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序章
他作と同じ名前ですが、別人ですので悪しからず。(笑)
月のない晩だった。
闇に沈んだ裏道を行く影が一つ、黒い衣を纏った少女だ。
少女ならば年相応に香料の一つも匂わせようが、彼女からは一切そういった物は感じられない。
彼女が纏う香りは、血と砂煙。
戦場のものだ。
だが少女は、仕事柄で汚れるのは馴れていたし、今までその事に苦痛を感じたことはなかった。
‐――…ザンッ!
「最後にもう一度訊く、あの男はどこにいる!」
月光を宿した白刃を喉元に突きつけ、少女は威圧する瞳で男を睨みつける。
「い、言うと思うかっ……仲間を売るくらいなら、貴様に斬られた方がマシだ!」
男は少女と同じく、侍姿。
だが刀は手元にはなく、彼から幾ばくか離れた場所に転がっていた。
「……仕方のない、ムダな殺生はしたくなかったのだがな」
「ヒッ……」
夜の漆黒に重く冷たい鋼が振り下ろされて、断末魔が響く。
(はあ、また外れ。逃がしたか……)
降りかかる生温かな血糊を浴びながら、少女はぼんやりと…ある男を思い出していた。