【第4章】未来人、正体がバレてなぜか神格化される
利権村会議室から脱出を試みていた俺。
しかし椅子ごと後退する作戦は、まさかの失敗に終わった。
「おい待て新人……その名札、なんだ?」
え、今?
名札に書かれていたのは、未来政府のロゴと俺の名前。
そして堂々と刻まれた文字。
【来歴:未来文明評議会出身】
(いや隠す気なかったの俺!?)
「お、お前……本物の未来人なのか……?」
会議室が一瞬で静まり返る。
(あ、これ面倒くさいやつだわ)
そして──
「未来では! 我々の活動はどう評価されている!?」
(いやな質問きた)
「えっと……活動というか……
“21世紀の文化停滞の象徴”として有名です」
「……」
「……」
「……聞こえなかった。もう一度頼む」
(逃げる気ゼロ!?)
「だから、“停滞の象徴”……」
「よし!! 未来人お墨付き!!」
「違うわ!!?!?!」
◆ 謎の解釈で未来人を神格化し始める利権村
「未来から使者が来たということは……
我らの文化独占政策が未来を左右する証拠だ!!」
「歴史に名前が残るのだ!!」
(いや残るけど、“失敗例”ってラベル付きだぞ!?)
「おい誰か! 未来人の発言を議事録に残せ!!
“停滞の象徴”という未来の評価!!」
「やっぱり我々は歴史に残る重大な存在なんだ!!」
「偉人じゃん!!」
(いや悪い意味だから!! 宗教戦争の張本人みたいな扱いだから!!)
◆ 未来人、説得を試みるも失敗
「ちょっと落ち着いて聞いてくれ。
あのな、未来では“文化囲い込みモデル”は完全に破綻して──」
「破綻!?つまり未来でも影響力があったということか!!」
「……いや、そうじゃなくて」
「破綻するほど巨大だった我々!!」
「伝説じゃん!!」
(ポジティブ変換が強すぎる)
「じゃあお前、未来ではどういう制度になってるんだ?
文化は保護されてるんだろ?」
「共有されてます。全部オープンです」
「……」
「……なるほど。
未来は、我々の思想が“強すぎて反動が来た世界”ってことか!!」
(解釈の暴力やめろ)
◆ ついに崇拝モードに突入する利権村
「未来人! お前を“顧問”に任命する!!」
「未来の叡智を我らに授けよ!!」
「未来人ブランドでグッズ展開だ!!」
「文化保護連盟の“公式マスコット”にしよう!!」
「いや戦隊ヒーローにするのもアリだな!!
“権利マン”とか!!」
(権利マンだけは絶対嫌だ)
「未来人! サインしろ! 売る!!」
(すごい速さで商売にするな!!)
「未来人の知的財産を守るのは我々だ!!」
(守るじゃなくて囲い込むだろ!!)
◆ 未来人、ついに気づく
俺はとうとう悟った。
(……話が通じない。
この時代の“利権を握る者”は、議論や理性では動かない)
未来の資料にあった一節が頭をよぎる。
“利権構造の崩壊は外部から起こらない。
内部の自己肥大によって自然に崩れる。”
(……あ、実演してる……目の前で……)
◆ 会議室はさらに暴走
「未来人の時間移動方式の“使用料”をどう取るか考えよう!」
「いやそれ未来技術だろ!!」
「でも未来から来たやつの技術は全部現代で特許取れる!!」
「特許庁に駆け込めええええ!!」
(お前ら未来技術まで搾取し始めるの!?)
◆ 未来人、深く静かに心の中で呟く
(……こいつらが未来で“反面教師”として教科書に載った理由、
今、全部わかったわ)
俺は席を立った。
これ以上ここにいたら、
未来人として歴史に“巻き込まれ事故”で載る可能性がある。
(……早く任務終えて、未来に帰ろ)
そして俺は静かに会議室を後にした。
背後ではまだ利権村の叫び声が響いている。
「未来人様ァァァァ!!サインだけでもォォォ!!」
(二度と来ねぇ)




