男の値段2
今日は月曜! 月曜真っ黒シリーズです!
事務所の隣に倉庫代わりに置かれたコンテナの上にも雪が降り積もっている。
こちらも明日には雪下ろしをしなければならない。
車のエンジンを止め、ずっと唸っている電話を取ると、耳に怒号が飛び込んで来る。
『いい加減にしてくださいよ!!』
「ホンマ、スイマセン」
『スイマセンじゃねえよ! こっちは本社の部長から詰め腹切らされそうになってんだ! アンタもオレと同じ境遇かもと思って目を掛けたのに! このざまは、なんだ! 納期をどれだけ遅らせれば気が済むんだ! オレが何て言われたと思う?! 調子ばかりいい関西人に騙されやがってって言われてんだ!』
「騙すなんて、とんでもナイです」
『よくそんな口がきけるな! いいか! 明日の午前中にオレんとこへ届かなかったら、お前の人生もぶち壊してやるからな!!』
この捨て台詞で電話は切れた。
僕はスマホをポケットに捻じ込み、スノーブーツの雪を入口で落として事務所へ入り、極限まで冷え切った椅子に腰を下ろした。
この事務所兼住宅の……北の小さな出張所へ所長代理として赴任して約2年半。
始めて取れた新規の案件だった。
その最初の納期がこんなにも遅れたのは『与信調査』の名目で新規取引の申請が部長の手元で止まっていたからだ。
部長は入社以来ずっと僕の上司で、当時は係長だった。
入社して12年経っても僕は主任止まりで北の出張所へ飛ばされたけど、係長は部長に昇進して4年になる。
僕だって昔は部長から目を掛けられていたんだ。
部長が課長だった時、僕は主任に昇進して、部長から得意先のコを紹介された。
それが妻の明美だ。
明美はそれこそ、タレントかモデルの様な容姿で……昇進と美女を同時期に手に入れた僕は周りからのやっかみが激しかったけど、そんな事を気に病む暇もない程に
明美は夜も激しかった。
その甲斐もあって、すぐ和人を授かった。
和人を授かってから、激しさは無くなったけれど明美は優しく、和人と家を守ってくれていた。
和人は明美に似て、とても可愛らしく賢くもあったので、私立の幼稚舎へ入れようと明美が言い出し“お受験”が始まって、僕も心身をそれに賭した。
しかし、結果は不合格。
明美は「やはりお受験は普通の収入じゃ無理なのよ! 私もフルタイムで働くわ!」と言い出し、“課長”の口添えで、元居た会社へ復職を果たした。
一方、僕はお受験期間の遅れが響いて徐々に営業成績が落ちて行った。
課長はプライベートでは奥さんと離婚したのにも関わらず、営業部の実績を上げ、次長、部長へと順調に昇進した。
一方、うだつの上がらなくなった僕は……“他に従業員が誰もいない”出張所へ飛ばされた。
それでも、明美の為、和人の為にと歯を食いしばって頑張って来たけれど……僕は気付いてしまった。
きっかけは10年目の結婚記念日
明美からねだられた4℃のK24イエローゴールド ネックレスを、実際に着けているところを僕は一度も見た事が無かった。
代わりに噂で聞こえて来たのが“イケオジ”の部長がそのユニセックスのネックレスを着けているという噂だ。
胸がざわざわした。
しかし、僕は単身赴任の身。
たまに帰阪しても仕事が忙しい明美とは落ち着いて話もできない。
思い悩んだ末に僕は……
僕自身と和人と妻の毛髪と使用済みの割り箸。
そして部長が使用した割り箸の7つの試料を託した上で探偵社に妻の素行調査を依頼した。
パソコンを立ち上げ、メールをチェックすると、その探偵社からメールが届いていた。
と、デスクの電話が鳴る。
運送会社だった。
吹雪の為、荷物が営業所留めになっているらしい。
その中に懸案の商品もあるはず!
僕は今から取りに行くと伝えて電話を切った。
もう、すぐにでも事務所を出なければならない。
そうでないと運送会社の営業所へ辿り着けなくなる。
しかし、僕は我慢できず探偵社の“マイページ”にアクセスして、すべてを見てしまった。
妻の明美と部長が不倫している事。
そして
和人は僕との子では無く
部長との子供だった事を。
僕は呆然とし、絶望の中でクルマを走らせる。
明美の事は
諦められるけど……
和人の事は
諦め切れない!!
ヘッドライトだけが頼りの夜の峠道。
ワイパーがまるっきり役に立たない猛吹雪と涙で僕の視界は危うくなる。
「ダメだ! 今は全力で峠を乗り越えねば!!」
口に出したその瞬間に、何かに乗り上げたクルマは吹雪の中へと飛んだ。
僕の命
4000万の保険金と
無理して建てた一戸建てのローンがチャラになる事
こんな体たらくでゴメンやけど……
和人、
パパの為に
泣いてくれや
おしまい
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