第四十五話 死の騎士
魔力探知で感知した魔力は2つ。
一つはリアのものだ。
かなり衰弱しているけれど、まだ生きている。
今ならまだ間に合う。
そしてもう一つの魔力は…
「まずい…リアに接触される。」
2つの魔力がほとんど同じ位置にある。
今リアを攻撃されるわけにはいかない。
「流星…!」
魔力を増幅して速度を上げる。
なんとしても間に合わせなければ。
『危ない!』
トアの声が響く。
それと同時に腹部に激痛が走り、後方へ弾き飛ばされた。
何も見えなかった。
何をされた…?
「げほっ…これは…」
『アイラ早く立って!次が来る!』
勘だけで右に飛ぶ。
その直後に私のいた場所が抉れた。
抉れた地面を見るに、おそらく斬撃のような攻撃。
不可視の斬撃…思い出した。
あいつだ。
「誰か知らないが、俺の攻撃を躱すってことは相当な手練れだな。」
「…死神騎士!」
真っ黒な服に真っ黒な髪、そして真っ黒な目。
あの日私を見逃したあの死神騎士、ウル・ラディアだ。
「俺の仕事を邪魔しないでもらえると助か…る?」
あ、こいつ気づいたな。
「…久しぶりだね。」
「キミ…よく生きてたね。てっきり殺されたと思ってたよ。」
「何?馬鹿にしてる?」
やっぱり私はこいつが嫌いだ。
舐めた態度しやがって。
「それで?私と闘るの?」
「…いいや。さっきは不意打ちが決まったが、次は躱すだろう?負ける勝負はしない主義だよ。」
「ならそこをどいて。時間を無駄にしてる場合じゃない。」
私はウルをにらむ。
もしどかないなら、首をはねてやる。
この距離なら瞬殺できる。
「…随分気味の悪い殺気だね。以前とは比べ物にならない。」
「二度は言わない、退け。」
「分かったよ。ここで死にたくはないから、君の邪魔はしない。」
ウルが一歩下がる。
どうやら聞き分けはいいみたいだ。
私は一気に地面を蹴って走り出す。
一刻も早くリアの元に行かなければ。
『あの男…変な感じだね。魔力が少し異質だったよ。』
「今その話必要?後にして。」
「一体誰と喋っているんだい?」
ぎょっとして後ろを振り向いてみると、ウルが私についてきている。
なんでついてくるんだよ。
「ついてこないでくんない?」
「俺はキミの邪魔をしない、としか言ってない。君にはいろいろと聞きたいことがあるからね。」
「…勝手にして。」
とは言いつつ少し癪なので、走るスピードを上げる。
色々聞きたいって言われたって、私もわからないことだらけなのだ。
そもそも、ウルはレインとつながっているようだったし、むやみに接触したくない。
そんなことを考えながら走っていると、倒れている女の子が見えた。
「リア…!」
急いでリアに駆け寄って、状態を確認する。
意識はないが、まだ生きてる。
でも息が浅い。
内臓をやられているのか、酷い吐血だ。
このままでは助からない。
「まずいまずいまずい…どうすれば…」
「その子、酷い状態だな。このままじゃ死ぬよ。」
「黙って。そんなの分かってる…!」
この近くに回復術師はいない。
私は回復魔術を扱えない。
どうすればいい?
どうすればリアを助けられる?
「…これを使うといい。」
いきなりウルが緑の綺麗な石のようなものを投げてよこした。
一目見ただけでわかる。
この石にはとんでもない量の魔力が内包されている。
「これは…?」
「神聖魔術を封じた宝石だよ。生きてさえいればどんな傷でも治せる。」
「…ありがと。」
リアの上体を起こして石を砕く。
石を砕いた瞬間、リアの体が緑色の光で包まれた。
それに伴ってリアの顔色が少しずつ良くなっていく。
「これなら助かるだろう?」
「…これで2つも借りを作っちゃったね。」
「気にしないでいい。その子を助けた方が面白くなりそうだから。」
いけ好かない奴だけど、私はウルに二度も助けられた。
一生をかけても返せないような恩だ。
私が思っているほど、この男は悪い人間ではないのかもしれない。
それでもこいつは無償で人に尽くすような人間ではないはず。
なにを私に求めるのか心配でならないが、今はリアが助かったことを喜ぶとしよう。




