第六十二話 閃光
「くそっ……因果の書き換えだと……? そんなはずは……」
私の氷に拘束されたレインが、悪態をつく。
まあ、気持ちは少し理解できる。いくら固有魔術とはいえ、因果に干渉するなど反則そのものだ。
「お兄様から私の魔術を聞き出したのでしょうけど、それが命取りになったわね」
マリアベルは満面の笑みを浮かべている。
どうやら彼女は、前々から根回しをしていたらしい。
「クソッ……あの男が謀ったのか……! ルディアラスめ……!」
「あら、お兄様を悪く言わないでちょうだい。私が嘘をつくように頼んだのだし」
情報を制する者が戦いを制す、とはよく言ったものだ。
もしレインが因果干渉について知っていれば、結果は違っていたはずだ。
ともかく、反則と言えど勝ちは勝ちだ。
「お喋りはおしまい。マリアベル、どいて」
「もう殺すの? てっきり痛めつけるものと思ってたわ」
「私は別にこいつに興味はない。さっさと死んでくれた方がいい」
氷の剣を生成し、レインの前に立つ。
こいつを殺せば、敵はあと三人だ。
「ま、待て……! 僕が知っていることを全部話す! だから命は……!」
「みっともないね。私はアイラとは違って優しくないから」
「た、頼む! 蒼冠の行方を、僕は知ってる!」
「……黙れ、蛆虫」
虫唾が走る。
あの子のすべてを奪っておいて、自分だけ助かろうなど、ふざけているとしか言いようがない。
「お前の悲鳴は聞くに堪えない。だから一瞬で殺す」
「僕が悪かった……! なんでもするから……! だから……!」
五月蠅い。
五月蠅い五月蠅い五月蠅い五月蠅い。
さっさと殺してしまおう。
ありったけの殺意を刃に込め、振り上げ――
「トア、危ない!」
突然のことだった。
マリアベルが私に飛びつき、押し倒す。
ほぼ同時に、耳を貫く轟音と共に、目の前の地面が爆ぜた。
「痛っ……! 何が……」
そう言いかけた瞬間、言葉を失う。
目の前にあったのは、レイン……いや、レインだった“もの”。
上半身が消し飛び、原形を留めていないレインだった。
「これは……なんで……」
「しっかりして! 次が来る!」
その言葉で、ようやく我に返る。
刺すような殺気。
魔力を一気に練り上げる。
攻撃が来る――もう躱せない。
防ぎきるしかない。
「氷爛!」
魔力を解き放ち、氷の結界を展開する。
次の瞬間――
凄まじい爆発が、結界ごと私たちを飲み込んだ。
氷の壁が軋み、砕ける音が響く。
圧倒的な衝撃が、防壁に叩きつけられていた。




