表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永夜の流星  作者: Ragna
55/59

第五十五話 霧散

私の体は滅茶苦茶だった。

左腕の肘から先がなく、全身無理やり縫い合わせた傷で覆われている。

さらには魔力がすっからかん。

これで生きている方が不思議だ。


「縫った傷が閉じるまでは絶対安静、わかった?」


ミアは何度も私に念を押した。

本当に腹立たしい。

私が治癒魔術を使えればよかったのに。


「一つでも傷が開けば、今度こそ死ぬんだからね?」

「…しつこい。余計なお世話だよ。」


ミアを突っぱねて、私は布団に潜り込む。

あれから私はミアの家まで連れてこられた。

彼女曰く、ここは世界一安全らしい。


「何日かすれば、治癒魔術を使える知り合いが来てくれることになってるから。それまでは我慢してね。」

「…。」


返事をするのも億劫だ。

私は無視することにした。


「トアちゃん、これどうする?」

「…。」


ミアが何かを机の上に置いた。

布団の隙間からちらっと見てみると、それは折れた真っ黒な短剣だった。


「これ、アイラの剣なんだよね?折れちゃってるけど…。」

「スピカ…」

「アイリちゃんが、これはもう直せないって。」

「もう片方はどこ…?」


スピカは元々二本の短剣だ。

片方折れても、もう片方あればまだ使い物になるはず。


「…私がアイリちゃんから受け取ったのはこれだけなの。」

「…そう。」


もう一度布団を深く被る。

これで私はアイラの全てを壊してしまったことになる。

どうやら私はゴミ以下らしい。


「この剣…特殊な素材で出来てるんでしょ?どうやって作ったの?」

「…うるさい。」


どんどん鬱陶しくなってきた。

わざわざ教えてあげる義理もない。

あれはアイラが…。


「あれ…?」

「ト、トアちゃん!?」


いきなり跳ね起きた私を見たミアが驚いた表情を浮かべる。

いや、ミアなんて今はどうでもいい。

もっと大変なことが起こっている。


「思い出せない…」

「だ、大丈夫?まだ寝てないと…」

「なんで何も思い出せないの…?私…なんで…」


アイラの魂が引き抜かれたからだろうか。

あったはずのものが、すっぽり抜け落ちている。

アイラの友人だというミアを覚えていなかった原因はこれか。


「ほ、ホントに大丈夫?きっとまだ混乱してるんだよ。」

「違う…。本当に思い出せない。()()()()()()がない…!」

「はぇ…?」


アイラの記憶が一切ない。

残っているのは、私が目覚めた後のこと…トアとしての記憶だけ。

その証拠に、私はスピカをどうやって手に入れたかが分からない。


「それってどういう…」

「これまで私とアイラは記憶を共有してた。なのに今はそれがない。」

「つまり記憶喪失ってこと?」


記憶喪失…そう聞いた瞬間、眩暈が襲ってきた。

私は思い出すら失ってしまったのか。

私が守ろうとしたものが全部壊れていく。

一体どうして…。


「なんで…私はこんなこと…」

「き、記憶喪失ならまだ思い出すかもしれないじゃん!」


ミアの言葉に対して、もう苛立つ気力もない。

もうどうすればいいのかわからない。

これならもういっそ死んだ方が…


「お生憎、その子の記憶は治んないわよ。」


知らない声が部屋に響いた。

筋の通った、力強い声だ。


「記憶の大半は魂に宿るの。アイラ・フォードの魂がないと、その記憶は戻らない。」


部屋の扉の方に目をやると、見覚えのある女がいる。

その顔を見た瞬間、私の腹の奥から憎悪が湧いて出てきた。

あの日私を置いていった…アイリーン・エイル。

この面は絶対に忘れない。


「アイリーン…!お前、よくも…!」

「と、トアちゃん落ち着いて!この子はアイリちゃんじゃないよ。」


立ち上がろうとしたのを、ミアに抑えられる。

今の私じゃ、この程度の力も振りほどけない。


「離して!こいつは殴らないと気が済まない!」

「だからこの子はアイリちゃんじゃないんだって。落ち着いて?」


アイリーンじゃないだって?

そんなわけがない。

顔も、魔力の質も同じ。

私が見間違うわけがない。


「はっ、ここまで酷い状態とは思ってなかったわ。」

「仕方ないよ。生きてるだけでも奇蹟なんだから。」

「お義姉様は相変わらず優しいのね。私ならさっさと見捨ててるわ。」


アイリーン?は私の寝ているベッドのすぐ横まで歩いてきた。

さっきから私を値踏みするような目で見ている。

本気で殴ってやりたい。


「私はマリアベル・エイル。アイリーンの双子の姉よ。」

「ふ、双子…!?」

「まあ初見じゃわかんないよねぇ。私も最初は間違えたし。」


分かるわけない。

私が見て取れる特徴、そのすべてがアイリーンと一致している。

これが別人とか、冗談もいいところだ。


「トア…だっけ?わざわざあなたを治しに来てあげたんだから、感謝してよね。」


アイリーン…いや、マリアベルと名乗ったその女は、混乱している私を気にする様子もなく、不敵な笑みを浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ