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deep  作者: 白米
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食う食われるの関係

 随分ご立腹な様子の彼女は、私とは全く異次元の存在だった。

 学校指定のスカートから生える、白いネギのような両足。手も然り。ふわふわの綿飴みたいな髪は綺麗なキャラメル色。まつ毛はまるで飴細工。両眼はきらきら光る飴でできているみたいで、つまりそれってげろ甘いってことだ。

 いい意味でも悪い意味でも人並みに生きてきた私にとって、彼女は霞んで見える存在だったわけです。それはもうとても。

 だからそんな彼女が私を呼び出し、非常に立腹した様子なことを理解するのには、少し時間を要しました。


「アンタ……鯱田くんと付き合ってるの?」


 鯱田くんという人名、いやシャチ名を“シャチくんの名前”だと理解するのに時間がかかった。何故なら彼はその名前を忌み嫌っていて、彼をそうとでも呼んでしまえば、そりゃあもう鋭い牙を全開にして怖い形相をするものですから、封印していたのです。


「付き合ってません」


 嘘なんて一切ない。食う食われるの契約はしちゃってるっぽいけど、私たちキスもセックスも何もやましいことなんて。

 まぁ恋人っぽいことをしたりされたりはしますけど。その度ニヤニヤしたりはしちゃってますけど。

 つーか、例の告白された人ってこの人か。このスイーツ女子のお手本みたいな可愛らしい女の子か。鯱田くんにピッタリの彼女さんじゃないですか。優しくて、甘くて、ふわふわしてて。さぞかしまずいでしょうね。


「嘘よ!! 鯱田くん、貴方のことが“すき”だから私のことを断ったって言ってたもん!」


 どくん、と鼓動が脈打つ音が頭に刻み込まれるように。……すき? あいつが。


 シャチくんが?


「え……?」


 呆けた声を出すと、目の前にいるスイーツ女子が大泣きしはじめる。


「なんであんたみたいなデブがっ!」


 おいおい酷いな。もう言われ慣れましたけど。つーか分かってます。自己嫌悪でいっぱいなんです。でもね、シャチくんはそんな私を美味しそうと言ってくれたわけですよ。それをどういう意味で取ってしまったのか、あろうことか私は恋してしまったわけです。あんたなんかとは肉質が違うんですよ。

 そこまで考えてはっとした。


「す、すみません、きっと、勘違いしてますよ」


 そう言うと、スイーツ女子が顔を上げた。まつ毛も化粧もボロボロに取れて、醜女という言葉がピッタリといった塩梅になっていた。


「鯱田さんがすきなのは、食べる的な意味でです。捕食です。私と彼、食う食われるの関係なんですよ。恋になんて発展するはずがありません。彼は私を“食料”としか見ていませんよ」


 はらりと落ちるまつ毛。恋せよ乙女。恋に溺れよスイーツ乙女。暫く時が止まった。そんな気すらした。

 ふと、ぎょろりと双眸がいっぱいに開いたと思うと、女のか細い華奢な両腕が私の首を捕らえた。


「私に問題があるっていうの!?」


 そう言う女の顔は醜かった。恋に溺れていた。焦りがあった。鬼みたいだった。ばかみたい。私みたいな女に問いただしたところで、何も解決するわけがないじゃない。

 ただの食料である私に聞いたところで、何になるって言うの。

 息をするのも忘れてしまうくらいに怖かった。というか息ができなかったけれど。

 でもその時間は案外すぐに終わりを告げた。


 目の前が血で染まった。


 真紅のそれは薔薇のように模様を描く。コンクリート、砂利、私の制服の上。

 そしてシャチくんの逞しい首筋にも。


「え」


 白いネギのような両足が、キャラメルのふわふわの綿飴みたいな髪が、飴細工のまつ毛が、きらきら光る飴みたいな両眼が。抉られ剥ぎ取られ血に染められ。

 女子高生の解体ショーはあっという間に終わった。ぼこぼこと鳴る臓器の周りで血が踊っていた。吐きそうだった。シャチくんが私に手を差し伸べてくれた。血まみれだった。

 口を手で押さえながら、シャチくんの手を取った。私以外の人間を食べないって言ってたのに、というイカレた嫉妬をしている自分に気づき、怖くなった。

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