第七話 女皇
あたり一帯の木や岩がとんでもない速度で飛んでくる。
私は避けるので精いっぱいだ。
「あははっ!ちゃんと避けないと死んじゃうよ~!」
「本当に頭の悪い戦い方だね!」
ヴィリアールの魔術はいたって単純なものだ。
自身の周囲にあるものを自由に操ることができる、浮遊魔術。
彼女は浮遊魔術で周囲のものを投擲して戦う。
膨大な魔力出力であるために、浮かせられないものなどない。
さっきから森に生えている木を次々と引き抜いて投げてくる。
しかも投げつけてくるものは全て魔力で強化されている。
まさに大砲、もちろん一発でもモロに食らえば即死。
いわゆるクソゲーである。
「さっきから避けてばっかりでつまんないよ?反撃しないの?」
「それができたら苦労してない!」
私が回避に専念している理由。
それは単に反撃の手段がないからだ。
どこぞの死神騎士に短剣を二つとも砕かれたので、武器が弓しかない。
弓を使おうにもこんな弾幕を躱しながらでは狙いは定まらない。
そもそも矢は3本しかない。
「あのクソ騎士め…次会ったらただじゃおかないから!」
「自分の心配をしないとだよ、アイラ。」
前方から三本の大木が飛んでくるのを、間一髪で身をよじって躱す。
その次の瞬間に右から大きな岩が飛んでくるも、何とか横へ飛んでやり過ごす。
ひたすらにでたらめな数の弾幕を躱し続ける。
「もー、なかなかにしぶといなぁ。お姉ちゃんには勝てないってわかってるでしょ?もうあきらめなよぉ。」
ヴィリアールの猛攻がさらに速度を増す。
これはまずい。
大きな投擲物なら避けることができるが、小石などの小さなものはさすがに躱しきれない。
もうすでにいくつもの小石が私の体を貫通している。
失血で動けなくなるのも時間の問題だ。
「これしかない…!」
「何をやっても無駄…ふぇ?」
私は弾幕を躱し、一気に跳躍。
一瞬だけヴィリアールの視界から外れた。
この距離、このタイミング…絶対に外さない!
「壊レタ一矢!」
ヴィリアールめがけて矢を放つ。
魔力で極限まで強化された矢の威力はまさに雷となる。
森に閃光が迸り、巨大な爆発が巻き起こる。
あの距離であれば不可避、そして必殺の一撃だ。
これを受けて生きているはずがない。
この一撃こそ、私が英雄と、戦姫と呼ばれた所以だった。
ここまで読んでくださっている方々、本当にありがとうございます。
最近は非常に暑い日が続いておりますので、熱中症にご注意してお過ごしください。