14:忘れ事
「あっそぅですか!わかりました、よろしくお願いしますっ」
ぃやったぁ〜!!
美容室、明後日に行けるよ☆
いつも人気のカリスマ美容師さんだから、二ヶ月は待つつもりでいたんだけど、キャンセルが出たんだって!
すごく嬉しい。なんか運命感じるよねっ(笑)
雄三とは夕飯後に電話で話したり、くだらないメールを送りあって笑ったり、前より良い感じになれた。
何より、雄三の温かさが美帆の心を溶かしてくれた。
明日は美容室だっ☆
今日は家でごろごろしよう。
ふと、自室の隅に置いてあるノートパソコンに目が行った。
すっかり埃を被り、無用の長物といった感じだ。
「あれー?私、パソコンなんて使ってたっけ」
今まで部屋の一部と化していたので気にも止めなかったが、よく考えればおかしい。
いつの間にかパソコンがそこにあった、というイメージしかない。
(久しぶりにやってみようかな)
「…あれ?」
自分の考えに疑問を抱く。前にもこんなことがあった。
自分の部屋にあるのだし、使ったことがあるのは当然なのだが、記憶にない。
なのに何故か、久しぶりだという気がする。
ピッ
起動させてみる。
見覚えのある壁紙。
やだな、なんで忘れてるんだろ。
頭を働かせようとするが、出てこない。思い出せない。
ズキッ
頭が痛くなり、思わず顔をしかめる。
左手で頭を押さえながら、インターネットに接続する。
無意識に打ったパスワードは一致し、体に染み込んでいるかのようだった。
ズキ…ズキ…
何…?
頭、痛いよ…。
画面の矢印を“お気に入り”に合わせる。
カチッ
クリック
「――あ…っ」
美帆の目から、涙が枷を無くしたように溢れ出てきた。