22:待ち詞
「ゆーぞーさんっ。これからどっかで会えませんか?」
達也と別れてから数時間後、自宅の近くの公園でさわやかな風に吹かれながら雄三に電話する。
「これからバイトで、後二時間位したら終わるけど。どこが良い?俺今新宿」
「んーじゃぁ新宿に行きます。ってか……え?」
「何?」
「ゆーぞーさんってバイトなんてしてるんですか?あんなお金持ちなのに」
「や、お金稼ぎたいんじゃなくて、バイトがしたいんだよ。まぁ…やりたいことしてお金入るんだから一石二鳥みたいなさ?」
…ん、ちょっと違うかも。
と口の中で言う雄三の声を聞きながら、
「じゃぁバイト先に行くよ。どこ?」
「やっ、それは男がすることだし!別んとこにするべ」
いきなり早口で、何故かなまる。
「えーなんでなんで?雄三さんの働いてる姿が見たいよぅー」
からかうように、だが半分本気で言ってみる。
「恥ずかしいからやめなさいっ」
こっちは本気で照れる。
「…なんか、怪しい。ハッ!もしかして浮気相手といるとかっ」
「いねぇよ。俺は巷じゃ一途で有名なんだ」
「あははっ。巷って!」
二人で爆笑。
「ファミレスだよ。南口のペペル」
「ペペル?私、よく行くよっ」
「マジ?毎度有難うございます☆」
「やめれー、かゆいよっ」
「はは。じゃぁもう行かなきゃだから、終りごろさりげなく来て」
「はいはーぃ」
いつもこんな感じでふざける。それが自然になってきた。
でもまだ…あの言葉を期待しないわけにはいかない。
約束の時間少し前にファミレスに着いた。
「お、来たか。後5分だから待ってて」
おぉー…。
なんかテキパキしてるよ。
バスケで鍛えたフットワーク?
「箕村君、あがって」
なんだか偉そうな人が声をかける。
雄三が美帆にアイコンタクトし、奥に引っ込んだ。
美帆は店の裏に行き、待機。
一分かからないくらいのスピードで雄三が出てくる。
「ここ、時間に厳しくてさ。彼女来てんだから、五分位切り上げてくれりゃ良いのにな」
笑いながら喋る。
「私は雄三さんの仕事姿が見られて良かったよ。手際良かったね」
「丁度忙しかったし、美帆が来たからはりきった。格好良かったろ」
雄三が軽く冗談めかして訊く。
「…悔しいけど、カッコ良かったかも」
真面目に答えると、
「えっ、いや照れるからっ。からかうなよ」
また照れる。
そんな雄三を見ている美帆の口は思わず、
「…雄三さんて、可愛いね」
と真面目に言ってしまう。
「…今日の美帆はなんなの?やけに素直じゃん」
「いつもでしょ」
一瞬悩んだように空を見ながら、
「ま…ね。さてどこ行くか。ゲーセン?カラオケ?なんか食べる?」
「あー…その前に訊きたいことがあって」
雄三は不思議そうに見つめ、
「おぅ?」
と気の抜けた返事をする。
「えと…雄三さんはさっ。美帆のどこが好きなの?」
訊くのはすごく恥ずかしい。達也のときも本当は顔から火が出る程恥ずかしかった。
でも――諦めたくないから…。
「…ん?」
少し沈黙し、聞き返してくる。
「私の、どこが良いと思ったの?」
恥ずかしさを抑えながら、もう一度ゆっくりと訊く。
雄三は優しく笑い、
「どこかなんて言えるわけないじゃん。美帆って子が好きなんだし。…美帆だから好きになったんだよ」
え…。
「……私じゃなきゃ、駄目だった?」
「うん。美帆じゃなきゃ駄目だよ」
そして慌てて、
「ってかこんなキモいこと言ってごめん。重いとか、思うなよ?」
「…うんっ」
雄三の顔を見て、美帆は目がなくなるくらい笑った。
いた…。
本当にいたよ…。
…昴が、言ってた。
今回が、一番のヤマだったとも言えます。ずっと捜していた詞が本当に現れた、すごく大切な場面でした。最終回まで秒読みです。読んでくださり、感謝感激です☆