第六十一話 因果律
「ええ、そうね。相手が悪かったわね。」
「ぐっ…!」
私は目を疑った。
ナイフがマリアベルの頭に当たる直前、レインが弾き飛ばされた。
マリアベルにまだこれほどの余力があったとは。
「まだ懲りていないのか。ならできる限り苦痛を与えてから殺してあげよう。」
「いいえ、結構よ。もう勝負はついたから。」
「自ら負けを認めれば、見逃してもらえるとでも?」
いや…違う。
私の目に映るマリアベルの顔には、自信が満ち溢れている。
これは勝ちを確信している顔だ。
「迷宮内にいる限り、僕は死なない。君の負けは最初から決まっていると、なぜわからないのか。」
「一つ訂正。迷宮の外なら私が勝つ。」
「はっ!ここから出られるとでも?」
マリアベルが笑い、指を鳴らした。
「ここから出るぐらい、造作もないわ!」
突然、迷宮が震え始める。
あちこちの壁にヒビが入り、壁が崩れていく。
信じられないけれど…迷宮が崩壊を始めている。
「あ、ありえない…!こんなことが…!」
「少し時間がかかっちゃったけど、これで広々と戦えるわ。」
「コピーできる固有魔術は3つまでのはず…何をした…!」
天井が砕け散り、青空が広がる。
完全に迷宮が崩壊した…でもマリアベルは一体何をしたのか。
私には一切見当もつかない。
「この世における全ての事象には因果がある。何かしらの『因』があって、『果』が起こるの。」
「まさか…そんなことができるはずが…」
「そのまさかよ。私は因果を捻じ曲げることができるの。」
なるほど…大迷宮を発動したという『因』と、迷宮が構築されたという『果』。
その因果関係を切った場合、迷宮が構築されたという結果が消える。
つまり因果を切れば、なんでもなかったことにできる。
「…反則でしょ。」
「誉め言葉として受け取手とくわね、トア。」
何というか、とてもうれしそうな顔をされた。
いや褒めてないんだけど。
「ありえない…そんな芸当、人間にできるわけがない!君の固有魔術はコピーのはず…!」
「あら、私のコピーが固有魔術だなんて誰が言ったのかしら。」
「なっ…!」
マリアベルはさらに笑みを深める。すっごい悪い顔だ。
「私の固有魔術は因果ノ彼方…見ての通り、因果律を捻じ曲げる能力よ。」
「な、ならあのコピーは…」
「あの程度自力で模倣してるに決まってるじゃない。私、天才なの。」
突っ込みどころしかない。
自力で固有魔術を模倣?天才とか、そういう次元じゃない。
生まれたての赤ん坊が法律の論議をするような芸当だ。
「あなたの敗因は、私と戦ったこと。そして私の流した偽の情報を信じ込んだことね。」
「まだだ…!迷宮は何度でも展開できる…!」
「それは無理ね。あなたもう詰んでるもの。」
レインが魔力を解き放つ…が、何も起こらない。
崩れ去った迷宮は、何の反応も起こさない。
「こんな…馬鹿な…!」
「因果を切ったのだから、当然でしょう?あなたはもう二度と迷宮を構築できない。」
「…反則だろう、それは。」
激しく同意する。
マリアベル・エイル…正直見くびっていた。
理不尽を押し付けてくる相手に対し、それ以上の理不尽で完全な勝利を収めた。
確かに天才としか言いようがない。
「言ったでしょう?私で十分勝てる相手だって。」
「…怪物じゃん。」
「私に言わせれば、トアの方が怪物なのだけれど?」
ともかく、これでレイン・ヴァイスを処理できる。
さあ、処刑の時間だ。




