2:上の空
「はーろー☆」
真夏の太陽が照り付ける渋谷。
いつにも増してきちんとメイクした明るい笑顔の菜茄が駆け寄ってきた。
「あっれ、どうしたの??いつもより大人っぽい」
「うふー。ちょっと頑張ってみました☆」
菜茄は毎日メイクの研究に研究をを重ねているらしく、将来はメイクアップアーティストになりたいとか。
「なんでぇ?なんかあるの??」
美帆の質問に対してにやっと笑う。
「美帆に内緒で合コン設定しちゃいました♪M高二年のさわやか系イケメン達だょ」
「はっ、えぇ?!何イキナリ、んなコトしてんのよ!私、合コンなんてしたことないしっ」
慌てふためく美帆。
「しかも私は軽いメイクだし…。ショボぃよぉ!!」
半泣きになる美帆。
「美帆はっ、行きません!!」
そして、こう結論を出した。
「ちょっと、何言ってんのよ。美帆も彼氏欲しいって言ったじゃない」
なだめる菜茄。
「私のためだって言うなら、なんで前もって知らせてくれなかちたんさぁ!それに、菜茄だけキメてたら美帆のためだなんて思えないっしょぉ?!」
混乱しすぎて、言葉がおかしくなる。
「だぁーって、美帆は張り切りすぎりと空回りして変なカッコして来そうなんだもん」
笑いながらそう伝える菜茄。
「―それで…何時から何処でやるの?」
少し図星だったらしく、反論せずに話を促す。
「一時からカラオケで。三対三でやるから、メンバーに莎梨南入れといたよ」
「莎梨南ぁ?別に良いけど、あの子って男の扱い方知り尽してるじゃん。一人舞台にならないの?」
「あぁ、平気平気。私もそれなりだから。あんま慣れてると逆に引かれるし」
それがあの子のアマいとこなのょ☆と付け足す。
「ふぅん…。そんなモンかね」
それなりって何さ、と心の中で突っ込みながら、二人は映画館に向かい、そしてカラオケ店の前で莎梨南と集合した。
「莎梨南ぁっ!」
細身の七分袖ジャケットをワンピースにはおり、茶色のロングヘアーをくしゅっと巻いている。
「久しぶりー☆二人共焼けてないねぇ。ガッカリぃ」
人なつっこい笑顔で近寄って来る。
「今日って一コ上のM高校の人達なんでしょ?レベル高いよねぇ☆思わず気合い入れて来ちゃったぁ」
確かに、肌はいつもより艶やかで、全体的に水みずしい。
「莎梨南も?私もちょっと頑張ってきた」
菜茄も笑いながら話す。
ふと目を丸くし、莎梨南が、
「美帆はぁ?あんま興味なさそぅだよね☆」
と、いかにも悪気はありませんという言い方で美帆に話しかけてきた。
確かにどうやって合コンから逃げ出そうか考えていた美帆だが、敵意を感じとったので、笑顔で、
「友達増えたら良いなーくらいのノリだからね。楽しくなると良いよねぇ」
と、アンタ程がっついてませんよ、とアピールしておいた。莎梨南は何故かいつも美帆を敵視しているようで(もちろん、それはさりげなく美帆にだけ伝わるようにしているのだが)、美帆は莎梨南が苦手なのだ。
「じゃ入ろっか」
十二時五十分。
カラオケボックスに入る。
「もぅすぐだねぇ☆」
とウキウキ気分の莎梨南がソファに座る。
「折角だし、来るまで歌ってよっと♪」
カラオケが大好きな美帆はたまらず曲を入力した。
しっかりと透き通り、音域の広い美帆の声はとても心地良い。
気分に乗って、丁度サビを歌っているところで相手の男子が入って来た。
「うぉっ、巧ぇ!プロ並だし。オレ等ここで良いんだよね?」
入ってくるなりハイテンションで誉めるのが一人。他の二人も上手いと言う。
美帆は少し恥ずかしくなって、すぐに歌を止めた。
「あ、続けてて良いのに。キミ、歌凄いじゃん。名前は?」
にこにこ笑いながら話しかけられる。
「嘉山美帆です」
と美帆も微笑む。
「美帆かぁ。俺は箕村雄三。雄三で良いよ」
「あ…じゃぁ、雄三さんで」
「おい雄三!皆で自己紹介すんだから突っ走んじゃねーよ!」
二人に突っ込まれ、雄三は笑いながら席に座り、
「じゃぁ、改めまして、箕村雄三です。部活はバスケやってて、楽しいのが大好きっス。よろしく!」
さっさと挨拶する。
次に、茶髪に一重瞼のクールそうな人が、
「讃岐明人、サッカー部所属。どうぞよろしく」
そして、
「三浦恭迅。同じくサッカー部所属。ま、皆引退しちゃったけどさ。よろしく」
と挨拶を終えた。
女子も紹介し終え、話始める。
莎梨南の女の子らしい気遣いや、菜茄の楽しい話術が炸裂する中、美帆はその輪に入らなかった。―入ろうとしなかった。
美帆の心の隙間を埋められるのは、その隙間を作った人だけだとわかっていたから。
皆、ちょくちょく話しかけてはくれたのだが―特に雄三―生返事で終らせていた。
心が遠くにあった美帆は、最後に雄三に携帯の番号とアドレスを聞かれたときでさえ、上の空だった。
初の合コン…けれど、上の空。心の隙間とは一体…?といったところですね(笑