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永夜の流星  作者: Ragna
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第六十四話 人形

最悪の状況だ――そう感じた。


仕組みは分からない。

それでも、私の目の前には同じ顔が二つ並んでいる。


「今すぐ消えてほしいかな。さもないと……殺す」


私に明確な敵意を向ける女――おそらく、戦姫アイラ・フォード。

どうやって受肉したのだろう。

いや、それよりも――


「あなた、()()()()()()()のね」


「へぇ、分かるんだ。さすが天才」


強制的な受肉。

誰かが戦姫に肉体を与えた。

だが、わざわざ奪った魂に自由を与えるとは思えない。

そして――この手口を、私は知っている。


「……傀儡術マリオネットか」


相手の大切な人を操り、戦わせる。

自身は一切姿を現さない。

この非人道的で残酷な手口――

かの傀儡術師のやり方だ。


「さ、選んでよ。私に殺されるか、ここから消えるか」


「私とはお喋りしてくれないの?」


「私は君に興味ない」


……かなりやばい。


トアはさっきから幼子のように、戦姫の背後でへたり込んでいる。

あの様子では戦力にならない。

しかも私は今、《因果ノ彼方いんがのかなた》が使えない。

分が悪すぎる。

かといってここでこいつを野放しにもできない。


「まあ……この程度の逆行、なんてことないわ」


一気に魔力を練り上げ、術式を構築する。

固有魔術が使えるようになるまで耐えれば、まだ勝機はある。


――そう思った瞬間だった。


 


「それだけは許さない」


「うっ……!」


鋭い痛みが腹部を貫く。

戦姫は、まったく動いていない。

それなのに、私の腹には短剣が突き立っていた。


「アイラに手は出させない。絶対に」


「あーもう……最悪。げほっ……詰みじゃない……」


私に短剣を刺した人物――

トアを睨みつけながら、私は膝をつく。

トアの狂信的なアイラへの感情を、考慮すべきだった。


「ありがと、トア。さすがだね」


「……えへへ。任せてよ」


アイラとトアが、こちらへ歩み寄ってくる。

固有魔術は、まだ回復していない。

腹の傷も、ひどく痛む。


ほぼ詰みだ。


「恩知らず……ね……。誰が……体を治したと……」


「アイラを傷つける奴は誰であっても私の敵。マリアベル、あなたでも」


短剣を引き抜き、治癒魔術を全開にする。

こうなったら、奥の手を使うしかない。

本当に癪だけど。


「アイラ、ちょっと待っててね。すぐ終わるから」


「無理しないでね。油断も駄目だよ」

もうトアは、完全に私を敵と認識している。

このレベルの相手に、傷を治しながらでは長く持たない。


間に合うかどうか――賭けだ。


「殺す前に……教えてもらえないかしら。申し訳なさとか……ないの?」


「私の大切な人を傷つけようとしたのが悪いんだよ」


「私はあなたを……助けてあげたのに?」


「それには感謝してる。でも、関係ない」


トアが指を鳴らすと、大気が凍りつく。

パキパキと音を立てて、氷が生成されていく。

これ以上の時間稼ぎは厳しい。

ならいっそ自棄だ。


「……じゃあ最後の質問。世界の真ん中にあるものは何でしょう?」


「……は?」


「はい、私の勝ち」


次の刹那、トアの体が勢いよく吹き飛んだ。

どうやら、時間稼ぎは成功したらしい。


「トア! 何が……」


「残念だったわね、戦姫さん。詰みよ」


「……!? うぐっ……!」


戦姫もまた、トアと同じように後方へ吹き飛ばされる。

形勢逆転だ。


「マリアベル・エイル! 何をした……!」


「私は何もしてないわよ。私はね」



なんとか立ち上がった戦姫を、私は嗤う。

そんな余裕があるのかって?

ある。だって、もう私の仕事は終わったから。


「ここからは……私の仕事です」


空間が揺らめき、私の隣に姿を現した人物がそう告げる。

私と瓜二つの容姿をした、長剣を携えた少女。

頼りたくはなかったけれど……仕方ない。


あとは、任せればいい。


「あとは任せるわ……アイリ」


「任せて、マリアちゃん」


この世には、絶対に忘れてはならないことがある。


――私の妹を、敵に回してはならない。


それは、安寧を得るための鉄則だ。

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