第五十一話 救出
「な、なあ…ほんまに上手くいくんか?」
「今は信じるしかない。俺たちが出て行っても返り討ちだ。」
俺とリアが目を覚ますと、アイラが行方を眩ませていた。
ただ、彼女の性格的に一人で突っ走ることはある程度予想ができていた。
だから何とか居場所を特定することができた…が、まさか追いついたときにはすでに死にかけているとは思わなかった。
察するに、あの銀髪の女に負けたのだろう。
あいつは戦ってはいけない部類の怪物だ。
だからこうやって茂みに隠れているわけだが。
本当に万が一の保険を用意していた自分に感謝してほしいところだ。
「アイラは助かるんやんな?」
「だから信じるしかないって言ってるだろう。彼女の実力はリアも知ってるはずだ。」
「そ、そやけど…あの子頼りない感じやん?」
なんともまあ失礼なことを言う。
俺が彼女の協力を取り付けるのに、どれだけ苦労したと思ってるんだ。
少しはこっちの労力を知ってほしいものだ。
「いいかげん、でてきたら?ずっと、みえてる。」
「おっと…これはまずい。」
最初から俺とリアは認知されていたらしい。
これはみんな揃って死ぬかもしれないな。
「言っとくけどな。全滅するようなことになったら、ウチがあんた殺すで。」
「その時は僕より先にリアが殺されてることを願うよ。」
ともかく今は時間を稼ぐ。
こう見えて口は達者な方だ。
覚悟を決めて茂みから出て、銀髪に向き合った。
「あなたたち、だれ?」
「ただの通りすがりだ。妻と旅をしていてね。」
腰に鋭い蹴りが飛んできた。
痛い。
「ウル、次はないで。」
「少しくらい合わせてくれてもいいんじゃないかな…?」
「嫌や。そもそもどうやっても夫婦には見えんやろ。」
「へんなひとたち。」
戦闘になれば俺は即死だ。
リアでも長くは持たない。
会話に乗ってくれないと、どのみち全滅だ。
「それで、そこで倒れてる人は?あんたがやったのか?」
「あなたたちは、しらなくていい。」
「連れないなぁ。せっかく会えたんだ、もっと打ち解けてもよくないか?」
「あなたたちは、いまからころすから。しゃべらなくて、いい。」
やはりこの類の相手に、時間稼ぎは難易度が高い。
発言一つで死に直結する。
考えろ、どうすれば奴の気を引ける?
「じゃあ死ぬ前にちょっと聞かせてもらうわ。あんた、蒼冠やな?」
「あなた、きょうわこくのひと?ものしり、すごい。」
「ほなもう一つ。あんた、アオイ・キタサキって名前に聞き覚えは?」
リアが質問した瞬間、周囲の空気が変わった。
吐き気を催すほどおぞましい殺気。
どうやらリアは竜の尾を踏んでしまったらしい。
「おまえ、そのなまえを、どこでしった?」
「さぁ、どこやろなぁ。どのみちあんたに教える義理なんかない。」
「おいおいリア、君のせいで死ぬことになったら許さないからな。」
「そら知らんわ。自力でどうにかしたらどうや?」
さっき自分の言ったことを忘れてるのかこいつは。
まあそんなことはどうでもいいとしよう。
本格的にまずい状況になってきた。
誰かさんのせいで、これ以上引き延ばすのは無理だ。
「じゃあ、しんで。」
「今日は誰も死にません。いえ…死なせません。」
「…!?」
突如、清らかな声がしたのと同時に、銀髪の化け物の動きが完全に静止した。
どうやら保険が間に合ったらしい。
清らかな声の主…助っ人の力は何度見ても怪物じみている。
姿を見せないあたり、以前よりも能力が向上しているらしい。
「ウルさん、急いで離脱してください。戦姫さんは私が連れていきます。」
「ああ、助かった。後で落ち合おう。」
「いやぁ…驚いたわ。ほんまに上手くいくと思ってなかった。」
「さっさと行くぞ、リア。口より足を動かしてくれ。」
作戦は上手くいった。
ならこんな場所にもう用はない。
もうこんな危ない賭けをしないでいいことを願いつつ、俺とリアは全力疾走した。




