オレンジ色
初めて彼女を見たとき、僕はなぜだかオレンジ色をイメージした。それはけして彼女の笑顔だとか体の部位だとか服の色から来たものではないと思う。ただ文字どうりに、ああ、この人はオレンジ色なのだなと思ったのだ。そしてそれは無限にあるオレンジ色の中ではきっと金木犀に最も近いものだった。彼女に出会って以来、その鮮やかなオレンジ色が僕の記憶に強烈にしがみついて、僕はほとんどいつもそのオレンジ色を頭の中に描いた。
いつだったか仲間たちと海に行ったときも彼女は一緒だった。
「私はね、多分この世界の中で海が一番好きなの」
彼女は浜辺で目を細て海と空のちょうど間を見ながら言った。僕はそれには何も答えなかったけれど、ビールを飲みながら『この世界』とは彼女の中の世界のことなのか、それとももっと大きな僕の周りにある世界のことなのかしばらく考えていた。けれど、どちらであってもきっと僕には分からないだろう。
近くの居酒屋に二人で飲みに行ったとき、彼女はしきりに自分のウエストを気にしていた。
「ねぇ、どう思う?最近少し太ったかしら」
彼女は心配そうな顔で聞いた。
「いや、分からない。けれど、僕には君はそれで十分に魅力的だと思うよ」
僕は言った。本心だった。彼女はなんだか少し嬉しそう目を細めた。
「あら、そう?あなたには私のことが魅力的に見えるのね。なぜかしら?」
「うん、きっと僕は君のことが好きだからじゃないかな。」
僕の言葉を聞くと、彼女はくつくつと笑った。
「なによそれ。プロボーズにしては素っ気無いし、それにそれを知った私はどうすればいいの?」
僕はしばらく考えた。
「じゃあプロポーズではないんじゃないかな。僕は自分が思ったことを言っただけだから、君は別に何もしなくて良いんじゃないかな。」
ふうん。彼女はそう呟いて店員を呼び、ビールとカルアミルクを注文した。
しばらくすると僕と彼女は一日のうちで可能な限り多くの時間一緒に過ごすようになった。それはしっかりした告白も、それに対する返事も通過していないから、付き合っているというわけではなかったのかもしれない。ただ、なんとなくお互いが傍にいたほうが心地よかったのだろう。けれども、僕にとっても、恐らく彼女にとってもそのことが通常であり、離れていることが異常のように思えていた。
彼女と出会ってから三度目の夏を迎えるころ、彼女は死んだ。交通事故だった。その知らせを聞いたとき、僕は不思議なほどあっさりと現実を受け止めた。否、受け止められなかったのかもしれない。そうか、死んだのか。単純にそう思いながらたった今淹れたコーヒーを飲んでこの先のことを考えていた。
ふと、彼女の「オレンジ色」が思い浮かんだ。けれども、そのオレンジ色は今にも沈んでしまいそうな悲しいオレンジ色だった。この先そのオレンジ色はきっと限りなく暗い紫色に変わり、そして光の一切ない真っ黒になってしまうのだろう。そう考えると僕の目からようやく一筋の涙が流れた。
思いつくまま書いていったらかなり稚拙な文章になってしまった。
小学生の作文かっつーの。
どうやったらマトモで大人な文章が書けるのだろう