19:愛し君
ずっと待ち望んでいた人に。
やっと会えたのが思いを断ち切る勇気が出た日だったなんて。
そして、自分から別れを告げることになるなんて、思ってもみなかった。
少し歩幅を緩め、ゆっくり歩く。
私は知ってる。
こんなとき彼は、決して追っては来ないことを。
付き合ってるときもそうだった。
喧嘩をしても、それは私が怒っているだけ。
立ち上がる私に、何も言わない。
…何も進歩してないんだ、私達。
おかしくって涙が出ちゃうよ。
「美帆っ!」
左手首を掴まれる。
「ひゃ?!」
勢い良く振り返る。
そこには、達也の顔。
「美帆…ごめん。俺が言いたいことは、たった一つだけなんだ」
「え…何?」
追い掛けて来るなんて。
進歩してないのは、私だけなのかな。
達也は、ちゃんと成長してる。
「俺、まだ美帆のことが好きなんだ。すごく後悔した…美帆を手放したこと」
私は、じっと達也の目を見つめる。
「でも俺が美帆に別れようって言ったんだから、忘れなきゃいけないって思い続けた。…けど、無理だった」
沈黙したまま達也を見る。
「だから今日も美帆に会えるかもって、思い出のクレープ屋に来たんだ。そしたら…やっと会えた」
小さく頷く。
「それで俺、自分に嘘つかないって決めた。―なぁ、美帆…。もう一度やり直さないか?これからは絶対、美帆にも嘘つかないから」
目の奥が熱くなってくる。
私が欲しかった言葉がここにある。
手を差しのべれば、手が届く。
達也は―ここに、いる。
サブタイトルの“愛し君”。深い意味を込めてみたのですが……紹介するのはまた今度にしますね。読んでくださって、有り難うございます。