ビッチ
「シャチとセックスしてみたいな」
凛子が漏らした言葉に、私はペプシを吹き出した。
「は?」
「いや、だからさ、」
シャチとセックスしたいなーって、と。
私は顔にあったかいものが昇っていくのを感じながら、肩をすくませ、ペットボトルの先に唇を寄せる。
「に、二年の鯱山さんは」
「あんなガリガリ野郎やだよ」
「じゃあ三年の鯱林さん」
「あいつ粗チンだって」
「……同級生の鯱村さん」
「チビやだ」
にやりと目尻の上がる凛子が怖い。直視できないので想像だが、彼女はいつもあからさまな表情をするから、きっとそんな表情をしているに決まっている。
「鯱田がいーなー」
「……ヤれば」
「えっ」
「勝手にヤれば」
意地悪な凛子に腹が立ち、私は思わず立ち上がって教室を飛び出した。……それと入れ替えに、ガラッと後ろの扉から入ってきたのは鯱田だった。
「お前なぁ」
「あーあー、しみったれた説教はいらねー」
凛子が両耳を塞ぐ仕草をする。だるだるのセーター。中に潜むか細いモヤシのような腕を想像し、鯱田は吐き気がした。
例の飛び出した娘がさっきまで座っていた席に鯱田は座った。みしみしと嫌な音がしたが気にしない。
「言わせてもらうとなぁ、俺ら男に選ぶ権利ないわけ?」
「ないよ、じゃあアンタが妄想であいつとセックスするとき、あいつが拒否するとか想像するわけ?」
「うぐっ」
「いいんだよ、口だけならさ」
不意に棒付きキャンディを取り出し、唇に寄せた。ゆっくりと舌を伸ばすと、それを舐るようにしたり、わざとらしい音をたて出し入れしたりした。
笑う凛子。相も変わらず表情を変えない鯱田。
「……気持ち悪いな、お前ってやつはとことん」
「獣人は性欲が強いバカが多いんでしょ?」
ねぇ、私に欲情した?死んだ目で問いかける凛子に、鯱田は「全然」とだけ答えた。




