16:救い星
―中学最後の春休み―
カタカタ
「ふふふ」
カタカタッ
「ふふっ」
パソコンのキーボードを叩く音と、少女の笑う音。
これが、この部屋の日常だった。
人と関わりたくない。でも独りは嫌。
少女が…美帆が選んだのはチャットだった。
パソコンを使うチャットなら、相手を見ずに会話をすることが出来る。
この丁度良い距離間が何よりも心地良かった。
長い、長い暗い世界にいた美帆を救ってくれたのが、同じ世界にいた―だが輝いていた―昴なのだ。
昴から、あの言葉をもらったときに美帆は解放された。
何かがふっきれた。
美帆は、リアルな世界に戻ってきた。
―その時、美帆の記憶にバーチャルな世界のことは消えてなくなってしまっていたのだが。
「何をするのも苦しくて、死にそうだった。昴は助けてくれたのに…忘れてたなんて…」
美帆は、昴を忘れていたという罪悪感と共に、自分がそれ程までに達也のことで弱っていたことを知った。
こんなに弱いとは思っていなかった。
小学生の時に起こったイジメのような嫌がらせにも笑顔で耐えることが出来たし。
中学校生活での辛くキツい部活をチームメイトが辞めていく中、残りのメンバーと励まし合い、競い合い、最後までやり遂げることが出来たのに。
精神を鍛えて来たと思ったのに…。
恋愛と、他のこととではこんなにも違うのだろうか。
昴に出会っていなかったらどうなっていたのか、なんて考えたくもない。
ただ、どこの誰かまわからない、言葉だけの繋がりの彼にとても感謝している。
今度こそ―達也から精神的に離れよう……そして、離れなきゃいけない、と思えるようになった。
明日は美容院に行く。
伸ばしていた髪を肩くらいまでに切ろう。
古典的だけど…さっぱりするから。
お久しぶりです、栗山です。春々恋歌は最終話まで完成していますので、これからどんどん更新していこうと思います。応援・アドバイスなど、どうぞよろしくお願いします☆