第四十話 暗転
「リア!」
リアが殴り飛ばされ、見えなくなる。
助けに行かなければ。
あれが直撃して無事なはずがない。
「くそっ!邪魔だ!」
私は必死にもがくが、ツタは外れない。
獅子王がこちらに歩いてくる。
急げ急げ急げ!
「抜け出すのは不可能だよ。そのツタは大迷宮で具現化させた物だから、破壊不可の規則を付与してある。」
「黙れ!これを解け!殺してやる!」
「はっ!随分と元気ではないか。さて、戦姫よ。いい加減諦めてはどうだ?」
私は顔を上げて、二人を睨みつける。
その笑み…反吐が出る。
今すぐ殺してやりたい。
「本当は帝国で捕えるつもりだったんだけどね。君が僕のことを認知していたのが誤算だった。」
「殺してやる殺してやる殺してやる…!」
「諦めろ。貴様では俺に勝てん。」
いつもそうだ。
私は肝心な時に勝てない。
役に立たない。
私を陥れ、姉を殺し、友を傷つけた奴の仲間が目の前にいる。
私の人生を無茶苦茶にした元凶が目の前にいるんだ。
なのに私には抗う力がない。
ふざけるなふざけるな。
そんな無能なら死んでしまえ。
「…ほう?貴様、掴みかけているな?」
「レオ?何を言って…」
こいつらはここで殺さないとダメだ。
こいつらが生きている限り、この世に平安は訪れない。
…いや、平安なんてどうでもいい。
私から全て奪った奴らを八つ裂きにしてやりたい。
私と同じ目に遭わせたい。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す。
「つくづく面白い奴め。蛆虫でありながら、こちら側へ来るか。」
「…殺す。」
頭の中で声が聞こえる。
〈殺せばいい。私にはそれが出来る。〉
五月蝿い。
黙ってろ。
言われなくても殺す。
〈捨てればいい。使命も誇りも、何もかも。〉
私の中で何かが切り替わっていく音がする。
体がどんどん軽くなる。
私の中に何かがある。
真っ黒で、冷たいもの。
〈委ねればいい。全ては私たちのため。〉
視界がぼやける。
頭が痛い。
耳鳴りがする。
眩暈がする。
でもなぜか辛くはない。
あぁ、全て委ねればいいのか。
もう何かに耐える必要はない。
「〈壊せばいい。邪魔な物は、何もかも。〉」
声が重なる。
私の中にあるものを縛っていた鎖が砕ける音がする、
何がどうなっているのかはわからない。
でも…最高の気分だ。




