【第6章】未来人、静かに結論を下す──文明は規制ではなく“開放”で進化する
利権村が勝手に内戦し、勝手に自滅し、勝手に未来人グッズを申請しようとしていた頃──
俺は近くのカフェに避難していた。
(……なんなんだこの時代は)
任務目的はこうだ。
「21世紀前半の文化停滞の原因を現地で観測せよ」
観測、ね。
いやもう観測どころか、ノンフィクション地獄絵図を目撃したわけだが。
「ご注文は?」
「……文明の希望を」
店員が困った顔した。
(そりゃそうだ)
◆ 未来人、結論のメモを書く
俺は端末を開いて、未来に送る報告書を書き始めた。
【報告書:21世紀文化停滞の原因】
・文化と表現を“所有物”として扱いすぎた
・既得権の維持が目的化
・規制と禁止によるイノベーション阻害
・本来の創作意欲が利権構造に吸われる
・結果、創作文化が劣化し、停滞が加速
(……まあ、ここまでは予想の範囲だ)
そしてメモの続きを書く。
【追加観測:利権構造は外圧でなく自己崩壊する】
・権利拡大 → 内部対立
・縄張り争い → 自壊
・社会的信用喪失 → 市場から消える
・文化はむしろ“解放”によって復活する
・規制ではなく“共有”が進化を生む
(うん、未来の歴史書と完全一致)
◆ 利権村、最終的にこんなことになっていた
SNSをちらっと見ると、もう地獄は限界突破していた。
《利権村、三派に分裂》
《“構図派 vs 文体派 vs 色彩派”の三つ巴》
《未来人の画像を勝手にアイコンにする信者が現れる》
《未来人のコスプレして逮捕されるやつ出る》
《利権村、ついに内部資料で内ゲバ発覚》
《国会で話題になる》
(もう帰っていいだろこれ)
◆ 未来人、最後の現地調査として街を歩く
俺は少し歩いて、一般のクリエイター達が集まる広場を見に行った。
イラスト描いてる子も、曲作ってるやつも、動画撮影してるやつも楽しそうだ。
「やっぱり、本物の文化は……ここにあるんだよな」
利権村が文化を“商品”扱いしている間、
この人たちは普通に創作している。
所有権やら権利争いなんて気にせず、ただ作りたいから作っている。
(これだよ、文明を前に進めるのは)
◆ 最後の警告(誰も聞いてない)
利権村のビルに向かって、俺は一応だけ言っておく。
「おーい、聞こえるかー。
文化ってのは“囲うほど弱る”んだよー。
開放した方が強くなるんだよー。
所有物じゃなく“流れ”なんだよー」
もちろん、誰も聞いていない。
ビルの中からは怒号だけが聞こえる。
「うちの文体を侵害したなあああ!!!」
「構図派は地獄に落ちろ!!」
「色彩派が予算全部持ってった!!」
「未来人はどこだあああああ!!」
(……終了のお知らせだな)
◆ 未来人、静かに未来へ帰還
任務用端末に帰還信号を送る。
【帰還しますか?】
→ はい
視界が光に包まれる。
利権村のビルが遠くなっていく。
「……最後に一つだけ言っとくか」
光に飲み込まれる直前、俺はつぶやいた。
「文化を囲えば滅びる。
文化を開けば、文明は強くなる。」
これが未来人の結論だ。
◆ エピローグ:未来の歴史書より
21世紀文化停滞は、利権構造の暴走と自己崩壊により終息した。
文化はその後、AI技術とオープンソース化によって大きく発展する。
“囲い込み文明”は、歴史上もっとも効率の悪い文化モデルとして記録される。
未来人の短い滞在は、
後世ではこう記される。
「ただ観察して帰っただけだが、
その観察結果は文明の転換点となった」




