第三十六話 大迷宮
「…まさかここまで性格が悪いとは思わなかった。」
「やばすぎやなぁ…」
二人で王国に乗り込むと決めてから数日後。
私とリアはクーゲル王国とラント共和国の国境まで来ていた。
ここから一歩でも踏み出せば王国領…なのだが本気で入りたくなくなった。
「まさか王国全土に大迷宮を張り巡らせるなんて…」
ここまで大々的に魔力を使っていれば、誰でも感じ取れる。
あの馬鹿野郎は王国領を大迷宮ですっぽり覆ってしまったらしい。
つまり、一歩でも足を踏み入れればやつの胃袋に入ってしまうようなものだ。
「んでどうするん?帰る?」
「正直帰りたい。けどそういうわけにもいかないでしょ。」
「しゃーないなぁ。ほな行こか、地獄。」
二人でため息をつく。
どのみち私に逃げるなんて選択肢はない。
ここまで挑発的で見え見えの罠を張ってくれたんだ。
お礼をしに行かないと。
「離れないでよ?」
「離れたないわ。ほな行くで?」
二人同時に足を踏み入れる。
それと同時に周囲の風景が一変した。
「…一応確認するんだけどさ。私たち森にいたよね?」
「せやな?」
「それで、ここは?」
「見ての通り迷宮やろ。」
煉瓦造りのような壁の通路。
やっぱりこうなるよね。
どうやら大迷宮の中に閉じ込められたらしい。
「はぁ…先ずは出口探すところからやな。」
「すっごい言いにくいんだけどね?あいつの迷宮には出口なんてないよ。」
レインの大迷宮は無限に続く迷宮を作り出す。
私も詳しくは知らないけど、本人曰く魔力の続く限り迷宮を拡大し続けることができるそうだ。
そしてあいつの魔力量は私やリアを軽く凌ぐ。
これが大迷宮が難攻不落である理由一つめだ。
「ほな壊すか。」
リアが刀を抜いて一閃。
金属音が迷宮を駆け抜けた。
「はぁ?なんこれ硬すぎやろ!」
「この迷宮の壁は壊せないよ。迷宮の主が定めた規則に壁を壊してはならない、っていうのがあるから。」
大迷宮が難攻不落である理由もう一つの理由。
それは『規則』だ。
迷宮内にいるものは誰であれ、レインの定めたルールに縛られる。
『規則』を定めるのにはある程度制約があるらしいが、それでも壁を壊せないなどの簡単な規則だけでも十分な脅威だ。
「え、詰んだ?」
「普通に考えれば詰んでるね。」
「普通に考えやんのなら?」
「詰んでない。」
そう、まだ諦めるのは早い。
ここに閉じ込められたのが私でなければ完全に詰みだ。
私でなければ。
「さてと、怪物の胃袋を内側からぶち壊してあげよう。」
私ならこの面倒な壁を壊せる。
私はスピカを抜いて壁に斬りつけた。
「はぁ…!?」
「これが秘策だよ、リア君。」
私はが斬りつけた壁は大きな音を立てながら崩れた。
リアが私に変人を見るような目を向けてくる。
なんかリアのそういう表情全部可愛い。
「なんで壊せ…あ〜わかったわ。魔力吸収や。」
「ご明察。スピカでならこの壁を壊せる。ここからは作業だよ。」
レインが迷宮を維持できなくなるまで、迷宮の魔力を吸い続ける。
簡単なお仕事だ。
もちろん相手がそれを黙認してくれるわけもないんだけど。
周囲の空間に魔物が湧き始めている。
あいつも焦り出したらしい。
「よっしゃ。こいつはの相手はウチやな。ちょうどストレス溜まってたんや。」
「存分に発散しておいで。ひたすら壁壊すから、背中任せたよ!」
「おっしゃ、仕事の時間や!」
魔物たちが一気に襲い来る。
ここからは我慢比べだ。
なんか私いつも我慢くらべしてない?




