5:お電話
徐々に夏バテの症状は回復し、笑顔で話せるようになった。
美帆はだんだんと記憶を取り戻し、雄三にひどく失礼なことをしてしまったのに気付いた。
《この前はありがとうございました。
雄三さんが優しくしてくれたのに、怒鳴っちゃったりしてごめんなさいι家まで送ってくださって…感謝しまくりです(>_<)今は元気になってきてます。》
…なんで私って、いつも雄三さんへのメールはテンション低いんだろう?
他の人には、マジ元気なのになぁー。
突然、携帯の着信音が鳴る。
「ふわっ?!」
不意なことに驚いて声をあげてしまった。
「はい、美帆です」
「あ、声元気そうだね」
優しく静かな声で話す雄三。
本当は明るい人なのに…私が本調子じゃないから気遣ってくれてるんだ…。
しみじみ思った。
「はい、お陰さまで」
「良かった。今度は元気なときに二人で遊び行こう」
二人…で?
少し躊躇った。
私の心はまだ、達也の……
「早く元気になりますね」
遊びに行くことには答えなかった。
我ながら、うまい切り返しだったと思う。
あっちが少し黙ったので、
「わざわざお電話ありがとうございました。それではまた…」
ピッ
少し一方的だったかなと考えながら携帯を机に置く。
「誰?もしかして雄三くん?」
キッチンから歩いてきながら話しかける母親―美幸。
彼女は一度見ただけの雄三を、あの子は人柄が良いだの、きちんとしているだの、とにかく褒めまくっている。育ちがとても良いはずだ、とも。
「そぉだよ。心配してくれてるみたい」
「ならそっけなくする必要ないじゃない」
苦笑しながら言う。
「だって…元気になったら二人で遊ぼうとか言ってくるし」
「雄三くん嫌い?」
単刀直入に訊いてくる。
「嫌いって…いい人とは思うけど…」
「私、雄三くん良いと思うわぁ。キリッとした目してたし」
それは私も思うけど。
「またそんなこと言って…。ママってホント、雄三さん好きだね」
呆れたような口調で腕をくみ、背もたれによっかかる。
「―いつまでも、達ちゃんのこと想ってても仕方ないでしょう」
少し厳しい口調で美幸が言う。
どき……っ
達也の…
「達也のこと持ち出さないでよ!全然関係ないじゃんっ」
思わず語気を強くしてしまった。
いきなり怒鳴ったものだから少し頭がくらっとした。
「関係ないなら騒ぐことないでしょう。まだ高校生なのに、一度の失恋でそんなになってどうするのよ」
「たかが一回でも私には大きな一回なの!!ママに知ったように言われたくないよ!」
本当はもちろん、達也のことが胸の中でしこりになって残ってる。
だからこそ、言わないで欲しい…。
彼のことを忘れることは決してないけど、あの悲しみをここまで鮮明に思い出すことはなかったから――。
だんだんと話が形になって来た気がします。22話くらいで、一旦終わりますよ☆彡