――思いっきり頭をたたかれた。いきなりのことで驚いたのと、痛みに耐えきれず、思わずうずくまる。
「っいっつぅぅ……」
たたいた人を見てみると――やっぱり――この店の店主が立っていた。
「そ、の、く、ちょ、う、は、な、ん、な、の、か、な?」
笑顔ではあるがこの人は悪魔だ。それゆえに笑顔が怖い。あまり感情のないあたしが「悪魔だ」というんだから、間違いない。
その人はこの店の店主――時実水野さんだ。あたしがこっちの世界へ来た時に、いろいろ教えてくれた、恩人兼この世界での保護者だ。
何もせずに黙って痛みに耐えていると、どんどん笑顔が怖いものになってきている。これはやばいと思い、早々に立ち上がり2人に向かって頭を下げる。
「ごめん。怖がらせた……大丈夫?」
『これでどうだ』という顔で一瞬水野さんを見ると、また叩かれた。
「ごめんなさいね。この子ったら人が苦手で、あんまりしゃべるのが得意じゃないのよ。許してあげて」
(別にあんたに言われるほどじゃねーよ!!)
なんて悪態をつきながら、何とか笑みを浮かべる。
2人は水野さんの言葉で落ち着いたのか、顔色がよくなった。さっきまでは、若干白かったのだが……きっとあたしのせいだろう。
水野さんが2人にかまっていたので、あたしは店の奥へと戻った。
店からは、楽しそうに笑う3人の声が聞こえる。よく初めて来た見ず知らずの世界、見ず知らずの人とあんなに話ができるもんだと感心する。だが、あの家に引き取られたであろう子供なら、何かしら深い事情があり、そして世の中で生きていくすべを持っているのだろう。あたしも持ってはいたが使う気などさらさらなかったし、使いたいとも思わなかったので、今はこんな感じなのだ。
楽しそうに会話していると先ほど思ったがそんなのが表面上のものだと、気づいている。それはきっと水野さんも。それは2人ともというわけではなく、女の子のほうだけ水野さんの考えを探っている。会話を聞いていればこれぐらいすぐにわかる。そして、その女の子に「無駄な努力をするな」と告げたいが、こればかりは自分で実際にやってみないと納得のいかないものだろうと思い、放っておくことにした。
あたしは3人の声をBGMとして作業に戻った。
読んでくださりありがとうございました。
更新がのろまペースになると思います。根気よく読んでくだされば光栄です。
今回は話の内容がよくわからない回だったと自分でも反省中です。
でも、変える気はありません(笑)