表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
deep  作者: 白米
6/22

味見

 屋上で空でも眺めてぼんやりと考え事をするなんて、私みたいな女がするべきことじゃないよなぁと思う。

 昨日のことを考えていた。考えずにはいられなかった。血肉やグロテスクなことも当然だけれど、何よりもシャチくんのことだった。

 ――きっと、私のことを食料としか考えていない。その通りだと思った。きっと来るべき日が来たら、私は無残に殺される。そこには愛だとか劣情なんて一切なく、あるのは本能という悲しい性だけ。そう考えると悲しくなった。今まで浮かれていた自分が悲しくて堪らなかった。

 下を見た。怖かった。逃げている兎の女の子が居た。ライオンの男の子が本能むき出しででそれを追いかけていた。どっちもこの学校の学生だ。ばかだなぁ、逃げれば逃げるほど夢中になるのよ、肉食獣っていうのは。

 彼女が血肉になる姿はどうにも想像したくなかったので、私は空に目を移す。ぼんやりと動く雲ですら追いかけっこをしているように見える。ただ速度が違うだけで、世界中は追いかけっこをしているんだそれだけなんだと考えると、ここでそれを止めてしまいたいという衝動に駆られた。

 だって、がちゃりとドアが開く音なんて聞きたくなかった。


「なんで」


 私にならさっきの兎ちゃんの気持ちが分かる。どうしてこうも逃げたくなるのか。


「た、食べるなら私だけって言ったじゃん!」

「食ってない」

「でも、血」

「全部吐いた」


 それを聞いて感動してしまった。私はもう立派なヤンデレ女なのかもしれない。


「すきです」

「食料的な意味でしょ!?」

「言わなきゃわかんねーのかよアホ」

「分かんないよ!」

「あーあー分かりました! 肉よりもすき!」

「なにそれ意味分かんない!」


 迫ってくるシャチくんから逃げようと後ずさっていると、とうとう背中に手すりがついた。そして情けないことに、腰を抜かした。

 屈むシャチくん。私と同じ目線になる。相変わらず無表情なシャチくんの心情は伺えない。でも、きっと真剣な顔をしているに相違ない。


「キスしていい?」

「アンタのキスって、想像つかない」

「骨の髄までしゃぶるってワケじゃねーよ」


 軽く味見するだけだ、ぼそりと耳にそう呟かれたあと私の思考は停止した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ