通り 土曜午後 ~告白
夕暮れの町を、にぎやかな笑い声が通り過ぎていく。
笑い声が絶えないグループの中心にいるのは大樹。あざやかなピンク色の髪に、どこかあどけなさの残る童顔。年齢よりも若く見える顔立ちは、人懐っこい笑顔と相まって、男女問わず人を惹きつけていた。
友達は男女問わず多い。いつも誰かに囲まれている。
その日も、大樹は何人かの仲間と通りを歩いていた。隣には、好意を寄せてくれている女の子がぴったりと寄り添っている。自分の場所だと主張するように腕を絡め、顔を覗き込み、甘えるように笑う。そんな子供のような独占欲も可愛いなと思いながら、大樹も軽く肩を抱き寄せ、冗談を言いながらじゃれ合う。
「ほんと仲いいよねー」
周りが冷やかすと、大樹は照れたように笑って見せた。
童顔のせいか、その距離の近さもどこか無邪気に見える。
「ねえ、次どこ行く~?」
腕を絡めた女の子は甘えた声を出し、大樹もまんざらではなさそうに笑い返す。肩が触れ合い、冗談を言い合いながら、傍から見ればまるで恋人同士のようで。
友達の冷やかしに、照れたふりをしながらも、その女の子の頭を軽くぽんと叩いた。周囲から見れば、楽しげで、少し軽薄で、どこにでもいる陽キャな男に映るだろう。
そのとき。
通りの向こう、ガラス張りの店のテラス席に見慣れた横顔を見つけた。
外の席で、ひとり静かにコーヒーを飲んでいる女性。横の席には近くの雑貨店のショッパー。誰かと一緒に買い物に来ていた? 素早く連れがいない事を確認する。一人でいる事になぜか安心する自分が嫌だ。
「・・・・・」
誰かが何か言って、誰かから笑い声が出て。自分も「ああ・・・」とか返して。
カップに口づける姿に心臓が一瞬、強く跳ねる。時間が止まったように感じた。
彩さん。
淡い生成りのリネンブラウス。落ち着いた花柄のロングスカート。薄手のカーディガンを肩に掛けている。
派手じゃない。
けれど、目を奪われる。
すらりと伸びた長身。自分より七センチ高いその体が、椅子に座っていても分かる。背筋が自然に伸びている。作っていない姿勢。
カップを持つ指先が静かだ。無駄がない。笑っているわけでもないのに、柔らかい。
整えられた髪が、風にわずかに揺れる。
首筋が白い。
その、カップに近づく唇を凝視してしまう。
車が一台、間を横切る。
遮られる。見えなくなる。
それだけで、妙に焦れる。
車道を挟んだだけ。声を上げれば届く距離なのに、友達と騒ぎながら歩く世界とはまるで別の空気を纏っている。自分のピンク色の髪が、急に場違いに思えた。
彩さんはまだこっちに気づいていない。
腕に絡みつく女の子の温もりが急に重さに代わる。歩きにくい。
現実。さっきまで心地よかったはずの笑い声が、妙に大きく耳に障る。甲高い、作った甘えた声。あの人ならそんな声は出さない。いや、俺の腕の中だけで出してほしい。
どうしてオマエがそこにいる?
違う。こうしているのは自分のせいだ。
違う。隣にいてほしいのは・・・。
どうする?
このまま気づかれずに通り過ぎるか。
それとも。
大樹の足取りが僅かに鈍った。
テラス席の彩さんが、ふと顔を上げる。視線が交差する。まっすぐこっちをとらえる。静かにこちらを見つめている。唇が俺の名前を刻んだ気がした。
騒がしいグループの中で、大樹は一瞬、立ち尽くした。
「どうした~」
誰かの声が耳から入る。入るだけで通り過ぎていく。
彩さん。
胸の奥で、言い訳と後悔と、どうしようもない本音が交錯していた。
読んでくださってありがとうございます(*_ _)
ポイントを入れてもらえると、嬉しいです。




