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deep  作者: 白米
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狐につままれた話

 委員長の狐、白狐さんはとても不思議な人だ。仕事はきちんとこなすし、成績優秀。しかし生真面目というわけでもなく、先生にタメ口で話しかけてみたり、クラスのやんちゃな女子と絡んでいたりする。

 そんな彼女だが、何よりも真摯である。例のやんちゃ女子たちが言うことには大抵の人間が反抗できないが、彼女だけは違う。例を出すとすれば、熊丸くんだ。大きな図体の肉食獣であるわりには、温厚で大人しい性格なために、女子から散々馬鹿にされているのだが、彼女だけは嘲ることなく「草食系が今流行なの知ってる?」と言い放ったのだ。やんちゃ女子たちは聞かなかったことにした、というような態度を取っていたが、私はしっかり、その言葉を受け止めていた。隣でぐうぐうと居眠りをこくシャチくんは、どうだか、知らないけど。


 そんな白狐さんは、苗字通り素敵な白い毛並みを持っている。私の手入れの行き届いていない黒髪と比べると悲しくなってくる。

 でも嫉妬なんてしたりはしない。もう私が彼女に手を伸ばす、同じ位置につくことなど不可能だと分かりきっているし、何よりも彼女は私に優しくしてくれたからだ。彼女は博愛主義者なのか? そうぼんやり思ってしまうくらい、彼女は誰にでも平等に愛を送り、毒を吐いた。幸い私は何も不審なことをしていないので毒を吐かれたことはない。でも、もし吐かれたとしても、私はきっとそれを受け止められるだろう。だってあの白狐さんだから。華奢で美麗で真摯な白狐さんが言うことは理に適っているから。


 今日は酷い雨だった。白狐さんがいつも通り学校へやってきた。例のやんちゃなお友達である狼谷さんや虎子さん、鮫川さんなどの肉食メンツに囲まれている。いつものことだが、今日はいつも以上に会話がうるさい。雨音で相殺されるどころか、雨音を吸収して更にばかでかい爆音を発していた。しかしあまりにもうるさいのでどうしたのだと思い、耳をたて、そちらの方をじっと見据えていると、騒ぎの原因がはっきりと見えてきた。

 白狐さんの左腕にギプスがはめられていた。私は思わず目を丸くした。何があったんだろう。白狐さん、可愛いからストーカーとか……朝のHRで説明されるだろうか。

 私は白狐さんのその姿がショックで堪らなかった。五体満足で、ゆらゆらと妖艶に揺らす尾が美しかったのに、片腕が不自然な人工物で装飾されたとたんに、胡散臭い小物臭が漂ってしまっていた。


 ショックで堪らなかったけれど、私は彼女から目を離せなかった。彼女の姿が獣女子高生の尻によって隠されてしまった時、がらっと扉を開けた人がいた。


「あ」


 また、ド派手にやったんだな。

 ぽた、ぽた、と薄まった血を落としながら進んでくるシャチくんに、クラス全員が釘付けにった。勿論、その釘付けヒーローの隣の席の私も。

 シャチくんは片手で乱暴に椅子を引くと座った。彼は私以外のクラスメート一通りにガンをつけると、全員がシャチくんから視線を逸らした。

 そして最後に私の方を見た。口角についた血が、雨で流されておぞましいことになっていた。セーターに染み付いた返り血が鮮血だということを信じたくなった。


「おはよう」

「お、おはよ……」


 あちらから挨拶をしてくると、私もせずにはいられない。するとシャチくんは「よし」と言った調子で鞄から本を取り出した。そして朝読を始めたのだ。なんと呑気なのであろうか。なんと馬鹿なのであろうか。

 私が口を開けてみていると、担任の海豹先生が入ってきた。ぱつぱつのスーツを身にまとうその暑苦しさから豚呼ばわりされている実に可哀想な先生であるが、このクラス、肉食獣が九割以上雑食が一名しかいないので避けられない事態である。

 そして自分のニックネームに対しても、生徒の風紀に対しても半ば諦めかけている海豹先生は、シャチくんにつっこむことも、白狐さんのことを気にかけるでもなく、欠席を取り始めた。

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