第六十三話 幻惑
大爆発によって砂煙が舞い上がる。
轟音と閃光に頭が割れそうだ。
それでも――どうにか結界は持ちこたえたらしい。
「マリアベル、無事?」
「ええ、おかげさまで」
マリアベルがぴんぴんしているのを確認し、腰のベルトからスピカを引き抜く。
さっきの爆発……いや、攻撃か。
とんでもない出力だった。
それに、周囲を満たす禍々しい殺気。
レインとは、比べものにならない相手だ。
「まずい……これは想定外……」
「……」
膨大な魔力が、少しずつこちらへ近づいてくる。
逃げるべきか……いや、駄目だ。
逃げながら、あの攻撃を防ぐことはできない。
今、ここでやるしかない。
「トア、悪いけれど手伝ってあげられないから」
「はぁ? そんなこと言ってる場合?」
「仕方ないのよ。私、しばらく固有魔術を使えない」
なるほど、理解した。
因果干渉なんて、馬鹿げた力だ。
そう何度も使えるものではないのだろう。
「……別に手助けしてもらわなくたっていい。私の方が強い」
「だといいけど……」
どうせ、いつかは倒さなければならない敵だ。
早いうちにやっておくに越したことはない。
サクッと終わらせて――
「……あれを、防ぎ切ったんだ」
砂煙の中から現れた人物を見た瞬間、思考が止まった。
息が荒くなり、力が抜ける。
そんな……ありえない。
「トアは強いね。私と違って」
青い髪を後ろで束ね、大きな弓を持った女。
一度も忘れたことがない。
いや、忘れようがない。
だって――私と、まったく同じなのだから。
「ねぇ、トア。私に会いたかった?」
そう問われた次の瞬間、私は膝から崩れ落ちた。
ありえない。
魂が二つあろうと、体は一つのはずなのに。
「なん……で……ここに……」
「トアに会うためだよ。もしかして、会いたくなかった?」
女が歩み寄り、私の頬を撫でる。
暖かい手。
生きている人間の手だ。
幻なんかじゃない。
「会いたくない……わけない……。ずっと……助けに行こうと……」
「ごめん。私が負けちゃったから、トアまでこんなボロボロになって」
その女……いや、その子の腕が、私を包んだ。
心臓の鼓動が、痛いほど鳴り響く。
視界が揺れ、指先が震える。
「でも、なんで……体は……」
「いろいろあったんだ。おんなじ顔だと、変な感じだね」
確かに、同じ顔の人間が抱き合っているのは異様な光景かもしれない。
でも、そんなことどうだっていい。
やっと、会えたのだから。
「もう……どこにもいかない……?」
「一緒にいるよ。だから……邪魔しないでくれるかな」
冷たい声だった。
私に話しかけていたときとは、まるで違う。
ありったけの殺気を孕んだ声。
「……あら、私は仲間に入れてくれないのね」
「マリアベル・エイル。君は信用に値しないからね」
「その言葉、そっくりそのままお返しするわ、戦姫さん」
マリアベルの方を見ると、明らかに戦闘態勢だ。
やめさせないと……この子は敵じゃないのに。
「マリアベル、やめて。この子を傷つけるのは、私が許さない」
「呆けるのも大概にして。その女から、さっさと離れなさい」
離れろ、だって?
冗談じゃない。
ようやく、会えたのに。
「今すぐ離れて。その女は危険よ」
「はぁ……エイル家の人間には、手を出したくないんだけどな」
彼女は私から離れ、立ち上がる。
その手には、いつの間にか短剣が握られていた。
「今すぐ消えてほしいかな。さもないと……殺す」
彼女――アイラ・フォードは、冷たい声でそう宣言した。




