第五十二話 崩壊
「しぶといにもほどがあるな。よくこの傷で生きてたもんだ。」
「ウル、言い方。女の子相手にそんなこと言わんとって。」
「いやいや、俺はてっきり失血死してるものだと思ってた。」
「ウル、あんた…モテへんやろ。」
何やらうるさい。
誰かが騒いでいる。
もう少し寝かせてくれないかな。
まだ私は…ちょっと待って。
なんで私は寝ているの?
それに気づいた瞬間、意識が一気に戻ってきた。
「あ…れ…?」
「あ!アイラ起きたで!」
「ここ…は…?」
体が重くて、呂律が回らない。
全身がとんでもなく痛い。
視界もぼんやりしている。
「ここは王国領のカザンだよ。ここならしばらくは安全だ。」
「あいつは…?」
「蒼冠なら振り切ったで。ほんま生きてて良かったわ。」
ああ、そうか。
私は失敗したんだ。
何もできなかったんだ。
「寝たまま聞いてくれ。残念だが…君の左腕は治せない。」
「なおせない…?」
「ああ。斬られた腕が残っていたら引っ付けられたかもしれないが…」
「…。」
もう双剣を扱えない。
弓を引くことも出来ない。
これからどうすればいいんだろうか。
「どこかで義手を手に入れることができればいいが…」
「それはウチに任せとき。知り合いに義手を作れる奴が…あ、アイラ?」
「アイラ、まだ寝ていないとだめだ。安静に…」
二人の制止を振り切って立ち上がる。
ウルの話を聞いている最中に、腕よりも大切なことに気づいてしまった。
私は取り返しのつかないことをしてしまった。
なんでこんなことになったんだ。
「アイラ!どこ行くんや!」
「もう…どうでもいい。私は…私は…」
「生きてたんやから、まだどうにでもなる!なんも終わってないやろ!」
「もう…どうにもならない。私のせいで…」
何もできなかった。
なんで私は存在しているんだ。
こんなことにならないために、私がいたはずなのに…。
「ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…!」
「あ、アイラ?一度落ち着いて…」
「私のせいで…!私が無能だったから…!」
頭を力いっぱい床に叩きつける。
何もできない無能なら死んでしまえ。
生き恥を晒すな!
「ま、待って…あんた、誰や?」
「リア、こんな時に冗談は…」
「冗談やない。これ…アイラやない。アイラはこんな目してない。」
「ここにいるアイラ・フォードが偽物だとでもいうのか?」
「なんとなくやけど…ウチの知ってるアイラやない。」
私はアイラなんかじゃない。
アイラを守る力を持っていると勘違いしていた、傲慢で無能な粗悪品だ。
私の傲りがすべてを壊してしまった。
もう壊れたものは元に戻らない。
「じゃあアイラはどこに…」
「…死んだ。」
「…は?」
「アイラは…死んだ。」




