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恋しくて

作者: 秋葉竹


 


夕闇気味の

しずかなふるさとのちいさな町を歩く


暗い山が

間近に覆い被って来る

灯りの点きはじめた家家に

砂を舞わすように

吹くは歳を経た古びた微風


振り返るひととてなく

いつからひとに会っていないか

わからないほどの

ただ寂しいだけの風が吹いて


答えをみつけることのできない

むかしよく歩いていたこの町に


えいえんの愛にかまけたわたしに

吹くはもういちどだけでも味わいたい


怖いくらい無垢でしあわせなだけの

馬鹿げたほどの輝度の君との抱擁


いまはこれから君がいるだけで

世界は光り輝くだろうという神なき夜に


ひとつしかない心の真実を

ふたりしてふたりとも溶けあわせて


泣いちゃうね泣いちゃうねって

顔みあわせながら笑ってた


夜の一本道をひとりで歩くこの田舎町に

君のいない燻んだ墓場のようなこの町に


なぜなにを探しに戻って来たというのだろう

甘いけど堅いチョコレートを口に入れて


ぽりぽりと噛み砕くすぐそこの山に架かる

満月をなにかとみまちがえたフリをして


口の中で

君の名を呼ぶ

あのお正月はあの神社で

引いたおみくじは《半凶》だった

なんだコレ?

ふたりしてミスプリントじゃないのと

笑いあったね


どこへゆけばいい

あすになればまたいつもの生活に戻る

賑やかだけど心が折れそうな

冷たい風が吹き荒ぶおおきな街へ

戻る

戻ってそしてそこに居ても

どこに居てもそうなのだが

わたしは君の想い出にくるまれるだけの

寝床に始めて

《帰って来れた》

そう想えたときはじめて

ごくかすかなしずかなしあわせの香りを嗅ぐ


それがすべてだ


わたしがまだ生きていられる理由の


すべてだ


そしてそれだけでなんか

愛って言葉を真正面から睨んでいられる

そんな


夢を


みていたのかな







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