【第1章】未来人、間違えて利権本部に召喚される
光った。
いや、正確には、俺の視界のすべてが“著作権法第○○条”とか“文化保護会議”みたいな文字で満たされた。
未来政府から受けた任務は「21世紀の文化停滞の原因を調査せよ」だったはずなんだけど……。
「……どこだここ」
会議室。
長机。
スーツ。
スーツ。
スーツ(しかいない)。
椅子に座ってる全員が、何かの資料を睨んでる。
そして、その資料のタイトルが──
『第142回 著作権利権連盟 囲い込み戦略会議』
俺、到着1秒で帰りたい。
「お、君が新人か。未来から来たんだろ?」
「いや、勝手に決めないでほしいんだが」
「いいっていいって! “未来人キャラ”ってウケるから!」
いや、ウケ狙いで未来から来たわけじゃない。
「じゃ、隣座って。今日の議題は“文化の独占化の推進”だ」
は?
俺は言われるまま席に座った。けど、目の前のスライドがもうダメだった。
『AI殲滅ロードマップ2025』
『構図の商標化について』
『キャラクターの輪郭線所有権問題』
『色彩使用料の徴収制度』
『SNS監視による文化保護活動』
いやいやいやいや。
「お前ら文化を殺しにかかってるの? 保護じゃなくて?」
「あー、新人くん。ここは“文化を守るために文化を囲い込む”団体だから」
「矛盾してない?」
「してない! むしろ囲えば囲うほど文化は安全なんだ!」
未来の用語で言うと“文明殺戮の論理”である。
「そもそも文化って共有財じゃないの?」
「共有? HAHAHA。共有なんてしたら……儲からないじゃん?」
「露骨に金の話!」
21世紀の闇、濃すぎる。
とりあえず、俺は黙って観察モードに入った。
「ではまず、AIを使った創作を全面禁止する案について……」
「いいぞ! あいつらデータ読んでるだけでズルい!」
「ズルいって発想が小学生なんだが」
「構図を真似されたら困るんだよ! 過去の偉人の構図を参考にして何が悪い!」
「お前もしてんじゃねえか!」
会議が既に自傷で溢れている。
「あの、そもそも構図って自然現象では」
「自然現象でも俺のものだ!」
「え、山の写真勝手に見たら怒るタイプ?」
「怒るね! 景色にも使用料を払え!」
本気かよ。
俺は未来人として冷静に状況分析を試みたが──
この時代の“文化を所有物として扱う思想”は、未来で淘汰された最悪の失敗例そのものだった。
(……やばい。ここ、文明の末期だ)
そう悟った瞬間──
「新人くん! 明日の炎上対策資料も頼むわ!」
「え、俺もう利権側扱い?」
「君の“未来人キャラ”で広告打つ予定だから!」
俺は思った。
(……誤着地しただけで、人生終わりそうなんだが?)




